ノート · updated 2026-10-24 · Markdown 版
個人情報の漏えいが続くとき、デザイナーは何ができ、どこで付加価値を出せるか(産業界の資料から)
個人情報の漏えいが続くなかで、デザイナーに何ができ、どこで付加価値を出せるかを、産業界の資料(個人情報保護委員会、消費者庁、デジタル庁、FTC、NIST、EDPB、ICO、NCSC、各国の消費者当局と個人情報保護当局の一斉調査、Verizon、IBM、東京商工リサーチ、JNSA、Pew、JIPDEC の公表値、Microsoft、Google、GitHub、メルカリ、ヌーラボ、GOV.UK の当事…
目次(8)
問いと、この note の範囲
2026 年の日本では、100 万件を超える個人情報の漏えいが 10 月 5 日までに 10 件公表された(前年は通年で 6 件。東京商工リサーチ 2026b)。 最大はメールシステムへの不正アクセスで漏れた約 1,223 万件のメールアドレスである。 情報セキュリティの重要性が増すことに異論はないが、それがデザイナーの仕事とどうつながるかは自明ではない。 漏えいの多くはサーバーの脆弱性やランサムウェアの話に見え、画面の設計とは遠く感じられる。
この note は、デザイナー(UX/UI、サービス、プロダクトのデザイナー)が漏えいとプライバシーの問題に何をでき、そこでどう付加価値を出せるかを、産業界の資料が支える範囲で整理する。 問いは二つある。 一つは、漏えいのどの部分にデザインが届くか。 もう一つは、届く部分でデザイナーが出す価値を、誰がどう認めているか。 学術研究から見た整理は、学術版の 個人情報の漏えいが続くとき、デザイナーは何ができ、どこで付加価値を出せるか(学術研究から) にある。
使った資料は三種類である。 公的機関、規制当局、標準化団体の一次資料、方法が明示された調査会社と業界団体の公表値、製品を作った当事者(デザイナー、UX ライター、エンジニア、プロダクトマネージャー)の発言である。 調査会社とセキュリティ企業の数値は自社データや会員の申告によるもので、方法が書かれた事実の部分だけを使った。
漏えいのどこにデザインが届くか
漏えいの原因は、どの資料を見るかで違って見える。 東京商工リサーチが上場企業とその子会社の公表を集めた 2025 年の 180 件では、ウイルス感染と不正アクセスが 116 件(64.4%)で最も多く、誤表示と誤送信が 37 件(20.5%)、紛失と誤廃棄が 18 件(10.0%)だった(東京商工リサーチ 2026a)。 誤表示と誤送信には、メールの CC と BCC の取り違えやシステムの誤設定が含まれる。 漏れた人数は 3,063 万 6,910 人分で、100 万人を超える 6 件の大型事故が人数を押し上げた。
個人情報保護委員会が受けた漏えい等報告は、別の姿を見せる。 令和 7 年度に処理した報告は 17,139 件で、1 件あたりの人数が 1,000 人以下の事案が 93.6%、紙媒体だけが漏れた事案が 76.9% だった(個人情報保護委員会 2026a)。 原因として多いのは、病院や薬局での要配慮個人情報を含む書類の誤交付、クレジットカードなどの誤送付、不正アクセスである。 令和 8 年度第 1 四半期の 6,101 件でも、損害保険業者の誤交付が目立ったと書かれている(個人情報保護委員会 2026b)。 上場企業の公表事故は大きな電子の漏えいに偏り、法律の報告は小さな紙の取り違えまで拾う。 どちらも漏えいの一面であり、母集団と定義が違うので割合を並べて比べることはできない。
国際的な侵害の集計でも、人の関わりは大きい。 Verizon の 2026 年の報告では、確認された侵害の 62% に人の要素(誤り、だまされること、認証情報の悪用など)が関わっていた(Verizon 2026)。 ただし最初の侵入経路で最も多いのは脆弱性の悪用(31%)で、フィッシングは 16%、認証情報の悪用は 13% だった。 個人情報保護委員会も、不正アクセスの原因として、公開済みの脆弱性の放置、推測されやすい ID とパスワード、設定の誤りを挙げている(個人情報保護委員会 2026a)。
ここから、デザインが届く範囲は三つに絞れる。 一つめは、人が書類や宛先を取り違える誤交付と誤送付で、画面だけでなく窓口や郵送の手順も含めたサービスの設計にかかわる。 二つめは、フィッシングと推測されやすいパスワードにつながる認証の設計である。 三つめは、信頼にかかわる同意、解約、通知の画面である。 脆弱性の放置やランサムウェアの侵入は、主にエンジニアと運用の領分で、画面の設計で防げるものではない。
