Shuichiro Ogawa
English

Notes ・ updated 2026-07-21

手法の名前は知っていても、誰が作ったかは知られていない

問題を立て直す実務手法は、現場では道具の名前で流通する。 Double Diamond、How Might We、Five Whys、TRIZ、Jobs-to-be-Done。 だが、その道具を誰が作り、元の定義が何で、実務でどの地位にあるのかは、名前ほど共有されていない。 起源をたどると、現場の理解と食い違う手法がいくつも出てくる。

この地図が集めるのは、その実務手法の出所である。 効果を謳う数値ではなく、考案者(provenance)と一次出典と実務での位置づけを、たどれる形で記録する。 手法は、問題をフェーズで分ける収束/発散プロセス系、問題を別の問いに変換する問い立て系、問題を要素に分解する構造化分解系の三つに大きく分かれる。 学術側の系譜は別ノートに置いたので1、本ノートは実務の一次出典に絞る。

収束と発散を交互に回す

問題をフェーズに分けて発散と収束を交互に回す発想は、公的機関の標準として最も権威づけられている。 英国 Design Council のダブルダイヤモンド(Double Diamond)は、2003年に Richard Eisermann 率いるチームが11組織のデザインプロセスを調査して開発し、2004年から講演や資料で共有され始めた(学術文献では公開年として2005年が広く引用される)2。 四つのフェーズ(Discover / Define / Develop / Deliver)のうち、Define は「発見フェーズの洞察から課題を別の形に定義し直し、デザインブリーフを作る」フェーズとされる。 2019年には四つのデザイン原則とリーダーシップ要素を加えた Framework for Innovation へ発展したが、Discover と Define の中核構造は保たれている3

Stanford d.school が広めたデザイン思考の五段階モデル(Empathize → Define → Ideate → Prototype → Test)は、この発想を体系化した代表例である4。 Define フェーズでは、観察から得た視点(Point of View)として問題を再定義する。 IDEO 自身の教育部門 IDEO U は、これを独自の七段階(問いを枠づける Frame a Question から物語を共有する Share the Story まで)に整理しており、五段階は d.school 系の定式化である4。 Google Ventures のデザインスプリントは、5日間の第一歩である月曜に問題の定義と絞り込みを置く56。 月曜には問題マップを作り、長期目標に合意し、専門家にヒアリングし、1週間で解ける範囲へターゲットを絞る。 ここで問題を質問形式に変換する道具が、次の系統の How Might We である。

問題を別の問いに変える

問題を別の問いへ変換する系統では、起源が現場の理解とずれる手法が目立つ。 How Might We(HMW)は「IDEO の手法」として知られるが、一次出典をたどると IDEO は伝播者であって考案者ではない。 起源には諸説あり断定できないが、Sidney Parnes が1967年に問いの型(Invitation Stems)を導入した説、1970年代初頭に Min Basadur が P&G で Osborn の創造的問題解決(CPS)を応用して普及させた説、Charles Warren を経由して IDEO に伝わった説が併記される7。 Basadur は現在、HMW を問題発見と問題定義の核として自身の手法(Simplexity Thinking)に組み込んでいる8

de Bono の水平思考(lateral thinking)は、1967年の著書で語が創出された9。 de Bono 自身は水平思考をアイデア生成の道具、Six Thinking Hats を生成したアイデアの探索と実装の道具として役割を分けている10。 現場では水平思考がデザイン思考の下位ツールとして流用されがちだが、原著では独立した認識論的地位を持つ。

第一原理思考(First Principles)は、起源と実務普及が最も大きく乖離する。 概念の哲学的起源は Aristotle にさかのぼるが、実務語彙として定着したのは Elon Musk の発言経由であり、特定の一次書誌は存在しない1112。 「複雑な問題を絶対に真な基礎命題まで還元し再構築する」という定義は流通しているが、「何が first principle か」を判定する基準は手法として与えられていない。 これは、後述する TRIZ の矛盾パラメータや形態学的分析の次元設定と比べて、方法論的にもっとも脆弱な点である。

SCAMPER も起源が二重である。 Alex Osborn が1953年に創造的な問いのチェックリストを記述したのが元祖で、Bob Eberle が1971年にそれを頭字語(Substitute, Combine, Adapt, Modify, Put to other uses, Eliminate, Reverse)へ整理し命名した13。 HMW と SCAMPER は、いずれも Osborn から Parnes、Basadur へ続く創造的問題解決(CPS)の系譜に属している。

