Shuichiro Ogawa
English

ノート · updated 2026-10-07

コンサルティングの提案とコンペ:型、発注と受注の理由、生成 AI で変わるもの(産業界の資料から)

産業界の資料(英米日の調達制度と公的監査、RFP 対応の業界調査、コンサル企業の決算説明会での発言)から、コンサルティングの提案の型と、コンペでの発注と受注の理由を整理し、生成 AI が使われ始めた 2024 年以降に何が変わったかを見た。学術研究は集めていない。

目次(7)
  1. 速く書けるようになった提案書は、選ばれるようになったのか
  2. 提案の型を決めているのは買い手の評価の枠である
  3. 発注の理由と受注の理由は、買い手と売り手で見え方が違う
  4. 2024 年以降に動いたもの
  5. 生成 AI で何が変わるのか
  6. この整理が当てはまらないところ
  7. Footnotes

速く書けるようになった提案書は、選ばれるようになったのか

このノートは産業界の話である。 使ったのは英国、米国、日本の調達制度と公的監査の文書と、RFP(提案依頼書)への対応を調べた業界調査である。 これにコンサルティング企業の経営者が決算説明会やインタビューで語った言葉を加え、学術研究は集めていない1。

提案書を書く現場には、2024 年から生成 AI が急に入った。 RFP 対応ソフトの Loopio が APMP(提案管理の専門職団体)と毎年行う調査では、生成 AI を試したチームは 2023 年に 34% だった(Loopio 2024)。 翌 2024 年には 68% が使うようになり(Loopio 2025)、2025 年には 79% になった(Loopio 2026)。

同じ調査で、平均の勝率は 2023 年の 43% から 2024 年に 45% へ上がり、2025 年には 39% に下がった(Loopio 2025; Loopio 2026)。 Loopio は下がった理由を経済環境に求めていて、AI との因果は調べていない。 ただ、AI の利点として勝率の向上を挙げるチームが少ないことは、Loopio 自身が書いている(Loopio 2026)。 書類を速く書けることと、選ばれることは別の話らしい。

では、コンサルティングの提案は何によって選ばれてきたのか。 その型と理由のどこが 2024 年以降に動き、どこが動いていないのか。

提案の型を決めているのは買い手の評価の枠である

提案書の章立ては会社ごとに違う。 しかし、競争で出す提案書が何を書くかは、売り手より先に買い手の評価の枠で決まっている。 公的調達の文書には、その枠がはっきり書かれている。

英国では、2023 年調達法が落札の基準を「最も有利な入札」(most advantageous tender、MAT)と定めた(UK Parliament 2023)。 MAT は、要件を満たし、評価基準に最もよく合う入札である。 内閣府の手引きは、価格だけで落札することは「ほとんどの契約に向かない」と書く(Cabinet Office 2026)。 コンサルティングの共同調達の枠組み(MCF3、2021〜2025 年)では、個別の競争が既定の調達の経路である(Crown Commercial Service 2021)。 配点は品質が 50〜90%、価格が 10〜50% と定められている。 品質の小項目の例として挙がっているのは、取り組み方、解決策、人員の配置、立ち上げである。

米国の連邦調達規則は、二つの型を分ける。 tradeoff では、最も安い提案でなくても落札でき、高い提案の便益が追加の費用に見合うことと、その理由を記録することが求められる(GSA et al. n.d.a)。 LPTA(技術的に許容できる最低価格)では、要件を満たした中で最も安い提案を選び、tradeoff は認めない(GSA et al. n.d.b)。 国防総省が 2017 年度前半に 1,000 万ドル以上で発注した IT と支援サービスの契約では、LPTA はまれにしか使われていなかった(GAO 2017)。

日本の設計とコンサルティングの業務では、プロポーザル方式が技術提案書で「技術的に最適な者」を選ぶ(全国営繕主管課長会議 2018)。 発注者は重点を置く 1〜3 の評価テーマを示し、応募者は業務の実施方針と、テーマへの技術提案を書く。 技術的に最適な者は価格で評価できないとして、委託料の提出を求めて評価に使うことは適当でないとされる。 提出枚数を制限し、具体的な設計案は求めない。 デジタル庁の 2023 年度の調達では、一般競争 150 件のうち総合評価落札方式が件数で 55%、金額で 97% を占めた(デジタル庁 2025a)。 一般競争とは別に、プロポーザル型企画競争が 95 件(全契約の件数の 25%)あった。

三つの国の枠を並べると、競争で出す提案書が書くことは共通している。 仕事の進め方と方法、担当する人と体制、似た仕事の実績、そして価格である。 この並びは 2024 年以前から変わっていない。

