Shuichiro Ogawa
English

Notes ・ updated 2026-07-28

「新規性を出せ」と言われて動かせる手はいくつあるか

指導教員も査読者も、新規性は名詞の形で要求する。 足りない、弱い、既存研究との差分が見えない。 ところが受け取る側に必要なのは動詞である。 明日の午前、机の前で何をすれば新規性が増えるのか。

助言はたいてい「前提を疑え」で止まる。 疑うべき前提をどう見つけるかは付いてこない。 この距離を埋める記述は、実は文献の側に大量にある。 ただし経営学、科学哲学、科学計量学、応用言語学、HCI に分散していて、互いをほとんど引用しない。 本ノートは、その分散した戦略を一つの台帳に集めて突き合わせる。

作る戦略と名乗る戦略

集めてすぐ分かるのは、「新規性の戦略」と呼ばれてきたものが二種類に割れることである。

生成の戦略:まだ存在しない知見を実際に作り出す操作。 前提の反転、素材の選定、機構の分解、道具の転用、遠隔分野からの転移がこれにあたる。

名乗りの戦略:作った知見を、新規性として読ませる操作。 先行研究の配置、空白の指摘、確信度の調整、誇張語の選択がこれにあたる。

この区別は文献の側で明示的に立てられていない。 Medawar が 1963年に論文形式は発見過程を隠蔽する詐欺だと書いたとき、彼が突いていたのはこの二層の乖離だった。 Latour と Woolgar は、主張が推測から事実へ移る modality の5段階を実験室の民族誌で追い、Knorr-Cetina は論文が実験過程の再構成された産物であることを記述した。 名乗りは生成の記録ではない。 にもかかわらず、方法論の教科書は両者を同じ「研究の進め方」の中に並べる。

以下、生成の側を先に置き、名乗りの側を後に置く。 順序は執筆の順序ではなく、混同を避けるための整理である。

前提を疑うとは、どの前提を疑うことか

問いの立て方の類型として最も参照されるのは、Sandberg と Alvesson の対比である。 彼らは経営学の論文標本を分析し、支配的な問いの立て方が gap-spotting(空白の指摘)であることを示した。 空白の指摘はさらに3下位型に割れる。 confusion spotting(先行研究が食い違っている)、neglect spotting(誰も見ていない)、application spotting(別の対象に当てはめていない)。 どれも既存の文献が敷いた地図の上で、白い部分を指す操作である。

対置されるのが problematization(問題化)で、地図そのものの前提を挑戦対象にする。 Alvesson と Sandberg の貢献は、挑戦できる前提を5階層に分けたことにある。

  • in-house assumptions:特定の研究群が共有する個別の想定
  • root metaphor assumptions:領域を支える基底的な比喩
  • paradigmatic assumptions:存在論と認識論のレベルの想定
  • ideological assumptions:政治的、道徳的な前提
  • field assumptions:異なる学派が共有してしまっている前提

階層が上がるほど挑戦の見返りは大きく、通す難度も上がる。 この5階層は、前提を疑えという助言を初めて操作可能にした。

前提の反転を汎用の生成器として定式化したのは、もっと古い Davis である。 彼は「興味深い」と評価された社会理論を集め、読者の前提を否定する反転パターンを12類型として抽出した。 現象は無秩序に見えて実は秩序がある、局所的に見えて実は全域的である、といった対の一覧である。 Abbott の fractal distinctions も同型で、分野を割ってきた対立軸(量的と質的、実証と解釈)が下位区分の中に再帰的に現れることを利用し、軸を一段深く適用して新しい立場を作る。

Locke と Golden-Biddle は、この操作を先行研究の配置の側から記述した。 先行研究をどう束ねるか(intertextual coherence)に synthesized / progressive / noncoherence の3型があり、そこに問題化の3型(incomplete / inadequate / incommensurate)を掛け合わせると、貢献の機会が構成される。 incomplete は既存研究が不完全だという主張、inadequate は不適切だという主張、incommensurate は根本的に別の見方が要るという主張で、後ろへ行くほど強い。

知らないことを名指しする

Merton は 1987年の論文で、二つの戦略を命名した。 一つが specified ignorance(特定化された無知)である。 分からないことを漠然と認めるのではなく、「何が分かっていないか」を先行知識の構造の中で正確に位置づけると、それ自体が次の問いを規定する。 無知の指定は、gap-spotting と外形が似ていて中身が違う。 gap-spotting は文献の空白を指すが、specified ignorance は理論が要求するのに答えのない箇所を指す。

