Shuichiro Ogawa
English

ノート · updated 2026-09-15

ビジネスアナリストのスキルは、何で測るのか

DX推進スキル標準(DSS-P)は2026年4月の ver.2.0 でビジネスアナリストをロールとして新設した。しかし標準自身が「詳細なレベル評価指標は設定せず」と明記し、熟達度を測る物差しを持たない。

目次(11)
  1. デジタルスキル標準のなかの DX推進スキル標準
  2. ビジネスアナリストは ver.2.0 で新設された
  3. 標準は熟達度を測らない
  4. 測る仕組みは、標準の外にある
  5. BABOK は何を標準化しているか
  6. 団体標準は、時間と試験で測る
  7. 認定試験は、何を測っているか
  8. 採用市場では、経験の種類で見ている
  9. 実務では、社内の仕組みとして測っている
  10. 測られるものと、測られないもの
  11. Footnotes

職務経歴書やポートフォリオに「ビジネスアナリスト」と書く場面がある。 自分の言葉で説明しても、読み手が照合できる公的な物差しがあるとは限らない。

日本にはデジタル人材の公的スキル標準がある。 デジタルスキル標準(DSS)といい、2026年4月の ver.2.0 で「ビジネスアナリスト」がロールとして新設された1。 であれば、この職種名には公的な裏づけがあるように見える。

標準を開くと、そこには役割とスキルの一覧がある。 だが、どれだけできるかを測る仕組みは入っていない。

デジタルスキル標準のなかの DX推進スキル標準

デジタルスキル標準は2つに分かれている。 全てのビジネスパーソン向けの DXリテラシー標準(DSS-L)と、DX を推進する人材向けの DX推進スキル標準(DSS-P)である2。 策定主体は経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課と IPA で、公開は2022年12月21日である。

構成要素は人材類型、ロール、共通スキルリスト、学習項目例の4点しかない。 仕事がどう進むかの定義は、この標準には無い。

現行版の ver.2.0 は2026年4月16日に公表され、人材類型は6、ロールは17になった1。 2024年7月の ver.1.2 では5類型15ロール、スキル項目は49だったので、3年弱でロールは2つ、スキル項目は18増えた計算になる3。 増えた分の重心は AI とデータにある。 データマネジメント類型が新設され、AI実装・運用とAIガバナンスのスキルが加わった4

共通スキルリストは5カテゴリー、13サブカテゴリーで整理されている4。 カテゴリーはビジネス変革、データ整備・活用、テクノロジー、セキュリティ、パーソナルスキルである。 各スキル項目には内容の説明と学習項目例が付くが、定義は意図的に軽くしてあり、技術の変化に追いつけるようにしてある4

ビジネスアナリストは ver.2.0 で新設された

ビジネスアナリストはビジネスアーキテクト類型に属する。 同じ類型にはビジネスアーキテクトとプロダクトマネージャーが並ぶ。 ver.1.2 までのこの類型は「新規事業開発」「既存事業の高度化」「社内業務の高度化・効率化」の3ロールだったので、ver.2.0 で役割の切り方そのものが変わった3

責務はこう書かれている4

プロダクト/プログラムにおける業務・組織・システムの分析を担い、要求の整理と実装担当者(エンジニア)への伝達を行う。また、取組関係者のコミュニケーションハブとなり、利害調整を行う

主な業務は4つに整理されている。 問題分析とソリューションの整理、要求の収集・分析と明確化および追跡と変更管理、検証と受け入れの支援とユーザーへの展開、ステークホルダー間の協力体制の構築と合意形成の支援である4

中核になるスキル群は「プロダクトのマネジメント」で、これはプロダクトマネージャーとビジネスアナリストの主領域だと役割定義の資料が明記している5。 7項目あり、要求の分析とマネジメント、プロダクトビジョンとロードマップの策定、プロダクト成果指標の設計と運用、スコープと優先順位のマネジメント、仮説検証と学習サイクルの設計、マーケティング、技術的制約とアーキテクチャを踏まえたプロダクト判断が並ぶ4。 要求の分析とマネジメントの定義は「個別のプロダクト/プログラムで実現すべき具体的な事項(要求)を整理し、変更を管理しながら実装まで導くスキル」である4

