Shuichiro Ogawa
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Notes ・ updated 2026-07-19

何を妥当と呼ぶのか

デザインの研究は、まだ存在しない人工物を作りながら、その過程と結果から知識を取り出そうとする。 この二重の性格が、方法論に固有の問いを突きつける。

一つの事例をどれだけ深く調べても、そこから何が言えるのか。 作品を一つ完成させたとき、完成したのは作品なのか、それとも知見なのか。 言語で記述した構造を、別の研究者がもう一度たどり直せるのか。 これらは、対象を測って統計で一般化する量的研究が答えを用意している問いとは、種類が違う。

デザイン研究の方法論は、この問いに一つの正解を与えてはこなかった。 代わりに、事例研究、Research through Design、構成的デザイン研究、混合研究法という複数の枠組みが、それぞれ答えの一部を分担してきた。 妥当性、信頼性、一般化可能性という古い語彙が、この分担のどこにどう効くのかは、枠組みによって変わる。 以下では、質か量かという軸(qualitative-quantitative-design-research で扱った)や、質的手法の主流性(design-research-methodology-mainstream で扱った)とは別の切り口から、この三つの問いと、それらを一つの研究に束ねる統合の問いに、文献を対応づけていく。

事例研究は、なぜ「代表性がない」批判に耐えるのか

デザイン研究は、少数の事例を深く追う設計をしばしば選ぶ。 統計的な標本抽出の論理からは、これは弱点に見える。 n が小さければ母集団を代表できず、一般化もできない、という批判が繰り返し向けられてきた。

Yin は2014年の『Case Study Research』で、この批判に方法論の枠組みごと応答した。 事例研究とは、現象と文脈の境界が明確でない現代的な現象を、その文脈の中で実証的に調べる探究の様式である1。 Yin はここで分析的一般化(analytic generalization)を、統計的一般化と対比して定式化した。 事例研究が一般化するのは母集団に向かってではなく、理論に向かってである。 標本から母数を推定するのではなく、事例が理論的命題を支持するか反証するかを問う。 だから n=1 でも、理論に対する反証としては十分に働きうる。

Eisenhardt は1989年の『Academy of Management Review』論文で、事例からの理論構築を手続きとして提示した2。 事例の選択は無作為ではなく、理論的な理由による理論的サンプリング(theoretical sampling)で行う。 極端な事例、対照的な事例を意図して選ぶことで、構成概念とその関係が浮かび上がる。 Eisenhardt は、複数事例を用いる場合に、事例内分析(within-case analysis)と事例横断のパターン探索(cross-case pattern search)を往復し、データと既存文献の双方に構成概念を突き合わせる手続きを示した。

この二人の議論は、事例研究の妥当性を統計とは別の論理に置く。 Yin の内的妥当性はパターン照合(pattern matching)と説明構築(explanation building)によって、外的妥当性は分析的一般化によって支えられる1。 「代表性がない」という批判は、事例研究が統計的一般化を目指していると誤読したときにだけ成り立つ。

作ることが、どうして調べることになるのか

事例研究は、すでにある対象を調べる。 デザイン研究にはもう一つ、作る行為そのものを研究の方法にする系統がある。

Frayling は1993年の Royal College of Art 研究紀要で、芸術とデザインにおける研究を三つに分けた3。 デザインについての研究(research into design)、デザインのための研究(research for design)、そしてデザインを通じた研究(research through design)である。 三つめは、制作の過程それ自体が探究であり、作られた人工物が知見を担うという主張を含む。 Frayling はこの区分を、材料研究や開発作業の事例を引きながら、まだ緩やかなスケッチとして提示した。

この緩やかな区分を HCI の研究方法として輪郭づけたのが、Zimmerman、Forlizzi、Evenson の2007年の CHI 論文である4。 彼らは Research through Design(RtD)を、デザイナーが作る人工物を通じて研究知見を生む方法として提案し、成果物が体現する知識を評価する基準として、過程(process)、発明(invention)、関連性(relevance)、拡張性(extensibility)の四つを挙げた。 拡張性とは、生み出された知見が文書化され、他者がその上に積み上げられる形になっていることを指す。 ここで RtD は、単なる制作から、蓄積可能な知識生産の様式へと近づく。