Merton がもう一つ挙げたのが strategic research materials(戦略的研究素材)である。 研究対象を、理論的問いが最もよく現れる素材として選ぶ。 何を見るかの選定が、それ自体で貢献になるという主張で、これは後述する Materials の座と直結する。

素材の側から新規性を生成する経路は、科学哲学にも独立に存在する。 Rheinberger の epistemic things は、まだ何であるか確定していない対象を実験系の中に置き続けることが新規性を生むという記述である。 Hacking の介入論も、実験が理論から独立に新しい対象を作り出せると主張する。 どちらも、理論を先に立てて確かめるという順序を前提にしない。

機構を分解する

生命科学と認知科学の哲学は、発見を機構の探索として定式化してきた。 Bechtel と Richardson は、複雑な系の理解が decomposition(分解)と localization(局在化)の二操作に還元されることを科学史から取り出した。 系を下位機能に割り、各機能を構造の部位に対応づける。 分解の切り方を変えることが、そのまま新しい理論になる。

Darden は同じ路線をより手続き的に書いた。 機構発見の3戦略は schema instantiation(既知の機構スキーマに具体を埋める)、modular subassembly(部品ごとに組む)、forward-backward chaining(既知の始点と終点から中間を詰める)である。 加えて説明の成熟を how-possibly → how-plausibly → how-actually の3段階に置き、どの段階の主張をしているかを明示させる。 異常が出たときの対処も戦略化されていて、どのモジュールが誤りかを局在化してから再設計する。

Darden と Maull の interfield theory は、分野をまたぐ理論を新規性の生成装置として最初に系統的に記述したものである。 遺伝学と細胞学のように、別々の分野が同じ現象の別の側面を扱っているとき、両者を橋渡しする理論が新しい説明力を生む。 後述する境界越えの戦略群は、この定式化を各分野で再発見してきた側面がある。

推論の型としては abduction が対応する。 Peirce が発見の論理として立てたこの推論を、Schurz は11パターンに分類した。 事実的 abduction、法則仮説を立てる abduction、理論モデルを立てる abduction、二階の存在仮説を立てる abduction が含まれる。 Magnani は theoretical と manipulative(操作を通じて仮説を形成する)に大別した。 どの型の abduction を使っているかを言えることは、新規性の種類を言えることに近い。

組合せの非典型性はどこまで許されるか

新規性を「既存要素の新しい組合せ」として測る系譜は、計量的な検証が最も進んでいる。 Uzzi らは 1,790万件の論文について、引用された雑誌のペアがどれだけ非典型かを測った。 結果は単調ではない。 最も高被引用になるのは、参照の大部分が慣習的でありながら、裾に少数の非典型な組合せを含む論文である。 非典型性だけを上げた論文は伸びない。

Foster らは化学の研究戦略を型に分け、MEDLINE の 645万抄録で頻度と成果を計測した。 保守的な戦略が 85.8% を占め、革新的な戦略は成功率が低く成功時の影響力が大きい。 賭けに出るのは、失っても職を失わない受賞者層に偏る。 Rzhetsky らは、この選択の個人最適が集団最適から乖離することを計算モデルで示した。 安全な実験を各人が選ぶと、集団としての探索は狭くなる。

指標の側にも注意が要る。 Fontana らは、atypicality、新規な組合せ、学際性という複数の新規性指標が互いに弱くしか一致しないことを示した。 どの指標で測ったかによって「新規性の高い論文」の集合が入れ替わる。 Funk と Owen-Smith の CD index(後続研究が先行研究を参照しなくなる度合いで破壊性を測る)は独自の系譜で、Wu らはこれを 6,500万件の論文と特許とソフトウェアに適用し、大チームが既存知識を発展させ小チームが破壊することを示した。 Park らは同じ指標で、論文と特許の破壊性が長期的に低下し続けていることを報告している。