漏えいが起きたときの損害の大きさも、資料から読める。 IBM が 600 組織を調べた 2025 年の調査では、侵害 1 件の世界平均の費用は 444 万ドルだった(IBM 2025)。 日本の JNSA の調査では、クレジットカード情報を漏らした組織がカード決済を止めた期間の平均は 131.8 日で、6 割を超える組織が 6 か月以上止めた(JNSA 2025)。 ただしこの回答は 16 組織で、代表値とは言えない。
「利用者に気をつけさせる」設計から離れる
認証とフィッシングでは、公的機関がまず考え方を変えた。 英国の NCSC は、業務で見知らぬドメインのリンクを開く必要がある利用者にとって「フィッシングを見抜くことは彼らの仕事ではない」と書き、責めと恐れに頼らず技術的な対策で守るよう組織に求めた(NCSC 2022)。 デジタル庁は、偽サイトで入力させたパスワードとワンタイムパスワードをその場で正規のサイトに中継するリアルタイムフィッシングでは、両者を組み合わせた多要素認証でも不正なアクセスを防げないとし、パスキーのようなフィッシングに強い方式が必要だとした(デジタル庁 2026)。 改定の検討資料では、最も高い保証のレベルでフィッシングに強い方式を全利用者に強制し、その一つ下のレベルでは希望する利用者に提供するとしている(デジタル庁 2025)。
米国の NIST は、パスワードの入力欄の作り方そのものを要件にした。 SP 800-63B-4 は、漏えい済みの値の拒否を除いて、パスワードに組成規則(記号を必ず含める、など)を課してはならないとし、パスワードマネージャーと自動入力を認めなければならず、貼り付けも認めるべきだとした(NIST 2025)。 記号を混ぜさせ、貼り付けを禁じる入力欄は、標準の側で退けられた。
これらの要件は、デザイナーに新しい問いを渡す。 パスキーに切り替えるべきだという結論は技術の側で出ているが、利用者にそれを選んでもらい、失くしたときに戻れるようにする仕事は画面と導線の設計である。 次の節の当事者の証言は、その仕事の中身を示している。
パスキーを導入した当事者は何を設計したか
パスキーを広めた企業の当事者は、まず勧める場所を論点にした。 Microsoft のプロダクトマネージャーは、登録、サインイン、パスワードの再設定という要所で能動的に勧め、設定画面から自分で登録する経路は全登録の 1% 未満だったと書いた(Microsoft 2024)。 Yahoo! JAPAN の事例でも、登録の 97% が勧誘の画面から(サインイン後 91%、会員登録後 6%)で、管理画面からは 3% だった(Yahoo! JAPAN の事例 2023)。 ヌーラボのエンジニアは、パスワードの再設定を終えた直後に勧める案を、ほかの二案と比べて選び、再設定を終えた利用者の約 7% がその場でパスキーを作ったと報告した(Nulab 2025)。 設定画面に機能を置くだけでは、ほとんど使われない。
勧める言葉と見せ方も、当事者が試して選んだ。 Google の UX ライター、インタラクションデザイナー、UX リサーチャーは、パスキーをパスワードの置き換えではなく代わりの手段として示し、「Add a passkey」より「Create passkey」のほうが利用者に響いたと書いた(Google 2023)。 パスキーを取り消す操作には、削除ではないことを示すために、ごみ箱ではなく × のアイコンを選んだ。 Microsoft は、「使いやすさ」より「よりよい安全」と「速いサインイン」の訴求のほうが登録を増やしたとし、断るボタンを「今はスキップ」にして利用者の判断を前向きに扱った(Microsoft 2024)。
勧めすぎの失敗もある。 GitHub は、対象のサインインの 100% でパスキーの登録を勧めたところ、登録済みでまだ使い慣れていない利用者が混乱し、もう一つ登録しようとして失敗したため、勧め方を変えた(GitHub 2023)。
失くしたときの回復は、当事者がそろって難所に挙げた。 メルカリは、リアルタイムフィッシングへの対策としてパスキーを入れたが、全部のパスキーを失った利用者は自分で回復できず、問い合わせ窓口で初期状態に戻してもらう必要があると書いた(Mercari 2023)。 GitHub は、2FA を設定して 28 日後に設定を確かめる画面を出し、それで 25% の利用者が設定の誤りや失くした要素を直してアカウントの締め出しを避けられたと報告した(GitHub 2024)。 同じ記事で、事前の UX とデザインへの投資により 2FA 関連の問い合わせが 3 分の 1 減ったとしている。
成功率の数字も公表されているが、比べ方に注意が要る。 Microsoft はパスキーのサインイン成功率を 98%、パスワードを 32% とし(Microsoft 2024)、メルカリはパスキー 82.5%、SMS のワンタイムパスワード 67.7% とした(Mercari 2023)。 FIDO Alliance の会員 9 社の申告では、パスキー 93%、他の方法 63% である(FIDO Alliance 2025)。 分母も比較の相手も違い、外部の検証もないので、パスキーが何割よいかを一つの値では言えない。 言えるのは、どの当事者も成功率と所要時間を数え、それを設計の判断に使っていたことである。