役割の性格も書き込まれている。 最終決定権は持たず、意思決定の支援と実行責任が中心で、「変革支援要員としてもっとも柔軟に配置できる」とされる4。 単独で変革を推進することはできず、責任者や意思決定者の存在が前提だと、役割定義の資料は書く5

標準は熟達度を測らない

ここが本題である。 DSS-P は「詳細なレベル評価指標は設定せず」と脚注で明言している4

※DX推進スキル標準全体として、詳細なレベル評価指標は設定せず、育成の目標となる、独力で業務を遂行することができ、後進人材の育成も可能なレベル(ITSS+「レベル4」相当注)を想定

育成の目標として想定する水準は1つだけで、スキル項目ごとの到達段階は定義しない。 FAQ も同じことを言う。 ITSS 群がレベル1から7の段階評価を設けるのに対し、DSS-P は「独自の詳細なレベル評価指標は用意していません」6。 業種や職種を問わず使える「統一的な達成基準一覧は設けておりません」とも書く6

代わりに置かれているのが 重要度 である。 各ロールについて、スキル項目ごとに a、b、c、d の4段階と、パーソナルスキル用の z を付ける4。 a は「高い実践力と専門性が必要」、b は「一定の実践力と専門性が必要」、c は「知識として説明可能なレベルでの理解が必要」、d は「体系として全体の中での位置づけや他項目との関連の理解が必要」、z は「役割や状況に応じた実践力が必要」である4

これは熟達度の段階ではない。 人材がどの段階にいるかを表すのではなく、ロールがどのスキルをどれだけ重く見るかを表す重みづけである。 同じスキル項目でも、ロールが変われば重要度は変わる。

段階に見える表記には注意が要る。 共通スキルリストの参考資料には★から★★★★までのレベルが現れるが、これはデータサイエンティスト協会のスキルチェックリストの水準であって、DSS-P 自身の定義ではない4

測る仕組みは、標準の外にある

標準が測らないなら、誰が測るのか。 公的側の道具立てを見ると、測れる範囲は限られている。

ITスキル標準(ITSS)は7段階のレベルを持つが、判定方法は段階ごとに違う。 レベル1から3は「基本的に情報処理技術者試験の合格をもってレベルを判定し、レベル4は、情報処理技術者試験の合格に加えて業務経験等で判定する」。 レベル5から7は業務経験や面談等による7。 試験で測れるのは4までで、その上は他者評価と実績に委ねられている。

ITSS 自身が、その使われ方に警告を出している。 「単純に人材評価や人事考課へのまま導入する、スキル診断だけで終わってしまうといった、利用につながっているケースも散見される」と概要編は書く7

個人のスキルを診断する公的ツールは、いまは無い。 タスクディクショナリとスキルディクショナリから成る iコンピテンシ ディクショナリは2022年度で事業が終わり、診断用のシステムも2020年4月に新規受け付けを止めた8。 後継に当たる ITSS+ は「人材の評価・調達等での活用は想定せず」と脚注で断っている9

情報処理技術者試験は現役で、13区分ある10。 国家試験として「採用を行う際に役立つよう客観的な評価の尺度を提供する」ことが目的に掲げられ10、全区分で個人成績の照会ができる11

だが、ビジネスアナリストを名指しで測る区分は無い。 IPA が ver.1.2 で作った「各ロールに有用な情報処理技術者試験」の対応表でも、ビジネスアーキテクト類型の3ロールに対しては ITストラテジスト試験とエンベデッドシステムスペシャリスト試験が「特に有用」、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、応用情報技術者試験が「有用」と整理されるだけである12

組織を測る指標と個人を測る指標は、混同されやすい。 経済産業省の DX推進指標 は成熟度をレベル0から5の6段階で自己診断する仕組みだが、対象は企業であって個人ではない13

BABOK は何を標準化しているか

団体標準の代表は IIBA の BABOK Guide である。 IIBA はカナダの専門職協会で、認定資格と出版物の販売主体でもある14。 自己評価は割り引いて読む必要がある。