道具が理論になる

Gigerenzer の tools-to-theories(道具から理論へ)は、生成戦略として最も具体的で、しかも最も見過ごされている。 研究者が日常的に使う道具、たとえば統計手法や計算機が、まず方法として受け入れられ、次にそれ自体が心のモデルとして理論化される。 有意性検定が定着した後に「人間は直感的統計家である」という理論が現れた経緯が、その例である。 この経路が意識されると、いま自分が手段として使っているものを対象のモデルに転用する、という操作が意図的に取れる。 Gigerenzer と Sturm は後に、この転移が循環(道具が理論を作り、その理論が道具の妥当性を保証する)に陥る条件を検討している。

同じ転移でも、遠隔分野からの写像を扱うのがアナロジー研究である。 Gentner の 構造写像は、属性ではなく関係構造を写す転移だけが科学的に機能することを定式化した。 Gentner と Markman は、比較が類似点だけでなく 整列可能差異を生むことを示した。 比べることの成果は「似ている」ではなく「ここが違う」であり、その差異が問いになる。

ただし実態は理想と離れている。 Dunbar は分子生物学の研究室を実地観察し、実際の推論で使われるアナロジーの約 98% が近接分野からのものであることを見出した。 遠隔アナロジーは想起されない。 Chan と Schunn は、遠隔アナロジーが単発では効かず、連鎖的な変換を経たときにアイデアの新規性を高めることを示した。 遠くから持ってくれば良いのではなく、遠いものを段階的に変形する作業が要る。

分野をまたぐことの計量的な帰結も分かっている。 Larivière と Gingras は学際性と被引用の関係が逆U字であることを示した。 距離が中程度のとき影響力が最大になり、遠すぎると評価されない。 Leahey らは、学際的な研究者が認知度を上げる一方で生産性を下げることを示した。 境界越えは、費用を伴う戦略である。

Star と Griesemer の 境界オブジェクト、Galison の トレーディングゾーン は、この費用を下げる装置の記述にあたる。 共通言語を作らずに、局所的な交易の語彙だけで異分野が協働する仕組みである。 Oswick らは、経営学における概念の他分野導入を borrowing / transplanting / blending の3段階に分け、blending を最も革新的とした。 Whetten らは借用の妥当性を検査する軸として、同一分析レベル内の horizontal な借用と、レベルをまたぐ vertical な借用を区別している。

理論の縁を動かす

既存理論を否定せずに新規性を作る経路として、境界条件の操作がある。 Whetten の理論貢献の4要素(What / How / Why / Who-Where-When)のうち、最後の Who-Where-When が適用範囲を指す。 誰に、どこで、いつ成り立つのかを変えることは、それだけで貢献になる。 Busse らは boundary condition の探索、設定、検証の手順を定式化し、Gonzalez-Mulé と Aguinis はメタ回帰で境界条件を定量的に検証する方法を示した。

理論の精度を上げるという戦略もある。 Edwards と Berry は、管理科学の予測が広すぎて反証されないことを問題にし、予測を狭めること自体を貢献として位置づけた。 Meehl は物理学との対比で、心理学の帰無仮説検定では検定力の向上が理論を守ってしまう逆説を指摘している。 検定力を上げるほど有意になりやすく、理論は反証されにくくなる。

追試を貢献の型として整理したのは Tsang と Kwan である。 彼らは replication を6型に分け、それぞれ何を確かめるかを対応づけた。 分析の再確認、データの再分析、厳密な再現、概念的拡張、経験的一般化、一般化と拡張である。 後ろの3型は追試でありながら新規性を持つ。 Köhler と Cortina は経営学の constructive replication の実態を大規模に分析し、Bettis らは戦略論での必要性を論じている。

壊す側の戦略

理論を壊す操作は、それ自体が体系化されている。 Platt の strong inference は、複数の代替仮説を立て、それらを排除する決定実験を設計し、反復するという3段階の手順である。 その先駆が Chamberlin の複数作業仮説法で、単一の支配的仮説への愛着を防ぐために、同時に複数の仮説を保持することを求める。 Gray と Cooper は、理論の失敗を積極的に探すことを戦術として提示した。

対立する論者どうしが共同で決定実験を設計する adversarial collaboration は、Mellers、Hertwig、Kahneman による実践が知られる。 第三者の仲裁のもとで、どちらの理論が正しいかを事前に決めた手続きで判定する。 Clark と Tetlock はこれを科学改革の中核に据えるべきだと論じている。