価格の型も、2024 年以前に出そろっていた。 英国政府が 2022 年に出したコンサルタント調達の手引き(Consultancy Playbook)は、三つの型を挙げる(Cabinet Office 2022)。 時間単価(T&M)は、職位ごとの日額を並べた単価表で実働に払う。 固定価格は、仕様と期間に対して決めた額を払い、売り手は見積もりに予備を足して額を出す。 成果報酬(payment by results)は、報酬の一部を時間単価か固定価格で、残りを成果に応じて払う。 手引きは、範囲が曖昧な初期には時間単価を、要件が固まれば固定価格を勧める。 成果報酬は、成果を数えられ、基準値に合意でき、売り手が成果を実現する手段をすべて握っている場合に限るとしている。 同じ手引きは、最も低い平均日額で品質の要件をすり抜けられないよう、品質の最低点を設けることも求めている。

発注の理由と受注の理由は、買い手と売り手で見え方が違う

提案書の評価の枠は、買い手が何で選ぶかの全部ではない。 Hinge Research Institute は、専門サービスの買い手 822 人と売り手 533 人を調べ、2013 年に公表した(Hinge Research Institute 2013a; 2013b)。 買い手が新しい会社を探すとき、まず知人と同僚に聞く割合は 71% だった。 候補を選ぶ基準では評判が 21% で最も高く、既存の個人的な関係(18%)や専門性(12%)を上回った。 最終の選定でも評判が首位に残り、報告書は「費用は最終の選定では小さな要素である」と書く。 売り手は、専門性と経験の重みを大きく見積もりすぎていた。 この調査の買い手は売り手の顧客なので、既存の取引に寄った結果である点は割り引いて読む必要がある。

売り手の側から見た負けの理由は、これと食い違う。 Loopio の調査では、価格が 2021 年以来ずっと負けの理由の首位にある(Loopio 2026)。 2023 年には 67% が価格で負けたと答え、2 年前の 55% から増えた(Loopio 2024)。 2025 年に提案書の質を理由に挙げたのは 13% にとどまった(Loopio 2026)。 Hinge と Loopio は年も母集団も違うので数字は比べられないが、買い手が評判と関係で選び、負けた売り手が価格を理由に挙げる構図は、Hinge が書く売り手の思い込みと同じ向きである。

公的部門の買い手は、2024 年以降、なぜ外部に頼むのかを説明させる方向へ動いた。 英国の会計検査院(NAO)によると、中央政府のコンサルタント支出は 2022〜23 年度に約 13.6 億ポンドで、財務相は 2025〜26 年度に支出を半減する意向を示した(National Audit Office 2025)。 NAO は教訓の一つに、契約の焦点を投入(人と時間)ではなく成果と産出に置くことを挙げる。 同じ調査で、各省と外郭団体の担当者の 86% はコンサルタントを価値があると評価していた。 米国の一般調達局(GSA)は 2025 年 4 月、各機関に外部コンサルティングの支出をすべて正当化させる統制を入れたと発表した(GSA 2025a)。 こうした抑制は政権の歳出方針から来ていて、生成 AI が原因だとはどの文書も書いていない。

2024 年以降に動いたもの

提案を書く側の作業

生成 AI の利用が広がった様子は、冒頭の Loopio の数字のとおりである。 2025 年には利用者の 84% が週に 1 回以上使い、用途は特定の回答の生成、編集、初稿の順に多かった(Loopio 2026)。 1 件の作成時間は、2025 年版が執筆時間で 30 時間から 25 時間に減ったと書き(Loopio 2025)、2026 年版は着手から提出までで 33 時間(前年より 2 時間短い)と書く(Loopio 2026)。 定義が違うので二つはつなげられないが、どちらも短くなる向きである。 2025 年には、年間の提出件数で管理コンサルティングが保険を抜いて業種の首位になった(Loopio 2026)。 ただし Loopio の回答者のうち管理コンサルティングは 5% しかいない。

発注する側の制度

発注側は、売り手の AI 利用を禁じず、開示を求める方向に動いた。 英国内閣府の調達政策通知 PPN 02/24(2024 年 3 月 25 日)は、AI で入札書を作れば売り手は「より多くの公共契約に応札できる」と認めたうえで、AI の利用は禁止されないと書き、入札書作成での AI 利用を開示させる質問の例を示した(Cabinet Office 2024)。 2025 年 2 月の改訂版 PPN 017 も同じ立場を保っている(Cabinet Office 2025)。 米国の行政管理予算局(OMB)の覚書 M-25-22(2025 年 4 月 3 日)は、契約の履行で業者が AI を使うことの開示を求める条項を、入札の公告に入れるべき場合があるかを判断するよう各機関に求めた(OMB 2025)。

