Shuichiro Ogawa
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ノート · updated 2026-10-07

コンサルティングを買う側はなぜ買い、何で選ぶのか:買い手の理由と決め手、その仕組み(産業界の資料から)

コンサルティングの買い手がなぜ買い、何を決め手に選び、なぜそれが決め手になるのかを、産業界の資料(英国会計検査院の 2010 年と 2025 年の報告、カナダ下院の公聴会での発注側の証言とカナダ会計検査院の McKinsey 契約の監査、Hinge Research Institute の買い手調査 4 回分、企業の CFO と経営者の発言、IPA の調査)から整理し、仮説を立てた。

目次(7)
  1. 前回の食い違いを買い手の側から見る
  2. 買う理由は四つに分かれる
  3. 決め手は人、実績、関係と、すぐ頼めること
  4. なぜそれが決め手になるのか
  5. 2024 年以降に揺らいでいるもの
  6. この整理が当てはまらないところ
  7. Footnotes

前回の食い違いを買い手の側から見る

このノートは産業界の話で、コンサルティングの提案とコンペ:型、発注と受注の理由、生成 AI で変わるもの(産業界の資料から) の続きである。 前回は、提案書が何を書くかを買い手の評価の枠が決めていること、その枠は品質と価格を点数にすることを見た。 同時に、専門サービスの買い手は評判と既存の関係で選ぶと答え、負けた売り手は価格を理由に挙げるという食い違いも出てきた。

今回はこの食い違いを、買い手の側から確かめる。 買い手はなぜコンサルティングを買うのか。 何が決め手になり、なぜそれが決め手になるのか。

使ったのは、買う理由と選んだ理由が記録に残る公的部門の資料と、民間の買い手調査、企業の買い手の発言である1。 学術研究は、決め手の仕組みを説明する補助として、要旨に書かれた範囲でだけ使った。

買う理由は四つに分かれる

英国の会計検査院(NAO)は 2010 年の報告で、組織がコンサルタントを使う理由を三つに分けた(National Audit Office 2010)。 専門の技能を得るため(People)、仕事の進め方の知識を得るため(Process)、独立した見方と新しい考えを得るため(Perspective)である。 報告は、組織が自分で育てたり持ち続けたりする必要がない、または合理的でも経済的でもない技能を得られる点を、コンサルタントを使う利点に挙げた。

15 年後の 2025 年の報告でも、理由の並びは変わっていない(National Audit Office 2025)。 各省は、特定の専門性が無いとき、または必要な技能を持つ職員が足りないときにコンサルタントを使う。 各省は、給与と採用の制限のために技能のある職員を採用し続けるのが難しいと NAO に説明した。 たまにしか要らない特殊な技能を、常勤で抱えたくない場合もある。 関係者は、各省が穴を速く埋める手段としてコンサルタントに頼り、他の人員の手段より柔軟に雇えると見ていると NAO に述べた。

カナダでは、McKinsey への発注が議会で問題になり、発注した側が理由を語った。 公共サービス調達大臣は 2023 年 2 月の下院委員会で、特定の専門性が要るときがあると述べた(House of Commons of Canada 2023a)。 期間の限られた案件のために職員の定数を増やすのは合理的でないので、そのときはコンサルタントが合うとも説明した。 移民大臣は、省がサービスの見直しに特定の専門性が要ると 2018 年に判断したと証言した(House of Commons of Canada 2023b)。 調達担当の事務次官は 2024 年 5 月、各国の基準と照らすベンチマークを独自のデータで行うことが政府の変革の現在地を教えると述べた(House of Commons of Canada 2024)。 独立した検証は財務委員会の方針上の要件でもあると、同じ場で答えている。

企業の買い手も同じ理由を挙げる。 米国の飲料会社 Reed’s の CFO は、常勤のジェネラリストを雇う代わりに、特定の分野と案件のために専門家と契約すると語り、すぐに始められる柔軟さを利点に挙げた(Stewart 2019)。 日本では、DX を進める人材が「大幅に不足している」と答えた企業が 2023 年度に 62.1% に達し、IPA の調査で初めて過半数を超えた(河野と神谷 2024)。