警告の出し方にも、同じ考え方が見える。 Chrome のセキュリティチームは、安全でない接続のサイトを開く前に警告を出す既定の設定を検討した際、警告が多すぎないかを実験で確かめ、利用者の中央値で週 1 回未満、95 パーセンタイルでも週 3 回未満だったと報告した(Chrome Security Team 2025)。 警告を出すかどうかだけでなく、どのくらいの頻度で見せるかが設計の対象になっている。
同意と解約の画面は規制の対象になった
認証の画面が漏えいを減らす設計だとすれば、同意と解約の画面は信頼を失わない設計である。 この画面は、各国の規制当局がすでに点検している。 27 の消費者当局が 2024 年に行った一斉調査では、サブスクリプションを扱う 642 事業者の 75.70% が少なくとも一つのダークパターン(利用者の不利な選択を誘う画面の作り)を使い、自動更新するサービスの 81% で購入の流れの中で自動更新を止められなかった(ICPEN 2024)。 26 の個人情報保護当局による同時期の調査では、調べたサイトとアプリの 97% に欺瞞的なデザインの兆候があり、最初から示されたプライバシーの選択肢の 48% で最も保護の弱い選択肢が既定で選ばれていた(GPEN 2024)。 どちらも違法の認定ではなく、決められた指標で画面を見た結果である。
執行の例では、画面の文言とボタンが直接の対象になった。 FTC は 2025 年に、Prime への加入と解約の画面をめぐって Amazon と和解し、Amazon は 10 億ドルの民事制裁金と 15 億ドルの返金を負った(FTC 2025)。 和解は、加入を断るための明確なボタンを置くことを求め、「いいえ、無料配送はいりません」という断り方のボタンを禁じた。 FTC の 2022 年の報告は、Credit Karma が A/B テストで「事前承認済み」という虚偽とされる表示と「承認の見込みが高い」という表示を比べ、クリック率の高い前者を採ったことを、設計の実験が害を生んだ例として挙げている(FTC 2022)。 クリック率で勝った案が、執行の対象になりうる。
日本でも、画面の作りが法令の言葉で書かれている。 消費者庁の通信販売のガイドラインは、最終確認画面のボタンが「送信する」「次へ」だけで、申込みであることが画面のどこにも示されていない場合は、消費者を誤認させるおそれがあるとし、誤認させる表示かどうかを表示の位置、形式、大きさ、色調などを合わせて判断するとした(消費者庁 2024)。 消費者庁の検討会の中間取りまとめ(案)は、問題となる表示と UI の手法は多様で列挙し尽くせないので、ダークパターンの変化の早さに対応できる「一定程度包括的な規律」を検討すべきとし、違法なパターンと適法なパターンを下位法令やガイドラインで示す方向を示した(消費者庁 2026)。 個人情報保護委員会の制度改正方針は、偽りその他不正の手段による個人情報の取得を課徴金の対象に含めている(個人情報保護委員会 2026c)。
利用者の側の数字も、同じ方向を指している。 米国の成人 5,101 人の調査では、56% が内容を読まずに「同意する」を押すことがよくあると答えた(Pew Research Center 2023)。 JIPDEC の日本の調査では、Web サービスやアプリに個人情報を渡すことに抵抗がある人が約 7 割で、35% がサービスの利用をやめていた(JIPDEC 2026)。 2025 年の同じ調査では、問い合わせだけなのに会員登録や不要な個人情報の入力を求められた経験のある人の 73.3%、定期購入であることが分かりにくく最後に手数料が足された経験のある人の 72.0% が、その先に進むのをやめていた(JIPDEC 2025)。 ダークパターンは、規制の問題であるとともに、利用者が離れる理由にもなっている。
漏えいのあとの説明も、デザインの仕事に入る。 JIPDEC の 2026 年の調査では、漏えいのあとの信頼回復で重視される点は、被害者への丁寧な事後対応(再発防止策の提示など)が 58.6%、対応の速さが 51.2% で、企業のセキュリティと個人情報保護の情報について「内容が分かりにくい」と答えた人が 46.1% いた(JIPDEC 2026)。
デザイナーの付加価値は、誰がどう認めているか