買い手自身も AI を使い始めている。 GSA は 2025 年 8 月、AI を取り込んだ調達の仕組みについて産業界に情報を求めた(GSA 2025b)。 デジタル庁は 2025 年 7 月の資料で、生成 AI を使った調達仕様書の作成の検討と、総合評価の価格点と技術点の比率 1:3 の適用要件の見直しを、今後の取組に挙げた(デジタル庁 2025b)。 同庁は 2025 年 5 月に、政府が生成 AI を調達して使うときのガイドラインを定めている(デジタル庁 2025c)。 どれも検討と方針の段階で、提案の評価がどう変わったかを示す結果はまだ出ていない。

価格の型の比率

価格の三つの型の比率は、大手で動いている。 Accenture の CFO は 2025 年 12 月の決算説明会で、FY25 の仕事の約 60% が固定価格で、過去 3 年で約 10 ポイント増えたと述べた(Accenture 2025b)。 理由に挙げたのは、自社のプラットフォームの役割が長い時間をかけて増えたことと、顧客が費用と納期の確実さを求めていることである。 同じ説明会で CEO は、売上と人員が比例しなくなったのは RPA の導入までさかのぼる長い流れだと答えた。 その 3 か月前の説明会では、CFO が先端 AI の案件の価格は全社平均より高いと述べ、CEO は AI で浮いた顧客の予算が次の施策に回ると説明した(Accenture 2025a)。

Cognizant は 2025 年 10〜12 月期の説明会で、固定価格と取引量に応じた料金の仕事が売上の 50% を超えたと述べ、顧客が生産性の向上を見込んで支出の基準を引き下げていると説明した(Cognizant 2026a)。 2026 年 7 月の説明会では、一部の顧客が AI の学習と推論の費用を織り込んだ単価表を求め始めたと述べた(Cognizant 2026b)。 CFO は、時間単価の仕事は 6〜9 か月ほどの短い周期で更新されるたびに AI の効果を取り込んでいくと説明した。

戦略コンサルティングでは、成果に連動する報酬が語られている。 McKinsey の Global Managing Partner は 2026 年 1 月、収益の約 3 分の 1 が成果を引き受ける型だと述べ、任期中に過半にしたいと語った(Harvard Business Review 2026)。 同じ場で、社員数を「人間 4 万人とエージェント 2 万人」と表現している。 BCG の CEO は、最大級の AI 案件の 4 分の 3 が変動報酬だと述べる一方、全体では 3 分の 1 を大きく下回るとし、自身のパートナーとしての最初の案件も変動報酬だったので「新しくない」と語った(BCG n.d.)。 両社とも、何を成果連動に数えるかの定義は示していない。

広告では、WPP の CEO が 2026 年 8 月、AI で少ない人数で速く仕事ができるようになるので時間単価の型は長期的に持続しないと述べた(Bradley 2026)。 ただし成果報酬に応じた顧客はまだ 1 社だけで、移行には数年かかるとした。 日本では、野村総合研究所が 2026 年 4 月の説明会で、コンサルティングの売上はすべて AI 関連になる見通しで、AI 関連では単価も上げたいと答えた(野村総合研究所 2026)。 AI 関連の案件は大型化して数十億円のものが出始めたとも述べたが、AI 関連売上の定義は「非常に難しい」と断っている。

買い手の側では、IDC が 2025 年 10 月に CIO と CTO 72 人に聞いた調査で、次の 1 年に乗り換える可能性が最も高い IT の取引先としてコンサルティングとシステム統合が挙がり、その割合は 20% 近かった(IDC 2025)。 IDC は、コンサルティングとシステム統合の価値を保つには事業の成果とのつながりが最も大切だとまとめている。 標本が小さいことは IDC 自身が注記している。

生成 AI で何が変わるのか

ここまでの資料からは、変わるものを三つ、仮説として引き出せる。 どれも直接に測った資料はなく、複数の資料が同じ向きを指しているという段階である。

一つめに、提案書の差が縮み、選定の重心が書類の外へ寄る。 書く費用が下がれば、売り手は同じ人数でより多くの案件に応札できる。 英国内閣府はそれを AI の利点として書いている(Cabinet Office 2024)。 全員が同じ道具で整った提案書を出せば、書類の出来で差は付きにくい。 勝率が上がっていないこと(Loopio 2026)はこの見立てと矛盾しない。 そのとき買い手が頼るのは、もともと重かった評判と既存の関係(Hinge Research Institute 2013b)と、英国の手引きが勧める面談とプレゼンテーション(Cabinet Office 2022)、日本のプロポーザル方式のヒアリング(全国営繕主管課長会議 2018)である。 この仮説が誤りなのは、AI の普及後も買い手の採点で提案書の得点が決め手であり続けることを示す、買い手側のデータが出た場合である。