これらを並べると、買う理由は四つに分かれる。

  • 持っていない専門性:組織の中に無い知識と技能。
  • 足りない人手と速さ:技能のある人の数が足りず、雇うより早く、期間が終われば手放せる。
  • 外からの視点と独立した確認:内部では出しにくい見方と、制度が求める第三者の検証。
  • 他にない資産:その会社だけが持つデータ、比較の基準、手法。

最後の一つは英国の三分類に無く、カナダの証言で前に出てきた。 調達担当の事務次官は、ベンチマークの契約を随意契約にした理由を、各社が持つ独自のモデルとデータに求めた(House of Commons of Canada 2023a)。

決め手は人、実績、関係と、すぐ頼めること

買う理由が分かっても、どの会社を選ぶかは別に決まる。 専門サービスの買い手と売り手を対にして調べる Hinge Research Institute の調査は、2013 年から 4 回行われ、決め手の首位が回ごとに入れ替わった。

2013 年には、候補を選ぶ基準の首位は評判で、21% だった(Hinge Research Institute 2013a; 2013b)。 最終の選定でも評判が首位で、報告書は費用を最終の選定では小さな要素と書いた。 2018 年の調査(買い手 1,475 人、売り手 3,005 人)では、関連する経験と専門性が評価の基準の首位になった(Hinge Research Institute 2018)。 2020 年のコンサルティングの買い手 362 人の調査では、人材とチームのスキルが、買い手の半数近くにとって決め手の首位だった(Hinge Research Institute 2020)。 2022 年の調査(買い手と売り手が各 300 人超)では、最終の決め手の首位に既存の関係が上がり、人材とチームのスキルと入れ替わった(Hinge Research Institute 2022)。 この回の報告は、買い手が財布の紐を締め、払った額に見合うものを求めるようになったと書いている。

4 回とも、決め手の首位に価格は来ていない。 ただしこの調査の買い手は対になった売り手の顧客で、既存の取引に寄りやすい。 Hinge は調査の結果を専門サービス会社のマーケティングに使う会社でもある。

公的部門の記録では、決め手が手続きの側からも見える。 英国の各省はコンサルタントの調達の大半を、事前に審査された枠組みを通して行う(National Audit Office 2025)。 NAO は、省独自の枠組みについて、公開競争より早く技術的な助言を得られ、直接発注より割安になると書く。 一方でコンサルタントは、各省が急いで契約を進めるために特定の業者が内定していると受け取られ、応札が減ると NAO に述べた。 各省もそうなりうると認め、早く動けという圧力の下で準備に時間を割けないと答えた。

カナダの会計検査院は、2011 年から 2023 年に 20 の連邦機関が McKinsey と結んだ 97 契約を監査した(Office of the Auditor General of Canada 2024a)。 97 契約の約 70% は非競争で、額は約 1 億 1,800 万ドルだった(Office of the Auditor General of Canada 2025)。 全国規模の常設オファー(事前に業者を審査しておく仕組み)の下の 19 契約のうち 18 契約は、非競争にした理由の説明を欠いた(Office of the Auditor General of Canada 2024b)。 競争した 28 契約のうち 10 契約では、評価の記録が McKinsey を選んだ根拠として足りなかった。 価値の検査に使った 33 契約の約半数は、その契約で何の不足や穴を埋めるのかの説明を欠いていた(Office of the Auditor General of Canada 2025)。 調達担当の事務次官は、常設オファーは業者の審査を前もって済ませ、契約までの手順を減らす仕組みだと説明している(House of Commons of Canada 2023a)。