規制当局は、デザイナーを名指しで求め始めている。 英国 ICO の子ども向けの設計の行動規範は、コーダー、UX デザイナー、システムエンジニアに日々の仕事でこの基準に取り組んでほしいと書き、設定は正当な理由がない限り「高いプライバシー」を既定にするとした(ICO)。 EDPB は、欺瞞的なデザインパターンを避けるために、デザイナー、データ保護責任者、意思決定者を含む学際的なチームを使うよう管理者に勧めた(EDPB 2023)。 同じ EDPB は、データ保護バイデザインとバイデフォルトを、製品を売るときの競争優位の手段として使うよう産業に促している(EDPB 2020)。 規制の要件が画面と既定の設定の言葉で書かれるとき、その要件を画面に落とせる人の仕事が増えると読める。
当事者の組織は、その仕事を設計の工程に組み込み始めた。 Microsoft Design は、セキュリティの目標と成功の指標、脅威モデリング、ユーザビリティテスト、デザインスプリントとレビュー、アーキテクチャのレビューに当てはめる UX のツールキットを公開した(Microsoft Design 2025)。 英国政府の GOV.UK One Login のチームは、2021 年 4 月から 150 回を超える調査を 2,000 人を超える参加者と行い、13〜17 歳の利用者は本人確認に成功する見込みが平均より 20〜33% 低いことを見つけた(UK Government Digital Service 2024)。 本人確認を厳しくすると、証明書類や金融の記録を持たない人が締め出される。 その偏りを見つけて測ったのは、ユーザーリサーチの仕事である。 GOV.UK のデザインシステムは、クッキーバナーを画面の上に固定しない理由を、フォーカスの当たった内容を隠さないためと書いている(GOV.UK Design System 2026)。 同意の画面の作りが、アクセシビリティの要件とあわせて決められている。
数字で示せる価値は、いまのところ問い合わせと成功率に現れる。 GitHub の 2FA の必須化では、問い合わせの 3 分の 1 減と、確かめの画面による 25% の自己回復が、デザインの投資の結果として書かれていた(GitHub 2024)。 ただし、これらは当事者の自己申告で、デザインを入れなかった場合と比べたものではない。
労働市場のデータは、この価値をまだ映していない。 米国の労働統計局は、デジタルデザイナーの仕事を、使いやすさのためにサイトやインターフェースの配置、機能、ナビゲーションを作り試すことと定義しており、職務の記述にプライバシーの語はない(BLS 2026)。 IAPP の調査では、プライバシーの専門職の 80% 超がプライバシー以外の責任を兼ね、55% が AI ガバナンスを担う部署にいる(IAPP 2024)。 ISACA の調査では、セキュリティの専門職に足りないスキルの首位はソフトスキル(59%)で、その中にコミュニケーション(56%)が入る(ISACA 2025)。 隣の職種が広がり、人と話す力が足りないとされている、という間接の手がかりはある。 しかし、UX の求人の要件にプライバシーが入る割合、セキュリティやプライバシーを専門にするデザイナーの求人の推移、そうしたデザイナーと一般の UX デザイナーの給与の差を示すデータは、探した範囲では見つからなかった。
デザイナーが取れる行動
ここまでの資料から、デザイナーが取れる行動を六つ挙げる。 どれも当事者の証言か規制当局の要件に支えられるが、デザイナーの関与が漏えいの件数を減らしたことを比べて確かめた産業界の資料は見つからなかった。 根拠の強さを各項に添える。
一つめは、取り違えを手順と画面の仕組みで減らすことである。 漏えい等報告の多くは紙の書類の誤交付とカードの誤送付で、上場企業の事故でも CC と BCC の取り違えや誤設定が 2 割を占める(個人情報保護委員会 2026a、東京商工リサーチ 2026a)。 窓口で書類を渡す手順、宛先を確かめる画面、一括送信の既定の設定は、サービスデザインと UI の対象になる。 ただし、特定の画面や手順が誤送付を何割減らすかを示す資料は、この調査では見つからなかった。
二つめは、フィッシングに強い認証へ移る導線を設計することである。 勧める場所(登録、サインイン、再設定などの要所)、言葉(代わりの手段としての提示)、頻度(勧めすぎない)、失くしたときの回復の四つが、当事者の共通の論点だった(Microsoft 2024、Google 2023、GitHub 2023、Mercari 2023)。 入力欄では、組成規則を課さず、パスワードマネージャーと貼り付けを妨げない(NIST 2025)。 根拠は当事者の証言と標準で、各社の数値は比べられない。
三つめは、同意、解約、最終確認の画面を、規制当局の基準で点検することである。 EDPB の欺瞞的なデザインパターンの分類、各国の一斉調査の指標、消費者庁のガイドラインは、そのまま設計のチェックリストとして使える(EDPB 2023、ICPEN 2024、GPEN 2024、消費者庁 2024)。 A/B テストで勝った案が執行の対象になった例がある以上、クリック率以外の指標(重要な条件が伝わったか)を一緒に測る必要がある(FTC 2022)。