現在の版は v3 で、2015年の発行である15。 v1.4 が2005年、v1.6 が2006年、v2 が2009年で、およそ6年ごとに版が変わってきた。 v4 の告知は確認できない16

構成は6つの知識領域と30のタスクである。 30という数は IIBA 自身が明文で書いている14。 タスクは第3章から第8章に番号付きで並び、知識領域ごとの件数は5、5、5、4、6、5になる17

知識領域の英語名は次のとおりである14

  • Business Analysis Planning and Monitoring(BA の計画とモニタリング)
  • Elicitation and Collaboration(情報の引き出しと協働)
  • Requirements Life Cycle Management(要求のライフサイクル管理)
  • Strategy Analysis(戦略分析)
  • Requirements Analysis and Design Definition(要求の分析と設計定義)
  • Solution Evaluation(ソリューション評価)

日本語訳は一次で確認できていない。 IIBA 日本支部の日本語版は会員限定で、訳語の正本を引けない18

続く第9章に Underlying Competencies(基礎コンピテンシー)が29件、6カテゴリで置かれる17

  • Analytical Thinking and Problem Solving(7件)
  • Behavioural Characteristics(5件)
  • Business Knowledge(5件)
  • Communication Skills(4件)
  • Interaction Skills(5件)
  • Tools and Technology(3件)

第10章は テクニック の一覧である。 IIBA は「テクニックとは、BA がタスクを実行するために使う方法である」と定義する16。 番号は 10.50(ワークショップ)まで確認できる17。 よく50個と紹介されるが、その総数は IIBA の公式ページでは確認できない14。 無償公開版の Standard のほうは、BABOK、アジャイル拡張版、ビジネスデータアナリティクス、プロダクトオーナー向けの各ガイドを合わせて「90を超える」と数えている。

概念の土台には BACCM(Business Analysis Core Concept Model)がある14。 Change(変化)、Need(必要性)、Solution(解決策)、Stakeholder(利害関係者)、Value(価値)、Context(文脈)の6つで、それぞれに定義が付く。 IIBA はこれを「考えるための型であり、整理するための型」と位置づける14

適用領域として Perspectives が5つある16。 Agile、Business Intelligence、Information Technology、Business Architecture、Business Process Management である。

2022年からは、無償公開の The Business Analysis Standard が別に存在する14。 現行は v2.0(2025年)で、知識領域の中身は意図的に含めず、BABOK Guide の将来の方向を示す層だと説明される。 6つの知識領域と30のタスクは変わっていない、と Standard は明記する。

では BABOK は人を測るのか。 IIBA 自身の役割分担は明確である。 「BABOK Guide は BA のタスクを支える29の基礎コンピテンシーを記述する。Business Analysis Competency Model は、そのコンピテンシーがタスク実行時にどう適用されるかを記述する」14。 個人の熟達度は後者が担い、5段階(General Awareness、Practical Knowledge、Skilled、Expert、Strategist)の自己評価尺度を持つ19。 BABOK 本文は有償のため、本文に熟達度尺度が無いことは間接確認に留まる14

試験は、この知識体系を出題根拠として使う。 ECBA は75分50問で9ドメイン、うち3ドメインは Standard から、6ドメインは BABOK と BACCM の実務適用から出る17

団体標準は、時間と試験で測る

国内外の団体側には、BA 職能の標準がある。 IPA の役割定義資料は、ビジネスアナリストの代表的な知識体系として BABOK、PMI の BA ガイド、ISO/IEC/IEEE 29148 を挙げている5

認定資格の要件は、能力をほぼ経験時間で測る。 CBAP は10年以内の実務7,500時間、うち6知識領域の4つで各900時間以上かつ合計3,600時間以上、4年以内の教育35時間、推薦2名を求める20。 CCBA は7年以内の3,750時間、教育21時間である21。 申請は自己申告の職務時間をログに記録する方式で、証憑の提出は抽出監査に当たった場合に限られる20