なぜそれが決め手になるのか

ここまでの資料から、決め手の仕組みについて四つの仮説を立てられる。 どれも直接に測った資料はなく、複数の資料が同じ向きを指している段階である。

一つめに、買う前に質を確かめられないので、買い手は人、実績、関係を代わりの手がかりにして選ぶ。 コンサルティングの成果物は、契約の時点では存在しない。 英国の各省は、自分の組織にどんな技能があり、どの技能の穴を繰り返しコンサルタントで埋めているかを把握していない(National Audit Office 2025)。 NAO は 2010 年にすでに、各省は賢い買い手ではないと書いていた(National Audit Office 2010)。 カナダでは、選んだ根拠も、何を埋めるために買ったかも、記録から読めない契約が多かった。 質を見る物差しが無いとき、手がかりは買い手から見える評判、似た仕事の実績、担当する人、そして一度使って知っている相手になる。 Hinge の 4 回の首位が評判、経験、人、関係と動いたのは、どれも質の代わりになる手がかりの間での入れ替わりと読める。

学術の側でも、Glückler と Armbrüster の要旨は、コンサルティング市場の競争を動かすのは価格でも測れる品質でもなく、経験に基づく信頼とネットワークを通じた評判だと述べている(Glückler and Armbrüster 2003)。 2022 年に既存の関係が首位に上がったのは、買い手が支出を締めた年で、失敗の余地が小さいほど知っている相手に戻るという見方と合う。 この仮説が誤りなのは、契約の前に質を測る手段(試行、成果の保証、比較できる指標)が使える案件でも、選定が人と関係に寄り続ける場合である。

二つめに、急ぎと手続きの重さが、審査を済ませた相手と既存の相手を既定の選択にする。 新しい相手を探して比べるには時間と手間がかかる。 英国の各省は早く動けという圧力の下で準備を省き、業者の側からは内定があるように見えた(National Audit Office 2025)。 英国の枠組みもカナダの常設オファーも、審査を前もって済ませて手順を減らすための仕組みである(House of Commons of Canada 2023a)。 カナダで非競争の契約に後続の非競争の契約が続いた例が 4 系列あったこと(Office of the Auditor General of Canada 2024a)も、一度入った相手が次も選ばれやすいことを示す。 ここでの決め手は、相手の質というより、手続きの費用を払わずに済むことである。

三つめに、買う理由の一部は判断を組織の中で説明するためのもので、そのために外の独立した目と他にないデータが選ばれる。 カナダの事務次官は、独立した検証を財務委員会の方針上の要件と述べ、大臣は他の国や組織と比べて自分たちがどこにいるかを知るのに役立つと述べた(House of Commons of Canada 2023a; 2024)。 比べる基準となるデータを一社しか持っていなければ、その会社が選ばれ、競争は起きにくい。 調達担当の幹部も、この案件は McKinsey を通してしか得られないデータを使うものだったと述べている(House of Commons of Canada 2024)。 学術の側では、Pemer と Werr の要旨が、コンサルタントは管理者の不安と不確実性を減らすと言われる一方、使うこと自体がクライアントに新しい不確実性を生むと述べている(Pemer and Werr 2013)。 ただしここで集めた資料は、責任を外に移すために買うという動機までは示していない。

四つめに、内部の能力の欠け方が構造的なので、同じ理由で繰り返し買う。 NAO は 2010 年に、適した内部の職員を見つけられないことが利用の主な要因だと各省が述べたと書いた(National Audit Office 2010)。 同じ報告は、基本的な技能をコンサルタントに頼るのは高くつき、繰り返しの利用は費用対効果の悪さを示唆するとした。 2025 年にも、採用と給与の制限、自組織の技能を把握していないことが、同じ形で書かれている(National Audit Office 2025)。 英国政府は、自前のコンサルティング部門を 2023 年に閉じた。 同じ年にオーストラリアは、行きすぎた外部委託とそれが公務員の技能に与えた影響を巻き戻す方針を出し、2024 年には常勤の公務員が前年より 18,747 人増えた(National Audit Office 2025)。 内部の能力を作り直さない限り、一つめから三つめの仕組みは同じ相手への発注を繰り返させる。

