Shuichiro Ogawa
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Notes ・ updated 2026-08-15

平成レトロはなぜ流行ったか:ギャルマインドへの憧れ尺度の開発と検証

昭和レトロには説明がある。 物質的に豊かになりすぎた現代から、精神的に豊かだったとされる時代を懐かしむ。 当時を知る者には自伝的なノスタルジア、知らない若者には歴史的なノスタルジアとして働く。

では平成レトロはどうか。 ルーズソックスもプリクラ帳も、ノスタルジックとは言いにくい。 懐かしむには近すぎるし、憧れるには古すぎる。

本出莉乃はここに、別の説明を置いた。 平成レトロを支えているのはノスタルジアではなく、当時のギャルが持っていた価値観への憧れである。

そう言うためには、その価値観を測れなければならない。 この論文の中身の大半は、その測定を作る作業である。

書誌は関西学院大学社会学部紀要141号、89から124頁、2023年10月31日。 「(安田賞)受賞論文」という冠がついた学部紀要の論文で、査読誌論文ではない。 出典台帳は source/review/gyaru-mind-operationalization/papers.md の M 節にある。 池上桃花らによる後年の工学的操作化との関係は gyaru-mind-operationalization、ギャル研究全体の地図は gyaru-culture-mindset-literature にある。 本尺度が実際に何を測っているか(44項目がすべて憧れの形をしている点)の検討は gyaru-mind-measurement-design にある。

調査メタ情報

  • 調査日: 2026-08-15。本文36頁(PDF)を全文確認した
  • 媒体: 関西学院大学社会学部紀要 141, 89–124(2023-10-31、ISSN 0452-9456)。学部紀要の受賞論文であり査読誌論文ではない
  • 確度: 本ノートの数値と手続きはすべて本文から直接取った。書誌が完全に取れていない引用文献には [要一次検証] を付す
  • 安田賞の性質(学生論文賞か否か、選考手続き)は確認できていない [要確認]

先に測ろうとした人がいた

本出が尺度を作る前に、同じことを試みた人がいる。

電通ギャルラボの西井美保子が2011年に『パギャル消費:女子の7割が隠し持つ「ギャルマインド」研究』(日経BP社)で、「心(ラブ)」「技(デコ)」「体(ガッツ)」の3軸それぞれ10項目、計30項目の尺度を作って調査していた。

本出はこれを二つの理由で退けている。

第一に、西井自身が測定条件の程度の幅が大きいことを指摘しており、項目の妥当性が低い。 第二に、「つけまつげを使う」「ドンキ・安売り店によく行く」といった直接的な行動を聞く項目が多く、マインドそのものを測る項目が少ない。

行動を数えても構えは測れない、という指摘である。 この批判は、後年の工学的操作化にもそのまま当たる(後述)。

研究1:雑誌10冊を読む

構成概念をどこから取るか。 本出は当時のギャル雑誌の内容分析を選んだ。

対象は3誌10冊である。

  • 『Cawaii!』2冊(2000年9月号、10月号)
  • 『S cawaii!』4冊(2000年10月号、2001年から2003年の各5月号)
  • 『Ranzuki』4冊(2007年6月号、8月号を含む)

雑誌の選び方には根拠が置かれている。 長谷川(2015)によれば、『egg』がガングロ中心で誌面を作っていたのに対し、『Cawaii!』は白ギャルと黒ギャルをバランスよく載せていた。 『S cawaii!』は『Cawaii!』の卒業読者向けに作られた18歳以上の大人ギャル誌で、『Ranzuki』はガングロ系が中心である。 ターゲット層の異なる3誌を並べることで、2000年から2007年のギャル文化全体を覆おうとしている。 実物は国立国会図書館関西館の所蔵から取っている。

分析したのは、見出しのリード文と、インタビューで取り上げられたギャル当事者の声である。 KJ 法で類似性によって分類し、ギャル文化の長い歴史を通して共通に適用できるものだけを残した。

当事者への聞き取りを、あえて行っていない。 その理由も書かれている。 Z世代が憧れているのは「いまの平成ギャル」ではなく「当時の平成ギャル」だから、当人の回想ではなく当時の流行そのものから取るべきだ、という判断である。 松谷(2018)が、雑誌メディアがコギャルブームを拡大再生産する役割を担ったと論じていることも根拠に挙げている。