問題を要素に分解して探索する

問題を要素へ分解し、体系的に解空間を探索する系統は、工学とオペレーションズ・リサーチとコンサルにまたがる。

工学側では TRIZ が問題の核を矛盾に置く。 Genrich Altshuller が1946年に着想し、数十万件の特許分析から40の発明原理と39×39の矛盾マトリクスを導いた1415。 矛盾マトリクスは、改善したいパラメータと悪化するパラメータを対応させ、統計的に最も使われた発明原理を示す。 問題を「矛盾」として立てる操作が、TRIZ における問題定義にあたる。

形態学的分析(GMA)は問題空間を網羅する。 Fritz Zwicky が1940年代に開発し、多次元の非定量的な問題複合体をパラメータと選択肢のマトリクスとして構造化した16。 Tom Ritchey は1995年以降にコンピュータ支援 GMA を開発し、100件超の政策分析・防衛研究に適用して、厄介な問題の構造化に用いた17

Toyota のなぜを5回(Five Whys)は、最も普及した分解手法である。 豊田佐吉が1930年代に着想し、大野耐一が1950年代にトヨタ生産方式の中核として体系化した18。 大野の著書は「Why を5回繰り返すことで問題の性質と解決策が明確になる」と述べ、Lean Enterprise Institute はこれを Toyota の科学的アプローチの基礎と位置づける。

コンサルの系統は、問題定義をステップの先頭に置く。 McKinsey の7ステップ問題解決は Step 1 を「問題の定義」とし、Issue Tree で問題を構成要素に分解して優先順位づける19。 元 McKinsey の Conn と McLean による Bulletproof Problem Solving も、Define を7ステップの起点に置き、問題の境界設定と成功条件の定義を求める20。 Barbara Minto のピラミッド原則は、SCQA(Situation → Complication → Question → Answer)の Complication に問題定義を埋め込み、問題を構造化コミュニケーションの一部として扱う21

Jobs-to-be-Done は一つの手法ではない

Jobs-to-be-Done(JTBD)は、単一の手法として語られることが多いが、実際には競合する三つの系統がある。 Tony Ulwick は1990年に Six Sigma 的思考をイノベーションへ適用し、1999年に Outcome-Driven Innovation(ODI)と命名した22。 ODI は、顧客が定義するメトリクス(desired outcomes)を中心にジョブ遂行の成功を定量化する。

Ulwick は1999年に Clayton Christensen に ODI を紹介し、Christensen は2003年の著書で JTBD を広めた23。 一方、Bob Moesta は Christensen とミルクシェイクの事例を開発した後、需要側の視点(switch と demand-side sales)から独自に展開した24。 Christensen 系、Ulwick 系、Moesta 系は「JTBD」の名を共有しながら定義も方法論も異なり、その歴史は整った起源物語ではなく論争の連続である25。 実務で JTBD を使うときは、どの系統の JTBD かを区別しなければ話が噛み合わない。

なお、Ulwick が示す Cordis 事例の市場シェアの伸び(1%から20%超)は本人の自己申告かつ単一事例研究であり、手法の効果の証拠としては弱い22。 本ノートは、この種の効果数値を手法の定義や起源とは区別して扱う。

学術と産業のあいだの断層

実務手法を起源までたどると、学術と産業のあいだにいくつかの断層が見える。

一つめは、起源と実務の乖離である。 HMW と SCAMPER は現場では「デザイン思考の道具」「IDEO の手法」と理解されるが、一次出典は Osborn から Parnes、Basadur へ続く創造的問題解決の系譜にある。 IDEO はこれらの伝播者であって考案者ではない。

二つめは、理論を欠いたまま普及した手法である。 First Principles は古代ギリシャに起源を持ちながら、実務定着は Musk の発言経由で、「何が first principle か」を判定する基準を手法として持たない。 名前と説得的な逸話が先行し、操作的な定義が後から埋まっていない。