IIBA は能力の測定単位を知識体系とは別にも定義している。 Business Analysis Competency Model は30のパフォーマンス・コンピテンシーと行動指標を持ち、公開ページではレベルは4段階とされる22。 一方、v4 preview 版は30のコンピテンシーを5段階(General Awareness、Practical Knowledge、Skilled、Expert、Strategist)の自己評価尺度で示し、v3 から v4 でアセスメントの観点を300超から30に絞ったと説明する19。 v4 は IIBA の認定枠組みと対応づけられており、ECBA が1、CCBA が2、CBAP が3にあたる1923。 公開ページの「4段階」はこの認定枠組みの段数を指している可能性がある22。 いずれにせよ会員限定で、組織で使うにはライセンスが要る19

国際規格は職能を定義しない。 ISO/IEC/IEEE 29148 は要求プロセスと要求の特性を規定するが、要員のコンピテンシーには言及しない(対応する JIS は X 0166:2021)24。 人材の認証とアセスメントを扱うのは別系列で、ISO/IEC 17024 が人を認証する機関の要求を、ISO 10667-1 が人材アセスメントの妥当性や信頼性を定める25。 IIBA は自らの認定制度を ISO/IEC 17024 に guided by(指針としている)と書く20。 これは準拠の指針の表明で、第三者認定を取得したという主張ではない20

参照枠として使われるものには、レベルの定義がある。 英国の SFIA は7段階の責任レベルを持ち、BA に相当するスキルをレベル2から6で定義する26。 欧州の e-CF は41のコンピテンスを5段階の熟達度で整理する27

日本では、IIBA 日本支部が BABOK ガイドの日本語版を出している18。 要求工学には REBOK という知識体系があり、モデリング技能には UMTP の認定試験がある2829。 いずれも測定の単位は知識と実務経験で、成果そのものではない。

認定試験は、何を測っているか

受験の入口は段階で違う。 ECBA には受験資格がない。実務時間も教育時間も推薦も要らず、試験を直接買う30。 CCBA は直近7年で3,750時間(6知識領域のうち2つで各900時間以上、または4つで各500時間以上)、教育21時間、推薦2名を求める21。 CBAP は直近10年で7,500時間(うち4領域で各900時間以上、合計3,600時間以上)、教育35時間、推薦2名である20。 知識だけで入口を通れるのは ECBA までで、上の2つは従事時間の積み上げを要求する。

出題の重みは公開されている。 CBAP は要求の分析と設計定義が30%、BA の計画とモニタリング14%、要求のライフサイクル管理15%、戦略分析15%、ソリューション評価14%、引き出しと協働12%である20。 CCBA は要求の分析と設計定義が32%で、ソリューション評価は6%になる21。 問題数と時間は CCBA が130問180分、CBAP が120問210分、ECBA が50問75分で、いずれもシナリオを中心とした選択式である212017

2025年に刷新された ECBA では、出題元が標準側に移った。 9ドメインのうちビジネスアナリシスの理解20%、効果的な BA のマインドセット14%、BA の実践6%の3つが The Business Analysis Standard から出て、残り6つが BABOK の BACCM から出る17。 旧ブループリントは BABOK の知識領域を5領域に分けていたので、測定の軸が知識体系から標準へ移ったことになる17

合格基準は公開されていない。 IIBA は得点も得点率も開示せず、performance indicators で通知すると書く30。 合否の線がどこにあるかを受験者は知らないまま、公開された比率だけを見て準備することになる。

申請の中身も自己申告である。 証憑を出すのは無作為抽出の監査に当たったときだけで31、実務ログは活動の完了から7日を過ぎるとロックされ、後から書き足せない31。 IIBA は裁量で認定を取り消す権利を留保している32

更新では、3年ごとに60単位(CDU)の活動時間が積まれる。 1時間の計画的な活動が1 CDUで、仕事歴は200時間で1 CDU、カテゴリの上限は25である33。 自主学習は上限15、余剰は最大20単位まで次の3年に繰り越せる33。 ECBA は更新が要らず、失効しない33