導き出された4つの特徴が、この研究の構成概念になる。

  1. 他人の目を気にすることなく、自分らしさを大切にする
  2. 他人より目立ちたい、一目置かれたい
  3. 「かわいい」を追求することで、自分に自信を持っている
  4. 友達を大事にする

研究2:尺度を作り、当たりと外れを両方書く

2022年11月、Qualtrics で調査票を作り、クラウドワークスで Web 調査を行った。 対象は20代までの女性、615名の回答から不備を除いて594名(平均25.49歳、SD=2.91)。 5件法である。

探索的因子分析(最尤法、プロマックス回転)にかけ、スクリープロットで因子数を決め、因子負荷量の小さい項目を1つ除いて再分析した。 想定どおり4因子に分かれた。

因子α平均(SD)
かわいい.8652.15 (0.77)
目立ちたい.8633.18 (0.82)
友達大事.7622.44 (0.68)
自分らしさ.7651.95 (0.59)
尺度全体.882.43 (0.50)

ここまでは順調である。 興味深いのは次で、4因子それぞれに既存の確立した尺度を当てて、想定した相関が出るかを検証している

下位因子当てた既存尺度結果
かわいい化粧意識尺度の「おしゃれとしての化粧因子」(笹山 2015)r = .496(p<.01)想定どおり
友達大事友達との付き合い方尺度の「本音を出さない自己防衛的なつきあい方因子」(落合・佐藤 1996)r = −.408(p<.01)想定どおり
目立ちたい同調行動尺度の「仲間への同調因子」(葛西・松本 2010)r = .138(p<.01)想定と逆
自分らしさ本来感尺度(伊藤・小玉 2005)r = .015(n.s.)有意でない

4つのうち2つが外れた。

「目立ちたい」は、仲間への同調と負の相関を持つと想定していた。 目立ちたい人は同調しないはずだからである。 出たのは弱い正の相関だった。

「自分らしさ」は、本来感(自分に感じる本当らしさの感覚)と負の相関を持つと想定していた。 出たのは無相関である。

本出はこれを書いたうえで、3因子は妥当性を有し、自分らしさ因子は妥当性が不十分だと判定した。 そして、この因子だけ質問項目を作り直して研究3で再検討することにした。

外れた結果を消さず、外れた因子を捨てず、作り直して再検証する。 尺度開発として踏むべき手順を踏んでいる。

研究3:893名で仮説を検証する

本調査は fastask で行われた。 15歳から50代までの女性を、年代ごとに人数を割り当てて集めている(10代100名、20代から50代は各200名が目標)。 944名の回答から途中終了を除いて893名(平均36.84歳、SD=12.78)。

研究2で床効果が出た「自分らしさ因子」は、8項目を新しく作り直した。 自分らしく生きることを本当に重視していなければ肯定しない項目を増やし、逆転項目も入れている。 平行分析つきで因子分析をやり直した結果、α は次のようになった。

かわいい .885、目立ちたい .904、友達大事 .828、自分らしさ .703、尺度全体 .888

追加の妥当性検討として、自由意志信念尺度の「制約からの自由因子」(渡辺・唐沢 2022)も使っている。

昭和レトロと平成レトロへの魅力度は、それぞれの時代の風景と流行品を写真で見せて11段階で測った。 ノスタルジア感情は6件法である。

仮説1は支持されなかった

仮説1はこうである。 現在の生活への満足度が低い者は、ノスタルジア性向を媒介して、昭和レトロへ魅力を感じる。

結果は否定的だった。 現在満足感が低いほどノスタルジア性向は高まったが、ノスタルジア性向と昭和レトロの魅力度のあいだに有意な関係がなかった(β=.05, n.s.)。 Bootstrap 法で推定した間接効果も有意でない(z=−1.289, n.s.)。

昭和レトロの説明として広く流通している「懐かしさが魅力を生む」という筋が、このデータでは支持されなかったことになる。

追加分析で30代、40代、50代を分けて見ると、40代だけが有意傾向を示した(β=.15, p<.10、間接効果 z=−1.753, p<.10)。 ノスタルジアを感じるピークが30歳から40歳だという先行知見(Kusumi, Matsuda & Sugimori 2010)に基づく分析である。