2024 年以降に揺らいでいるもの

企業の買い手のあいだでは、四つの理由のうち人手の理由が先に揺らいでいる。 Bayer で SAP の刷新を率いる担当者は、30 の AI エージェントがコーディングとテストを支え、展開に必要なコンサルタントを大幅に減らすと述べた(Financial Times 2026)。 コンサルタントは数も技能もまったく違う形で必要になり、今の形のコンサルタントは減っていくとも語っている。 Bristol Myers Squibb のデジタルの責任者は、下振れも分担するならコンサル会社の利幅が広がるのは構わないと述べ、満足できなければ仕事を内製に移すのはかつてなく容易だと語った。 SharkNinja の CEO は、技術のパートナーと現場の事業責任者で進めたほうが、事業を知らない外部のコンサルタントを入れるより効果的だったと述べた。 Illumina の CEO は、大手の実装会社に頼む前に自分たちで多くの案件を試せるようになったと述べ、コンサルティングの将来は経営者への助言に寄るとした。

逆の動きもある。 British American Tobacco は、AI に焦点を当てた 3 年の費用削減計画で外部のコンサルタントがより重要になったと述べた(Financial Times 2026)。 同じ記事は、Volkswagen が最大 10 万人の人員削減を検討する際に BCG と McKinsey に頼ったと伝えている。 大規模な削減や再編のように、外の視点と判断の説明が要る仕事では、外部への依存が続いている。

公的部門の変化は、AI よりも統制から来ている。 英国は 2024 年に、必須でない外部コンサルタントの支出を止め、2025〜26 年度に半減する目標を掲げ、各省に金額と期間に応じた承認の仕組みを義務づけた(National Audit Office 2025)。 カナダは、McKinsey などとのベンチマークの非競争の常設オファーを 2024 年 6 月に終え、更新しないとした(Public Services and Procurement Canada 2024)。 調達担当の幹部は、作業を単位にした調達から解決策を単位にした調達へ移り、業者により多くのリスクを負わせたいと述べた(House of Commons of Canada 2024)。

ここから、2024 年以降についての仮説を一つ足せる。 AI で内製が現実の選択肢になると、買い手の交渉力が上がり、決め手は人を出せるかどうかから、リスクを引き受けるか、経営者に助言できるか、他にない資産を持つかへ移る。 前回のノートで見た、固定価格と成果連動への移行は、この動きの売り手の側の表れと読める。 この仮説が誤りなのは、AI を使える買い手のあいだでも、実装の人手を出すことが選定の決め手であり続ける場合である。

この整理が当てはまらないところ

民間の決め手の数値は Hinge の調査だけで、販売の利害を持つ会社が、自社の顧客と対になった買い手を調べたものである。 4 回の調査は標本も設問の言い回しも同じではなく、首位の入れ替わりを厳密な時系列として読むことはできない。

公的部門の資料は、買う理由と選んだ理由が記録に残るので多くを語るが、民間の買い手と同じ動機とは限らない。 カナダの監査は一社(McKinsey)との契約だけを扱っている。 企業の経営者の発言は、Financial Times の記者が選んで取材した大企業のもので、中小企業の声は含まない。

日本の資料は、DX の人材の不足を示す IPA の調査だけで、日本の買い手が何を決め手にコンサルティングを選ぶかを直接示す資料は取れなかった。 学術文献は 4 本とも本文を取得できず、要旨の範囲でしか使っていない。

関連ノート

未検証事項

主要主張に未検証の記述は残していない。 到達できなかった資料(オーストラリア上院のコンサルティング調査の本文、英国下院 PAC の 2026 年の報告、Source Global Research と Gartner の買い手調査、IBM IBV の 2024 年の買い手調査の本文、Gartner ジャパンの 2026 年の調査の原文)は、台帳に試行した経路とともに記録した。

参照文献

Footnotes

  1. 出典の層は、公的機関、監査機関、議会の資料(T1)、調査会社の調査の事実部分(T2)、発注した本人の発言(T3)の三つに分けた。Hinge Research Institute は専門サービス会社のマーケティング支援を売る会社なので、数値と調査の事実だけを採った。企業の経営者の発言は Financial Times の取材記事(Irish Times の転載)から引いたもので、本人の言葉として引用されている部分だけを使った。学術文献は 4 本とも本文を取得できず、要旨の範囲で帰属をつけて書いた。台帳は source/review/consulting-buyer-motives/industry.md にある。 ↩


書いた人:小川 修一郎(Design Researcher / Consultant) 経歴を見る →