三つめは、学術で確立した手法が実務に取り込まれていない逆方向の断層である。 形態学的分析は政策分析と防衛研究で100件超の実績を持ち、TRIZ は製造業で体系だった手法だが、どちらもデザインとコンサルの実務ツールキットにはほとんど入っていない。 両者が扱う「非定量的問題複合体の構造化」は、まさに問題フレーミングの核である。

四つめは、実務手法のほぼすべてに共通する空白である。 McKinsey 系も Double Diamond も Define をステップに置くが、「問題が正しく定義されたことをどう知るか」の検証基準を記述しない。 Double Diamond の Define 完了条件は「デザインブリーフの作成」にとどまる。 Rittel と Webber が1973年に指摘した「厄介な問題には確定的な定式化が存在しない」という論点が、実務手法のほぼすべてで未解決のまま残っている26

関連ノート

参照文献

素材は source/review/problem-definition-methods/industry.md(リポジトリ内部の非公開コーパス)。 各手法の一次出典または権威ある実務解説を、到達確認した URL つきで示す。到達未確認は [要確認]。 効果を謳う販促数値は方法論つきの partial として扱い、断定していない。

未検証事項([要確認] / [要一次検証]

到達確認を実施し(2026-07-21)、当初の未到達はおおむね解消した。残る留保は次のとおり。

  • Design Council「Framework for Innovation」の2019年更新:ページは到達確認済みだが、当該年の明示は本文になく二次情報 [要一次検証]
  • デザイン思考の五段階(Empathize/Define/Ideate/Prototype/Test):IDEO U ではなく Stanford d.school の定式化。IDEO U ページは到達確認済みだが独自の七段階を提示する(本文で訂正済み)。
  • 書籍『Sprint』(Knapp ほか 2016, Simon & Schuster)の出版年:一次ページに明示なし [要一次検証]
  • McKinsey の2記事:URL は実在するが自動取得がボット遮断され直接到達は未確認 [要一次検証](手動閲覧で確認可)。
  • Minto『The Pyramid Principle』:正式な ISBN を持つ初出は1981年 Minto International。1978年は内部配布原稿の年とされ正式刊行の確認は取れない(本文で訂正済み)。
  • Ulwick の Cordis 事例「市場シェア1%→20%超」:自己申告・単一事例のため partial 扱いを維持(ページは到達確認済み)。

Footnotes

  1. 学術(デザイン方法論・認知科学・システム思考の査読研究)側の系譜は problem-definition-methods-literature に整理した。

  2. Design Council UK. The Double Diamond. https://www.designcouncil.org.uk/resources/the-double-diamond/ /開発史: https://www.designcouncil.org.uk/resources/the-double-diamond/history-of-the-double-diamond/ (2003年開発着手、2004年から講演等で共有開始と自ページに記載。学術引用では2005年が広く使われる。到達確認 2026-07-21)

  3. Design Council UK. Framework for Innovation. https://www.designcouncil.org.uk/resources/framework-for-innovation/ (到達確認 2026-07-21。2019年更新は二次情報で、当該ページに年の明示なし [要一次検証]

  4. 五段階モデル(Empathize/Define/Ideate/Prototype/Test)は Stanford d.school(Hasso Plattner Institute of Design)の定式化として広く知られる。IDEO 自身の教育部門 IDEO U は独自の七段階(Frame a Question から Share the Story まで)で提示している。IDEO U. What is Design Thinking. https://www.ideou.com/blogs/inspiration/what-is-design-thinking (到達確認 2026-07-21) 2

  5. GV (Google Ventures). The Design Sprint. https://www.gv.com/sprint/ / Jake Knapp 公式: https://jakeknapp.com/sprint (Knapp が2010年に Google で開発、2012年 GV 導入と自ページに記載。到達確認 2026-07-21)

  6. Knapp, J., Zeratsky, J. & Kowitz, B. (2016). Sprint: How to Solve Big Problems and Test New Ideas in Just Five Days. Simon & Schuster. https://books.google.com/books/about/Sprint.html?id=rV0JCgAAQBAJ

  7. Where does the phrase “How Might We” come from? Medium / Design Voices. https://medium.com/design-voices/where-does-the-phrase-how-might-we-come-from-9ef48efc812f (起源は諸説あり。取得 2026-07-21)

  8. Basadur Applied Creativity. Simplexity Explained. https://www.basadur.com/simplexity-explained/ (自社サービス部分を除外し定義のみ抽出)

  9. de Bono, E. The Use of Lateral Thinking (1967) が語の初出。公式: https://www.debono.com/ (取得 2026-07-21)