四つめは、漏えいのあとの通知と説明を設計することである。 信頼回復で重視されるのは丁寧な事後対応と速さで、企業の説明は内容が分かりにくいと受け取られている(JIPDEC 2026)。 事故が起きる前に、通知の文面と、利用者が取るべき行動の示し方を用意しておく価値がある。
五つめは、セキュリティとプライバシーの作業に、設計の段階から入ることである。 脅威モデリングとアーキテクチャのレビューにデザイナーが加わり、パスワードの変更や権限の管理をユーザビリティテストの対象にする(Microsoft Design 2025)。 規制当局もデザイナーを含む学際チームを勧めている(EDPB 2023)。 ただし、ツールキットの効果は公開の記事では測られていない。
六つめは、出した価値を数字で示すことである。 当事者が使っていた数字は、登録率、サインインの成功率、所要時間、問い合わせの件数、自己回復の割合だった(GitHub 2024、Microsoft 2024、Nulab 2025)。 労働市場がこの領域のデザイナーをまだ別扱いしていない以上、価値は職名ではなく、こうした数字と、規制の要件を画面に落とした実績で示すことになる。
この整理が当てはまらないところ
漏えいの原因の数字は、法律の報告、上場企業の公表、国際的な侵害の集計で母集団と定義が違い、どれか一つを漏えいの全体像とは言えない。 デザインが届くと書いた誤交付と誤送付、認証、同意と通知は、脆弱性やランサムウェアのような主な侵入経路を含まない。 当事者の証言は大企業と公的機関に偏り、成功率や問い合わせの減少は自己申告で、デザイナーの関与の有無を比べた資料はない。 日本の資料では、デザイナーがセキュリティやプライバシーの設計に加わった事例を当事者が語ったものは、パスキーの導入の記事のほかには見つからなかった。 デザイナーの報酬や求人で付加価値を示すデータは見つからなかった。
関連ノート
- 個人情報の漏えいが続くとき、デザイナーは何ができ、どこで付加価値を出せるか(学術研究から):同じ問いの学術版
- 今後5年間で価値が出るデザイナーキャリア — 産業動向(2026):デザイナーのキャリアと価値の産業の資料
- デザイン価値の多層性:道具的価値から関係的・承認的価値までの文献地図:デザインの価値の次元
未検証事項
主要主張に未検証の記述は残していない。 到達できなかった資料(OECD の Dark commercial patterns、ICO と CMA の共同文書、ISO 31700-1、GDPR と DSA の第 25 条の EUR-Lex の本文、消費者庁の検討会の中間取りまとめの成案、デジタル庁の DS-511 本編)は、台帳に試行した経路とともに記録し、note では使っていない。 Microsoft のツールキットの「社内 20 チームで試用」、GOV.UK のクッキーバナーの「追加の調査が必要」という調べ役の報告は、本文で確かめられなかったので使っていない。
参照文献
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- Chrome Security Team(Chris Thompson ほか). 2025. “HTTPS by Default.” Google Blog. https://blog.google/security/https-by-defau/ (2026-10-24 閲覧)
- デジタル庁. 2026. 『DS-512 本人確認ガイドライン(当人認証)の解説』. https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e2a06143-ed29-4f1d-9c31-0f06fca67afc/c7edc43c/20260224_resources_standard_guideline_identityverification_1.pdf (2026-10-24 閲覧)
- デジタル庁. 2025. 「本人確認ガイドラインの改定方針(検討会資料)」. https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e00557f1-dc71-4d94-aa47-46e30a511779/7ebd0d00/20250930_meeting_identification-guideline-revision_outline_03.pdf (2026-10-24 閲覧)
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書いた人:小川 修一郎(デザイン研究者/デザインコンサルタント) 経歴を見る →