つまり認定が積み上げているのは、選択式試験の点と活動時間である。 何を作り、何を変えたかは、監査に当たっても証憑として求められない31

採用市場では、経験の種類で見ている

標準と試験が測らないなら、採用の現場は何を見ているのか。 レバテックの IT人材白書2025 が、IT人材を採用する企業担当者1,000名に「経験・スキル面で最も重視する要素」を聞いている34。 上位は顧客折衝経験 30.6%、プロジェクトマネジメント経験 23.8%、プログラミングスキルレベル 20.2% である。 選択肢に資格や試験は無い。 BA に近い要求は、顧客折衝経験とプロジェクトマネジメント経験という経験の種類として現れる。

同じ調査の未経験者採用の課題は「スキルや能力の見極めが難しい」が 55.3% で最大だった34。 測る道具が無いことは、採用側の課題としても認識されている。

職種としての扱いも薄い。 同白書の人材側調査(n=3,000)の職種構成に「ビジネスアナリスト」は無い34。 厚生労働省の賃金構造基本統計調査の職種分類にも無い35。 公的統計の上で、ビジネスアナリストは独立した職種として測られていない。

需要の側では、BA の上位工程が最も枯れている。 IPA の DX動向2025 によると、DX を推進する人材が不足している企業は 85.1% で、米国の 23.8%、ドイツの 44.6% を大きく上回る36。 「AIを活用した製品・サービスを企画できるAI事業企画」人材の不足は日本 61.0% である36。 経済産業省の需給調査は2030年の IT人材不足を最大78.7万人と推計するが、この数値は二次資料に依拠している37

金額の側にも BA の物差しは無い。 賃金構造基本統計調査は役職と職種で賃金を出すが、BA に相当する区分を持たない35。 同調査の月額所定内給与は課長級 529.2千円、非役職者 310.5千円で、これは全職種の平均である35

BA を名指しで数えているのは、いまのところ認定団体だけである。 IIBA 日本支部によると、日本の CBAP は 462名、ECBA は 263名(2026年9月)23。 同じ時期の情報処理技術者試験は、プロジェクトマネージャ試験だけで1回に8,511人が受験する38。 桁が2つ違う。

測定の場そのものも整っていない。 事業会社の 84.1% が社内 IT 人材を評価・把握する基準を持たないという調査がある39。 IPA 自身も「人材像や評価基準を持たない企業では、人材不足がより顕著」と書く40。 基準が無いところでは、経験年数と面接の印象が選抜の全部になる。

実務では、社内の仕組みとして測っている

IPA は DSS の活用事例を20社分公開している。 そこに登場する「アセスメント」は、いずれも各社が自社の制度として組んだものである。 DSS-P に基づくアセスメント、アセスメントによる選抜、教育効果の測定、スキルの可視化と定量化といった使われ方をする41

標準は共通語彙を提供し、測定は各組織と各個人が設計する。 FAQ が「独自の評価指標の策定」を推奨しているのは、この役割分担の宣言である6。 効果測定用のフォーマットを IPA が用意していないことも、同じ方針の裏返しになる。

測られるものと、測られないもの

何が測られて、何が測られないのか。

公的側では、試験が測るのは知識と基礎能力で、経験判定が見るのは年数と実績の概要である。 DSS-P はロールごとにスキルの重みを示すが、人を評価する道具にはなっていない。

団体側では、時間要件と試験が中心になる。 CBAP の7,500時間は業務の成果ではなく従事時間の積み上げで、何を作り、何を変えたかは申請の要件に入らない。

採用市場では、経験の種類が選抜の単位になる。 顧客折衝経験という数字が表すのは、能力の水準ではなく経験の有無である。 未経験者採用で「見極めが難しい」が最大の課題になるのは、その先を測る手段が無いからで、公的統計の職種分類に BA が無いことも同じ事情の裏返しになる。

この構造が抱える問題は、測定の研究で知られている。 自己評価と客観指標が乖離することは繰り返し報告されており、能力測定のノートにまとめてある(AI活用前提の能力測定 — 資質×AIスキルの交互作用と測定フレームワーク)。