Zimmerman らは2010年の DIS 論文で、RtD の理論を批判的に検討し、この方法がまだ理論的モデルを欠いていること、研究コミュニティが RtD の成果を評価し文書化する共有の基準を持っていないことを課題として指摘した5。 作ることが調べることになるためには、作られたものが知見として他者に届く経路が要る。 2007年の四基準と2010年の自己批判は、その経路をめぐる同じ問いの両面である。

構成的デザイン研究は、実践を三つの場に開く

RtD が「作ることを通じた研究」を主張したのに対し、その主張を方法論として体系化したのが構成的デザイン研究である。

Koskinen、Zimmerman、Binder、Redström、Wensveen は2011年の『Design Research Through Practice』で、構成的デザイン研究(constructive design research)を、デザイン、構築、制作が知識探究の中心的な部分を占める研究として定義した6。 彼らはこの実践を三つの場に整理する。 統制された条件で仮説的な問いを検証する実験室(Lab)、人々の生活の文脈に入り込むフィールド(Field)、作品を展示し議論を喚起するショールーム(Showroom)である。 三つの場は、心理学的な実験の伝統、エスノグラフィの伝統、芸術とデザインの批評の伝統に、それぞれ対応する。

この三分法が方法論として効くのは、妥当性の基準が場によって変わることを明示する点にある。 実験室では統制と再現が、フィールドでは文脈への忠実さが、ショールームでは作品が引き起こす議論の質が、それぞれ知見の確からしさを支える。 Koskinen らは、デザイン研究が単一の認識論に自らを縛る必要はなく、問いに応じて場を選び、その場に固有の厳密さを引き受ければよいと論じた。 構成的デザイン研究は、Frayling の緩いスケッチと Zimmerman らの HCI 方法論を、実践の場という軸で束ね直した枠組みだといえる。

妥当性と信頼性は、二つの伝統で別々に鍛えられた

事例研究も RtD も、最終的には「その知見は確からしいか」という問いに答えなければならない。 確からしさを保証する語彙は、量的研究の伝統と質的研究の伝統で別々に発達した。

Cook と Campbell は1979年の『Quasi-Experimentation』で、実験を完全に統制できない現場の条件のもとで因果推論を守る枠組みを整えた7。 彼らは妥当性を四種に分ける。 統計的結論の妥当性、内的妥当性、構成概念妥当性、外的妥当性である。 とりわけ内的妥当性への脅威(history、maturation、selection、regression など)を体系化したことで、統制群を置けない準実験でも、どの脅威がどう混入しうるかを事前に点検できるようになった。 デザインの効果を実験で検証する段階は、この語彙の射程に入る。

質的研究には、この四種の妥当性がそのままでは当てはまらない。 Lincoln と Guba は1985年の『Naturalistic Inquiry』で、自然主義的探究に固有の信頼性(trustworthiness)の基準を提案した8。 量的研究の内的妥当性に対応する信用性(credibility)、外的妥当性に対応する転用可能性(transferability)、信頼性に対応する依存性(dependability)、客観性に対応する確認可能性(confirmability)の四つである。 これらは、現実が複数あり研究者と対象の相互作用を通じて構成されるという構成主義の存在論に合わせて、確からしさの意味を組み替えたものだ。 転用可能性は母集団への一般化ではなく、厚い記述を通じて読者が自らの文脈への移し替えを判断できることを指す。

二つの伝統は競合しているのではなく、確からしさを問う場所が違う。 Cook と Campbell の枠組みは、変数を操作し効果を測る場面で効く。 Lincoln と Guba の枠組みは、文脈を内側から記述する場面で効く。 デザイン研究が探索と評価を一つの過程に含む以上、どちらの語彙も要る。