二つめに、時間で値を付ける根拠が揺らぎ、生産性の分け前を誰が取るかが交渉の主題になる。 時間単価の単価表は、職位ごとの日額と日数で値を決める(Cabinet Office 2022)。 AI で同じ成果物に要る日数が減れば、日数で払う理由が弱まる。 Cognizant の顧客は生産性の向上を見込んで支出の基準を下げ、AI の費用を織り込んだ単価表を求めている(Cognizant 2026a; 2026b)。 売り手の側では固定価格(Accenture 2025b)や成果連動(Harvard Business Review 2026)の比率が増えている。 これらの型では値が日数に比例しないので、AI で浮いた日数の分は売り手の利幅に残りうる。 Accenture が AI 案件の価格は平均より高いと述べ(Accenture 2025a)、野村総合研究所が単価を上げたいと述べる(野村総合研究所 2026)のは、この交渉の売り手側の構えである。

三つめに、成果報酬は広がるが、測れる成果のある案件に限られる。 英国の手引きは 2022 年の時点で、成果報酬を、成果が数えられ、基準値に合意でき、売り手が手段をすべて握っている場合に限っていた(Cabinet Office 2022)。 BCG で変動報酬が多いのは最大級の AI 案件で、全体では 3 分の 1 を大きく下回る(BCG n.d.)。 WPP では応じた顧客が 1 社にとどまる(Bradley 2026)。 費用の削減や処理の速さのように数えやすい成果を約束できる案件から先に、成果報酬に移ると考えられる。 戦略の助言のように、成果が売り手の手の届かない要因で決まる案件では、時間単価か固定価格が残るだろう。

変わらないものもある。 評価の枠(英国の MAT と品質の重み、米国の tradeoff、日本のプロポーザル方式)は 2024 年以前のものがそのまま使われている。 価格の三つの型は 2022 年の手引きにすでにあり、BCG の CEO も変動報酬は新しくないと言う。 売上と人員が比例しなくなった流れは、Accenture の CEO によれば RPA の導入から続いている(Accenture 2025b)。 生成 AI が変えるのは型そのものより、型の中の重みと比率である。

この整理が当てはまらないところ

RFP 対応の数値の多くは Loopio の調査で、回答者は売り手側の提案担当、管理コンサルティングは 5〜7%、北米に偏る。 勝率と負けの理由は回答者の自己申告である。 買い手の選定理由として使えたのは 2013 年公表の Hinge の調査だけで、2024 年以降の買い手の選定理由を方法論つきで測った資料は見つからなかった。

生成 AI が応札の件数や落札の理由に与えた影響を測った公的統計も見つからなかった。 デジタル庁の一者応札の割合は 2022 年度の 47% から 2023 年度に 38% へ下がったが(デジタル庁 2025a)、同庁はこれを自らの競争性を高める取組の結果と説明していて、AI とは結び付けていない。

企業の価格の型の数値は、経営者が自社について語ったもので、定義はそろっていない。 McKinsey の「約 3 分の 1」、BCG の「3 分の 1 を大きく下回る」、Accenture と Cognizant の固定価格の比率は、数えている対象が違うので並べて比べられない。

日本の民間のコンサルティング会社の提案と価格の型については、決算説明会の発言(野村総合研究所 2026)のほかに資料が取れなかった。 広告とデザインのピッチ(競合プレゼン)は、業界団体の調査本文が会員限定で取れず、今回は扱っていない。

関連ノート

未検証事項

主要主張に未検証の記述は残していない。 到達できなかった資料(GSA の時間単価データ CALC+、英国 MCF4 の評価配分、Source Global Research の買い手調査、ANA と 4A’s のピッチ費用調査、日本全体の一者応札率)は、台帳に試行した経路とともに記録した。

参照文献

Footnotes

  1. 出典の層は、公的機関と規制当局(T1)、調査会社とベンダーの調査の事実部分(T2)、企業の当事者の発言(T3、developer-voice)の三つに分けた。RFP 対応ソフトを売る Loopio の調査と、自社の価格の型を語る経営者の発言は、ポジショントークを含む資料として扱い、数値と発言の事実だけを採った。報道の二次まとめは使っていない。台帳は source/review/consulting-proposal-procurement-genai/industry.md にある。 ↩


書いた人:小川 修一郎(Design Researcher / Consultant) 経歴を見る →