であれば、標準の外にある測定は自分で用意するしかない。 職務経歴書やポートフォリオに「ビジネスアナリスト」と書くなら、スキル名の裏づけになる記述は自分で作ることになる。 採用側が経験の種類しか見られずに困っているなら、成果の書き方に出す差分はそこにある。 要求の分析とマネジメントを例にするなら、どの要求を、どの利害調整を経て、何に変えたのかを案件の単位で残す。 標準は語彙を与えるが、証拠は与えない。

関連ノート

未検証事項

  • 「DSS-P」という略号は IPA の公表ページでは確認できていない(IPA は「DX推進スキル標準」と表記する)要確認
  • スキル項目数「67」は分冊版の表の数え上げで、公式に「67」と明記した箇所は確認できていない 要一次検証
  • ver.1.0 の版番号表記と ver.1.1 の存在は一次情報で確認できていない 要一次検証
  • ビジネスアナリストの責務文は、分冊版と役割定義資料で文言が一致しない(同一発行主体・同一公開日)要確認
  • 経産省サイト(meti.go.jp)は全ページが 403 を返し未確認。DX推進指標と改訂履歴は IPA 側のミラーに依拠している 要確認
  • 共通スキルリスト Excel(ロール別重要度の正本)は未読(xlsx を展開できない)。重要度の全数は分冊版の表に依拠している 要一次検証
  • ver.2.0 のロール別「有用な情報処理技術者試験」対応表は存在を確認できていない(確認できたのは ver.1.2 版のみ)要確認
  • 知識領域の日本語訳語は IIBA 一次で確認できていない(日本語版は会員限定)。本文の括弧内は日本の紹介記事で使われる訳語で、正本ではない 要一次検証
  • テクニック総数「50」は IIBA 公式ページで確認できない(番号の上限は 10.50 まで確認、Standard は製品横断で「90超」と記述)要一次検証
  • BABOK 本文は有償のため、本文に熟達度尺度が無いことは間接確認に留まる 要一次検証
  • v4 が存在しないことは掲載物の不在による推定 要一次検証
  • Business Analysis Competency Model のレベル数は、公開ページの4段階と v4 preview の5段階で表記が割れている。4段階が認定枠組みの段数を指すという読みは推定で、認定枠組みの4段目が何かを示す一次情報は確認できていない 要確認
  • IIBA は認定制度を ISO/IEC 17024 に guided by と述べるが、第三者認定の取得は確認できない(認定機関の登録名簿に到達できていない)要確認
  • 認定料金の会員と非会員の対応(例: exam $405 と Members $250 / Non-Members $350 の関係)は抽出時に表が崩れて確定できない。料金ページに有効日・改定日の記載もない 要一次検証
  • 受験者数・合格率などの受験統計は IIBA 一次で確認できない 要一次検証
  • 世界の認定者総数は IIBA 一次で確認できない(二次情報の約36,000人は採用しない)要一次検証
  • CCBA の学歴要件は日本支部ページのレガシー記述にのみ存在し、現行 CCBA Handbook(May 2026)の要件では確認できない 要確認
  • 試験設計における Kryterion の関与範囲は、新 ECBA ブループリントの開発までか試験運用全体かが不明 要確認
  • 刷新後の ECBA 試験の翻訳版(日本語を含む)の開始時期は告知されていない 要確認
  • The Business Analysis Standard 新版の公開日は二次情報(2026-05-11)のみで、一次で確認できない 要一次検証
  • BABOK v3 日本語版の刊行年月日は IIBA 日本支部のページに記載がない 要一次検証
  • 「日本ビジネスアナリシス協会(JBAA)」は団体として確認できなかった(JBAA を名乗る別団体が存在する)要確認
  • 自己評価と客観指標の乖離を扱う測定妥当性研究は、出版社ページに到達できず内容未確認 要一次検証
  • 役割定義資料が引く2018年調査(BA の IT部門所属46%)の調査主体は資料上で特定できない 要一次検証
  • 経産省「IT人材需給に関する調査」の一次本文は meti.go.jp が 403 で未確認。2030年最大78.7万人等の推計値は二次資料の一致による 要一次検証
  • 「システムコンサルタント・設計者」の職種別賃金は e-Stat の Excel 提供のみで、数値を取得できていない 要一次検証
  • 事業会社 84.1% が評価基準を持たない(2022年度調査)は IPA 一次未到達で、二次報道(EnterpriseZine/ZDNET Japan)による 要一次検証
  • パーソルキャリアの高度IT人材調査は一次リリースが 403 要一次検証
  • IPA DX動向2025 の職種別不足(「ビジネスアーキテクトが最も不足」等)は二次報道のみで、PDF の該当ページでは確認できない 要一次検証