事例からの一般化は、どこまで正当か

分析的一般化(Yin)と転用可能性(Lincoln & Guba)は、いずれも統計的一般化とは別の道で事例研究の外的な射程を確保しようとする。 だが「事例から一般化できる」という主張自体に、なお根強い疑いが向けられてきた。

Flyvbjerg は2006年の『Qualitative Inquiry』論文で、事例研究をめぐる五つの誤解を正面から取り上げた9。 なかでも方法論の核心に触れるのは、「一つの事例からは一般化できないので、科学的発展に寄与しない」という誤解への反論である。 Flyvbjerg は、周到に選ばれたクリティカルケース(critical case)が持つ力を示す。 ある命題が「この事例で成り立たないなら、どの事例でも成り立たない(あるいはその逆)」という位置に事例を選べば、単一事例が命題を反証しうる。 Galileo の落体の実験や Popper の白鳥の例を引きながら、Flyvbjerg は、形式的な一般化が科学的知識の唯一の源泉だという想定こそが過大評価だと論じた。

Flyvbjerg のもう一つの論点は、一般化と学習を切り離すことである。 事例が形式的に一般化できなくても、その事例が集合的な知識形成に寄与しないわけではない。 専門知は文脈依存の事例知の蓄積によって育つのであり、事例研究はその蓄積の様式として正当である。 この議論は、Yin の分析的一般化を別の角度から補強する。 Yin が「理論に向けて一般化する」と述べた手続きに、Flyvbjerg は「反証と学習の力を持つ事例の選び方」という根拠を与える。

混合研究法は、統合の論理を要求する

質的手法と量的手法は、確からしさを別々の場所で問う。 では、一つの研究の中で両者を使うとき、二つの答えはどう一つになるのか。

Tashakkori と Teddlie は2010年に『SAGE Handbook of Mixed Methods in Social & Behavioral Research』(2nd ed.) を編み、混合研究法を社会科学と行動科学における第三の方法論的運動として位置づけた10。 彼らは混合研究法を、質と量のデータ、分析、推論を単一の研究または連続した研究群の中で統合するアプローチとして体系化し、その認識論的基盤を、何が問いに答えるかを基準に方法を選ぶプラグマティズムに置いた。 この立場は、質か量かという二者択一を、問いへの適合という上位の基準のもとで解消しようとする。

Creswell と Plano Clark は2011年の『Designing and Conducting Mixed Methods Research』(2nd ed.) で、混合研究法を実行可能な設計へ落とし込んだ11。 彼らは中核となる設計類型を示す。 質的段階と量的段階を時間差で行う説明的順次デザイン(explanatory sequential)と探索的順次デザイン(exploratory sequential)、両者を同時に行い結果を突き合わせる収束並行デザイン(convergent parallel)などである。 どの類型でも鍵になるのは、質と量の結果を統合する時点(point of interface)を設計の中で明示することだ。 二つの手法を併用するだけでは混合研究法にならない。 統合の論理を欠いた併用は、二つの独立した研究を並べたにすぎない。

混合研究法は、この文献地図の他の枠組みを一つの過程に接続する。 探索の段階では質的手法が現象と文脈を記述し(Lincoln & Guba の語彙が効く)、評価の段階では量的手法が効果を測る(Cook & Campbell の語彙が効く)。 Creswell と Plano Clark の順次デザインは、この二段階を時間軸の上で連結する具体的な形式を与える。 ただし、統合をプラグマティズムだけで正当化できるかは、なお開かれた論点である。 何が機能するかという基準は、方法を選ぶ理由にはなるが、二つの認識論から得た知見を同じ現実の記述として結ぶ論理までは与えないからだ。

問いへの分担

ここまでの文献は、冒頭に置いた三つの問いと、それらを一つの研究に束ねる統合の問いに、それぞれ別の場所で答えている。

一つの事例から何が言えるのかには、Yin の分析的一般化と Flyvbjerg のクリティカルケースが答える。 一般化は母集団にではなく理論に向かい、周到に選ばれた事例は反証と学習の力を持つ。