破壊の戦略が制度と衝突する点も記録されている。 Open Science Collaboration は心理学100研究の追試で、有意な再現が 36% にとどまることを示した。 Simmons らは researcher degrees of freedom によって偽陽性率が容易に 60% を超えることをシミュレーションで示し、Ioannidis は事前確率と検定力と競争度から偽陽性率が高くなる条件を導いた。 Kerr が命名した HARKing(結果を見てから仮説を立てる)は、生成の戦略に見えて実は名乗りの操作である。 Scheel らは、通常の心理学論文の肯定的結果が 96% であるのに対し、Registered Reports では 44% であることを示した。 結果を見る前に査読する仕組みが入るだけで、名乗りの分布は半分に落ちる。

名乗りは Move 2 に集約される

生成の側から名乗りの側へ移る。 学術英語のジャンル分析で最も参照されるのが Swales の CARS モデル(Create a Research Space)である。 序論は Move 1(テリトリーの確立)、Move 2(ニッチの確立)、Move 3(ニッチの占有)の三手で進む。 新規性の名乗りが起きるのは Move 2 で、その手は4つに尽きる。

  • counter-claiming:先行研究の主張に反論する
  • gap-indicating:扱われていない領域を指摘する
  • question-raising:先行研究が答えていない問いを立てる
  • continuing a tradition:既存の系譜を継続すると位置づける

生成の戦略が何十種類にも分かれるのに対し、名乗りの語り口はこの4つに畳まれる。 problematization も gap-spotting も、序論では counter-claiming か gap-indicating として現れる。 戦略の多様性は、文面には出てこない。

確信度の調整も体系化されている。 Hyland は hedging(弱める)と boosting(強める)を知識交渉の二極として対比し、8分野80論文で名乗りの強度が分野により異なることを示した。 硬科学は控えめ、軟科学は明示的になる。 Salager-Meyer は hedge を shields、approximators、著者の個人的疑念、感情を帯びた強調語、複合 hedge の5類型に分けた。

引用の配置も名乗りの一部である。 Gilbert は引用を説得行為として分析し、Cozzens は引用がまず修辞的資源であるという rhetoric-first model を提示した。 Myers は論文と助成申請の改稿を追跡し、新規性の主張が査読との交渉で下方修正されていく過程を記述している。 名乗りは著者が一方的に置くものではなく、審査との往復で決まる。

誇張の相場は上がり続けている

名乗りの語彙は、この50年で明確にインフレを起こしている。 Hyland と Jiang は hype 語を約400語定義し、その使用が50年で約2倍に増えたことを通時コーパスで示した。 Vinkers らは PubMed 抄録の肯定語が 1974年の 2.0% から 2014年の 17.5% に増え、“novel” などの頻度が 2,500% から 15,000% 増加したことを報告している。 Millar らは採択された NIH 申請 901,717件の抄録を調べ、その約 97% に hype 語が現れることを示した。

つまり、新規性を名乗ること自体はもはや差別化にならない。 全員が名乗っている環境では、名乗りの強度ではなく別の何かが判別に使われる。 Trapido は、一貫したアイデンティティを持つ研究者ほど新規性が認知されやすいことを示した。 Teplitskiy らは、同じ論文でも地位のシグナルが読解と引用を左右することを無作為化実験で示している。 Merton のマタイ効果と Bourdieu の場の理論が指していたのは、この分配の構造である。 Bourdieu は科学場の蓄積戦略を継承と転覆の2つに分け、どちらを選べるかが持っている資本量に規定されるとした。 転覆は誰にでも取れる戦略ではない。

境界を引く操作そのものを戦略として記述したのが Gieryn の boundary-work で、その目的は3つに分かれる。 領域の拡張、対立者の排除、自律性の防衛である。 Collins の attention space の法則(同時代に成功する立場は3つから6つに限られる)は、名乗りが席数の限られた競争であることを示している。

デザイン研究は何を貢献と呼んできたか

デザイン研究は、上記のどの系譜とも別に、自分の貢献類型を作ってきた。 起点は Frayling の research into / through / for art and design の3類型である。 Cross は、デザインに固有の認識様式があると主張し、デザイン研究が科学と別の基準を持つ根拠を与えた。

HCI 側で最も参照されるのが Wobbrock と Kientz の7類型である。 empirical、artifact、methodological、theoretical、dataset、survey、opinion。 各型に評価基準が対応し、artifact 貢献に実証的評価を要求するような不整合を避けられる。 Greenberg と Buxton は、早期段階での評価の強制が新規性を殺すと論じた。 この指摘は、貢献類型と評価要求の不整合を突いたものとして今も引かれる。 Oulasvirta と Hornbæk は HCI 研究を empirical / conceptual / constructive の3種の問題として再定義し、それぞれに固有の解の質の基準を対応づけた。