参照文献

Footnotes

  1. IPA プレス発表「デジタルスキル標準 ver.2.0 を公開」(2026-04-16)。https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/press20260416.html 2

  2. IPA「デジタルスキル標準(DSS)策定の背景・目的」。https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about.html

  3. 経済産業省・IPA「デジタルスキル標準 ver.1.2」(2024-07-08)。https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/sbn8o100000049jl-att/000106871.pdf 2

  4. 経済産業省・IPA「デジタルスキル標準 ver.2.0 DX推進スキル標準(分冊版)」(2026-04)。https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/rcu1hd000000j76k-att/sep_dss-p.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

  5. 経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課・IPA「ビジネスアーキテクチャ人材の役割定義」(2026-04-16)。https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-gakushu/omgdg50000001iys-att/architecture-results.pdf 2 3

  6. IPA「デジタルスキル標準 FAQ」。https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/omgdg5000000bpmb-att/dssfaq.pdf 2 3

  7. IPA「ITスキル標準V3 1部 概要編」(2008-03-31)。https://www.ipa.go.jp/archive/jinzai/skill-standard/itss/qv6pgp000000btkg-att/000010169.pdf 2

  8. IPA iコンピテンシ ディクショナリ(アーカイブ・2022年度で事業終了)。https://www.ipa.go.jp/archive/jinzai/skill-standard/icd/about.html

  9. IPA「ITSS+(プラス)概要」(最終更新 2025-07-01)。https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/plus-it-ui/itssplus/about.html

  10. IPA 情報処理技術者試験 試験の概要・試験区分。https://www.ipa.go.jp/shiken/about/gaiyou.html 2

  11. IPA「自己のスキルアップ、能力レベルの確認」(最終更新 2026-07-08)。https://www.ipa.go.jp/shiken/about/merit/merit04.html

  12. IPA「各ロールに有用な情報処理技術者試験」(DSS ver.1.2、2024-03-29)。https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/rcu1hd000000j76k-att/examinations_to_roles.pdf

  13. 経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課・IPA「DX推進指標のガイダンス」(2026-08)。https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/rcu1hd000001a4xh-att/dx-suishin-guidance.pdf

  14. IIBA「The Business Analysis Standard v2.0」(無償公開 PDF、©2025)。Preface・§3.4・§5.3。https://www.iiba.org/globalassets/business-analysis-resources/the-business-analysis-standard/files/the-business-analysis-standard.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9

  15. IIBA「BABOK Guide v3 celebrates 1-year anniversary」(2016-04-15)。https://www.iiba.org/professional-development/knowledge-centre/ba-connection/babok-guide-v3-celebrates-1-year-anniversary

  16. IIBA「BABOK Guide」ページ。https://www.iiba.org/standards-and-resources/babok/ 2 3

  17. IIBA「ECBA Exam Blueprint V1.1」(2025-06 更新)・「ECBA Reference Map」。https://www.iiba.org/globalassets/certification/ecba/files/ecba-exam-blueprint.pdfhttps://www.iiba.org/globalassets/certification/ecba/files/ecba-reference-map.pdf 2 3 4 5 6 7

  18. IIBA 日本支部「日本語コンテンツ」。https://japan.iiba.org/Stories/page/japanese-contents 2

  19. IIBA「Business Analysis Competency Model v4 preview edition」§1.5・Table 2.0.1。https://integration.iiba.org/globalassets/professional-development/develop-your-skills/competency-model/files/business-analysis-competency-model-v4-preview-edition.pdf 2 3 4