作品を完成させたとき何が生まれたのかには、Frayling の三区分と Zimmerman らの四基準が答える。 生まれたのは作品であると同時に、他者が積み上げられる形に文書化されれば知見でもある。 Koskinen らの三つの場は、その知見の確からしさが、実験室かフィールドかショールームかで別の基準に支えられることを示す。

言語で記述した構造をたどり直せるのかには、Lincoln と Guba の依存性と確認可能性が答える。 質的研究の再現は、同じ結果を再生することではなく、探究の経路を監査できることに置き換えられる。

そして、探索と評価を一つの研究に含むデザイン研究をどう束ねるのかには、Tashakkori と Teddlie、Creswell と Plano Clark の混合研究法が、統合の時点を設計せよという要求とともに答える。 残る一つの緊張は、その統合をプラグマティズムがどこまで正当化できるかにある。 この問いは、量的研究の妥当性と質的研究の信頼性という別々に鍛えられた二つの語彙を、同じ現実の記述として結ぶ論理を、まだ完全には手にしていないことを示している。

参照文献

未検証事項

  • 8 の DOI は当該書の Elsevier 掲載レビュー記事に対して付与されたものである可能性があり、書籍本体の識別子として正確かは一次確認が未了([要出典確認])。書籍自体の書誌(SAGE, 1985)は確立している。
  • 6 の DOI(Elsevier の書籍識別子)は、版や刷によって表記が異なる可能性があり、一次確認が未了([要出典確認])。
  • 10 の DOI は SAGE Knowledge プラットフォーム上の電子版に対するものであり、初版(2003)と第2版(2010)で識別子が異なる。第2版の識別子として正確かは一次確認が未了([要出典確認])。
  • 17113 は書籍または紀要のため DOI を付していない。書誌情報は確立しているが、Frayling (1993) の正確なページ範囲は版により異同がありうる。

Footnotes

  1. Yin, R. K. (2014). Case Study Research: Design and Methods (5th ed.). SAGE Publications. 2 3

  2. Eisenhardt, K. M. (1989). Building Theories from Case Study Research. Academy of Management Review, 14(4), 532–550. https://doi.org/10.5465/amr.1989.4308385

  3. Frayling, C. (1993). Research in Art and Design. Royal College of Art Research Papers, 1(1), 1–5. 2

  4. Zimmerman, J., Forlizzi, J., & Evenson, S. (2007). Research through Design as a Method for Interaction Design Research in HCI. Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ‘07), 493–502. https://doi.org/10.1145/1240624.1240704

  5. Zimmerman, J., Stolterman, E., & Forlizzi, J. (2010). An Analysis and Critique of Research through Design: Towards a Formalization of a Research Approach. Proceedings of the 8th ACM Conference on Designing Interactive Systems (DIS ‘10), 310–319. https://doi.org/10.1145/1858171.1858228

  6. Koskinen, I., Zimmerman, J., Binder, T., Redström, J., & Wensveen, S. (2011). Design Research Through Practice: From the Lab, Field, and Showroom. Morgan Kaufmann. https://doi.org/10.1016/C2010-0-65896-2 2

  7. Cook, T. D., & Campbell, D. T. (1979). Quasi-Experimentation: Design and Analysis Issues for Field Settings. Houghton Mifflin. 2

  8. Lincoln, Y. S., & Guba, E. G. (1985). Naturalistic Inquiry. SAGE Publications. https://doi.org/10.1016/0147-1767(85)90062-8 2

  9. Flyvbjerg, B. (2006). Five Misunderstandings About Case-Study Research. Qualitative Inquiry, 12(2), 219–245. https://doi.org/10.1177/1077800405284363

  10. Tashakkori, A., & Teddlie, C. (Eds.). (2010). SAGE Handbook of Mixed Methods in Social & Behavioral Research (2nd ed.). SAGE Publications. https://doi.org/10.4135/9781506335193 2

  11. Creswell, J. W., & Plano Clark, V. L. (2011). Designing and Conducting Mixed Methods Research (2nd ed.). SAGE Publications. 2


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