ただし本出は、ここに交絡があることを自分で指摘している。 40代であることと、昭和レトロブームを実際に経験していることが、このデータでは分けられない。

仮説2は半分だけ当たった

仮説2はこうである。 Z世代において、現在の生活への満足度が低い者、コロナ禍での不満が高い者は、ギャルマインドへの憧れを媒介して、平成レトロへ魅力を感じる。

前半は逆の結果が出た。 現在の生活に満足している人ほど、ギャルマインドへの憧れが高かった。

後半は仮説どおりだった。 コロナ禍での不満感が高いほどギャルマインドへの憧れが高く(β=.29, p<.01)、憧れが高いほど平成レトロの魅力度が高まる(β=.32, p<.01)。 Bootstrap 法で間接効果も有意である(z=3.066, p<.01)。

平成レトロブームの背景に「ギャルマインドへの憧れ」が実際にあることが、この経路で確認された。

現在の生活への不満と、コロナ禍での不満が、逆向きに効いている。 本出はこれを、Z世代にとって「コロナ禍で生活が激変して生じる不満感」と「現在の人生に対する満足感」が別物として扱われている可能性として読んでいる。

ノスタルジアの想起は、どちらも高くない

昭和レトロと平成レトロで、写真がノスタルジア感情をどれだけ喚起するかを比べている(n=893)。

昭和レトロ 2.996(SD=1.011)、平成レトロ 2.646(SD=1.167)、t=10.280、p=.000。

昭和のほうが高い。 ただし6件法で、どちらも平均が3を下回っている。 本出はこれを課題として明記し、写真の選定基準の問題を指摘している。 1つのキーワードに複数枚の写真を使う、当時に撮影された写真を使うといった改善を今後の課題に挙げた。

自分の結果を有利に読まず、測定の弱さを先に書いている。

世代による受け取り方の違い

松谷(2012)のコギャルブームのピークが1978年から1981年度生まれだという指摘を根拠に、世代を3つに分けている。

  • X世代(非ギャル世代、1977年生まれ以前、45歳以上):ノスタルジア性向が高い人ほど平成レトロを低く評価する。当時のギャルに否定的な評価を持っており、平成レトロを「古き良き時代」とは言えない可能性
  • Y世代(ギャル世代、27歳から44歳):現在の生活に満足している人ほど平成レトロを高く評価する。「若い女性」であることの価値を理解していた世代であり、満足しているほど若い頃を肯定的に捉えられている可能性
  • Z世代(15歳から26歳):現状に満足している人ほど平成レトロを高く評価する

同じブームが、経験の有無によって別のものとして受け取られている。

何が言えて、何が言えないか

言えること。 ギャルマインドを4因子で測る尺度が作られ、α と基準関連妥当性が報告されている。 平成レトロの魅力の背景に、ノスタルジアではなくギャルマインドへの憧れがあるという経路が、893名のデータで確認された。 昭和レトロについて広く流通している「懐かしさが魅力を生む」という説明は、このデータでは支持されなかった。

言えないこと。 確認的因子分析は行われておらず、探索的因子分析にとどまる。 4因子構造が別の標本で再現するかは検証されていない。 標本はクラウドソーシングと Web パネルで、代表性の保証がない。 横断調査なので、媒介分析の結果を因果として読むことはできない。 そして査読を経ていない。

残る弱点。 「自分らしさ因子」は研究2で妥当性が確認できず、研究3で項目を作り直したが、その再構築版が既存尺度と収束することは示されていない(自由意志信念尺度との相関の値は本ノートで確認できていない [要一次検証])。 α も4因子中でこの因子だけ .703 と低い。

後年の工学的操作化との関係

池上桃花ら(駒澤大学)が「ギャルマイン度」を提案したのは2025年8月、本出の公刊から約1年10か月後である。

比較すると、方法論の完備度は逆転している。

本出 2023池上ら 2025–2026
定義の導出雑誌10冊の内容分析(KJ法)一般書1冊を著者間の討議で分解
標本1,487名69名(訓練)と24名(実験)
因子分析探索的因子分析を2度、平行分析つきなし
信頼性係数α = .703〜.904報告なし
基準関連妥当性既存尺度5件と検証、外れも報告なし
掲載媒体学部紀要の受賞論文査読国際会議(ワークショップと Extended Abstract)

媒体の格は池上らが上で、方法の完備度は本出が上である。

そして本出が西井(2011)に向けた批判が、池上らにもそのまま当たる。 「つけまつげを使う」「ドンキによく行く」という行動項目でマインドは測れない、という指摘である。 池上らの8因子のうち重みの大きい2つ(Emotional Intensity と Linguistic Creativity)は、感嘆や強意語やスラングという発話の表層特徴である。 測っている対象の水準が、本出が退けたものと同じ位置にある。