  10. de Bono Group. Six Thinking Hats. https://www.debonogroup.com/services/core-programs/six-thinking-hats/ (1985年著書で体系化。認定プログラム販促を除外)

  11. Farnam Street. First Principles: The Building Blocks of True Knowledge. https://fs.blog/first-principles/ (解説記事、単一考案者なし。取得 2026-07-21)

  12. 実務普及は Musk 発言を経由。特定の一次書誌なし。例: https://jamesclear.com/first-principles

  13. SCAMPER の起源(Osborn 1953『Applied Imagination』→ Eberle 1971『SCAMPER: Games for Imagination Development』)。https://en.wikipedia.org/wiki/SCAMPER

  14. MATRIZ Knowledge Base. Contradiction Matrix. https://wiki.matriz.org/docs/triz/problem-solving-tools-5890/contradictions/engineering-contradiction-5995/contradiction-matrix-6026/ (Altshuller 1946年着想、40万件超の特許分析)

  15. Altshuller, G. S. Creativity as an Exact Science (英訳1984, Gordon & Breach。露語原版1979). https://www.routledge.com/Creativity-As-an-Exact-Science/Altshuller/p/book/9780367580360

  16. Ritchey, T. General Morphological Analysis. Swedish Morphological Society. https://www.swemorph.com/pdf/gma.pdf (Zwicky が1940年代に開発)

  17. Ritchey, T. Wicked Problems and GMA. https://www.swemorph.com/wp.html (100件超のプロジェクトに適用。到達 [要確認]

  18. Lean Enterprise Institute. The Five Whys. https://www.lean.org/the-lean-post/articles/five-whys-animation/ (豊田佐吉1930年代着想、大野耐一1950年代体系化。大野『Toyota Production System』英訳1988)

  19. McKinsey & Company (2019). How to master the seven-step problem-solving process. https://www.mckinsey.com/capabilities/strategy-and-corporate-finance/our-insights/how-to-master-the-seven-step-problem-solving-process (URL の実在は WebSearch で確認。自動取得はボット遮断されるため本文への直接到達は未確認 [要一次検証]

  20. Conn, C. & McLean, R. (2019). Bulletproof Problem Solving. Wiley. 紹介: https://www.mckinsey.com/business-functions/strategy-and-corporate-finance/our-insights/want-better-strategies-become-a-bulletproof-problem-solver (URL は実在するが自動取得がボット遮断のため直接到達は未確認 [要一次検証]

  21. Minto, B. The Pyramid Principle. SCQA の Complication が問題定義の核。正式な ISBN を持つ初出は1981年 Minto International(自費出版, ISBN 096019102X)。1978年は内部配布原稿の年とされるが正式刊行の確認は取れない。1987年 Pitman 版は第3版。https://openlibrary.org/books/OL3792759M/The_pyramid_principle (到達確認 2026-07-21)

  22. Strategyn (Tony Ulwick). Jobs to Be Done. https://strategyn.com/jobs-to-be-done/ / Cordis 事例: https://strategyn.com/jobs-to-be-done/cordis-case-study/ (市場シェア数値は自己申告・単一事例のため partial 扱い。到達確認 2026-07-21) 2

  23. Strategyn. History of JTBD. https://strategyn.com/jobs-to-be-done/history-of-jtbd/ (Ulwick 側の記述、自己評価バイアスあり)

  24. Bob Moesta / The Re-Wired Group. https://therewiredgroup.com/learn/complete-guide-jobs-to-be-done/https://therewiredgroup.com/about/bob-moesta/ (現公式ドメインは therewiredgroup.com。JTBD を「供給から独立した純粋な需要の視点」と定義し Four Forces of Progress を示す。到達確認 2026-07-21)

  25. GoPractice. Jobs to Be Done: the theory and the frameworks. https://gopractice.io/product/jobs-to-be-done-the-theory-and-the-frameworks/ (三系統の整理)

  26. Rittel, H. W. J. & Webber, M. M. (1973). Dilemmas in a general theory of planning. Policy Sciences 4(2):155–169. https://doi.org/10.1007/BF01405730 (実務の問題フレーミングに広く影響した基礎概念)


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