  20. IIBA「CBAP Handbook」(May 2026)。https://www.iiba.org/globalassets/certification/cbap/files/cbap-handbook.pdf 2 3 4 5 6 7

  21. IIBA「CCBA Handbook」(May 2026)。https://www.iiba.org/globalassets/certification/ccba/files/ccba-handbook.pdf 2 3 4

  22. IIBA「Business Analysis Competency Model」。https://www.iiba.org/professional-development/business-analysis-competency-model/ 2

  23. IIBA 日本支部「認定者数」(2026年9月現在、Home Address に Japan を指定した人数ベース)。https://japan.iiba.org/Stories/page/cert_info 2

  24. ISO/IEC/IEEE 29148:2018。対応 JIS は JIS X 0166:2021(日本規格協会)。https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+X+0166%3a2021

  25. ISO/IEC 17024:2026、ISO 10667-1:2020。https://www.evs.ee/en/iso-iec-17024-2026https://www.austrian-standards.at/de/shop/iso-10667-1-2020-2020-11-10~p2557599

  26. SFIA Foundation「SFIA 9」(2024-10)。https://sfia-online.org/en/sfia-9

  27. IT Professionalism Europe「European e-Competence Framework」(EN 16234-1:2019)。https://itprofessionalism.org/professionalism/e-competence-framework/

  28. 情報サービス産業協会 REBOK 企画WG『要求工学知識体系(REBOK)』近代科学社、2011-06。https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784764904040

  29. NPO 法人 UML モデリング推進協議会「UMTP モデリング技能認定試験 FAQ」。https://umtp-japan.org/faq

  30. IIBA「Certification FAQ」。https://www.iiba.org/business-analysis-certifications/certification-faq/ 2

  31. IIBA「CCBA Step-by-Step Application Process Guide」(May 2026)。https://www.iiba.org/globalassets/certification/ccba/files/ccba-step-by-step-application-process-guide.pdf 2 3

  32. IIBA「ECBA Handbook」(May 2026)。https://www.iiba.org/globalassets/certification/ecba/files/ecba-handbook.pdf

  33. IIBA「CCBA/CBAP Recertification Handbook」(August 2024)・「Recertification」ページ。https://www.iiba.org/globalassets/certification/recertification/files/ccba-recertification-handbook.pdfhttps://www.iiba.org/business-analysis-certifications/recertification/ 2 3

  34. レバテック「IT人材白書2025」(企業担当者1,000名、2024-11-22〜29、インターネット調査)p.11・12・17・26。https://levtech.jp/files/doc/levtech_research_2025.pdf 2 3

  35. 厚生労働省「賃金構造基本統計調査 令和7年」調査の概要・第8表(2025年6月賃金、男女計)。https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/gaiyo.html 2 3

  36. IPA「DX動向2025」(2024年度調査、日本 n=1,191、米 n=391、独 n=366)PDF p.2 図表2-1・2-2。https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/discussion-paper/j5u9nn000000abx5-att/dx2025_digital_talent_ai_era.pdf 2

  37. 経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019-03 報告、みずほ情報総研への委託)。一次サイトが 403 のため二次資料の一致に依拠 要一次検証https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/gaiyou.pdf

  38. IPA「令和7年度秋期 情報処理技術者試験 合格発表」(2025-12-25 公表、プロジェクトマネージャ受験者 8,511人)。https://www.ipa.go.jp/news/2025/shiken_20251225.html

  39. IPA 2022年度調査の二次報道(事業会社 84.1% が評価・把握基準なし、IT企業792社+事業会社1,225社)。一次未到達 要一次検証https://enterprisezine.jp/news/detail/17670https://japan.zdnet.com/article/35203030/

  40. IPA「DX動向2024」。https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/discussion-paper/dx-talent-shortage.html

  41. IPA「デジタルスキル標準 活用事例」(2024-04-30、最終更新 2026-01-08)。https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/case.html


書いた人:小川 修一郎(Design Researcher / Consultant) 経歴を見る →