なお池上らは、日本語で書いた非査読のデモ論文(WISS 2025)ではこの論文を引用しているが、英語の査読論文(CHI EA 2026)の参考文献37件には入れていない。 詳細は gyaru-mind-operationalization に記した。

参照文献

URL の取得日は 2026-08-15。

本ノートの対象

  1. 本出莉乃. 2023.(安田賞)受賞論文「平成ギャルの持つマインドが現代女性たちに及ぼす影響の検討:昭和レトロおよび平成レトロ流行の背景の検討とともに」『関西学院大学社会学部紀要』141, 89–124(2023-10-31、ISSN 0452-9456). https://kwansei.repo.nii.ac.jp/records/2000128

本出が批判した先行尺度

  1. 西井美保子. 2011. 『パギャル消費:女子の7割が隠し持つ「ギャルマインド」研究』日経BP社.

妥当性検討に使われた既存尺度

  1. 伊藤正哉・小玉正博. 2005. 本来感尺度. [要一次検証](書誌の完全形が本文から取れていない)
  2. 葛西真記子・松本麻里. 2010. 青年期の友人関係における同調行動:同調行動尺度の作成. 『鳴門教育大学研究紀要』25, 189–203.
  3. 笹山郁生. 2015. 接近回避志向と化粧意識・化粧行動との関連性. 『福岡教育大学紀要』(64), 21–27.
  4. 落合良行・佐藤有耕. 1996. 青年期における友達とのつきあい方の発達的変化. 『教育心理学研究』44. [要一次検証](頁)
  5. 渡辺匠・唐沢かおり. 2022. 自由意志信念尺度. [要一次検証](書誌の完全形が本文から取れていない)
  6. 寺崎正治・綱島啓司・西村智代. 1999. 現在満足感尺度. [要一次検証](書誌の完全形が本文から取れていない)

理論的背景と雑誌選定の根拠

  1. 松谷創一郎. 2012. 『ギャルと不思議ちゃん論』. [要一次検証](出版社と副題)
  2. 松谷創一郎. 2018. [要一次検証](書誌)
  3. 長谷川. 2015. [要一次検証](書誌)
  4. 高野光平. 2018. [要一次検証](書誌)
  5. 栗田宣義. 1999. プリクラ・コミュニケーション:写真シール交換の計量社会学的分析. 『マス・コミュニケーション研究』55, 131–152.
  6. 楠見孝. 2021. なつかしさの認知:感情的基盤と機能、個人差と年齢変化. 『心理学評論』64(1), 5–28.
  7. Kusumi, T., Matsuda, K. & Sugimori, E. 2010. [要一次検証](誌名と巻号頁)
  8. 佐藤(佐久間)りか. 2002. 「ギャル系」が意味するもの:〈女子高生〉をめぐるメディア環境と思春期女子のセルフイメージについて. 『国立女性教育会館研究紀要』(6), 45–57.
  9. 小林正法. 2021. 懐かしさの喚起:喚起法、測定、個人差. 『心理学評論』64(1), 115–130.
  10. 青木久美子. 2011. 変わりゆく「昭和30年代ブーム」:キッチュからイデオロギーへ. 『社会学論考』(32), 83–107.
  11. 片桐新自. 2007. 「昭和ブーム」を解剖する. 『関西大学社会学部紀要』38(3), 43–60.
  12. Baker, S. M. & Kennedy, P. F. 1994. Death by Nostalgia: A Diagnosis of Context-Specific Cases. Advances in Consumer Research 21, 169–174.
  13. Sedikides, C. & Wildschut, T. 2016. Past forward: Nostalgia as a motivational force. Trends in Cognitive Sciences 20(5). [要一次検証](頁)

未検証事項

  • 関西学院大学社会学部の安田賞の性質(学生論文賞か否か、選考手続き)[要確認]
  • 本論文が卒業論文を基にしたものか、指導教員の関与の程度 [要確認]
  • 研究3における「自分らしさ因子」の再構築版と自由意志信念尺度との相関の値。妥当性が回復したかを確認できていない [要一次検証]
  • 研究2で除外された項目(項目Ⅱ_6)の内容
  • 尺度の全項目リスト(表2と表4に掲載されているが、本ノートでは因子名と統計量のみを扱った)
  • 参照文献3、7、8、9、10、11、12、15、21 の完全な書誌 [要一次検証]
  • 本出の4因子と池上らの8因子を同一標本に適用した比較研究の有無(探索していない)
  • 本尺度を用いた後続研究の有無(探索していない)

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