Research through Design(RtD)の系譜では、貢献を何と呼ぶかが長く争われてきた。 Zimmerman らは RtD の評価4基準(process / invention / relevance / extensibility)を提示したが、後に知識主張の弱さを自ら批判している。 Gaver は、RtD に期待すべきは再現可能な理論ではなく annotated portfolio(複数作品への注釈)による中間的一般化だと主張した。 Gaver と Bowers の annotated portfolio は、個別性を失わずに一般性を主張する装置である。 Bardzell らは逆に、RtD の知識主張が謙虚すぎると批判し、大胆な提案を貢献形式として要求した。

中間レベル知識という概念が、この争いの落としどころとして機能している。 Höök と Löwgren の strong concept は、理論と個別事例の中間に位置する知識で、5要件(生成的である、複数の個別事例を横断する、デザイン要素と使用実践の両方に関わる、垂直に理論へ接地する、水平に事例へ接地する)を満たす必要がある。 Dalsgaard と Dindler の bridging concept は、理論的基盤、実践の例示、デザイン示唆の3要素で構成される。 Löwgren は annotated portfolio、strong concept、design pattern、experiential quality、method を中間レベル知識の諸形態として比較している。

作られる物の側から貢献を定義する系譜もある。 Odom らの research product は、プロトタイプと区別される4品質(situatedness、autonomy、wholeness、subjectification)を持ち、長期の実生活での運用に耐えることを成立条件とする。 Koskinen らは constructive design research を Lab / Field / Showroom の3類型に分け、Krogh と Koskinen はこれに Street を加えた4伝統に拡張したうえで、研究が当初の計画から意図的にずれていく drifting を5型(accumulative / comparative / serial / expansive / probing)に定式化した。 ずれることが失敗ではなく戦略になるという主張である。 Redström は、デザイン理論を program と experiment の往復として記述し、理論を「作る」側の手続きを与えた。

デザイン研究の貢献類型は、他分野の生成戦略と綺麗には対応しない。 strong concept や bridging concept は、命題の真偽ではなく生成力で評価される。 Bacharach の理論評価基準(反証可能性と有用性)のうち、前者が最初から適用されない。 この非対称は、デザイン研究が他分野の新規性論を輸入するときの最大の摩擦点になる。

LLM は生成の戦略を代行できているか

2024年以降、アイデア生成そのものを機械に担わせる試みが査読の場に乗った。 Si、Yang、Hashimoto は 100名超の NLP 研究者による盲検比較を行い、LLM が生成した研究アイデアが新規性の評点で人間を上回り、実行可能性で下回ることを示した。 同時に、LLM 自身による新規性の自己評価が人間の評価と一致しないことも報告している。 続く研究では、43名の専門家が両者のアイデアを 100時間超かけて実際に実装したところ、新規性の順位が逆転した。 アイデア段階で測った新規性は、実行後に保たれない。

生成側のシステムは、既存文献との類似度を新規性の代理指標として最適化する方向に進んでいる。 Wang らの SciMON は新規性を明示的な最適化目標に据え、Lu らの AI Scientist は着想から実験と執筆と査読までを1本あたり約15ドルで自動化した。 Zhou らはデータ駆動で仮説を生成し反復更新する枠組みを示している。

計算による発見の系譜は、LLM 以前から続いている。 Swanson の ABC モデル(A と B、B と C は既知だが A と C が未接続)は literature-based discovery の原点で、Thilakaratne らはこの系譜の 409件を系統的にレビューした。 Krenn と Zeilinger は量子物理の概念ネットワークから未結合の概念対を予測し、Krenn らのリンク予測コンペでは手作りの特徴量が end-to-end の機械学習を上回った。 Hope らは製品記述を purpose と mechanism に分解して機構の異なる同目的事例を検索する手法を作り、細粒度アスペクトによる着想検索が良いアイデアの生成を 50% から 60% 増やすことを示した。

Sourati と Evans の結果は、この系譜の中で位置が特異である。 彼らは人間の探索傾向をモデル化したうえで、それを意図的に避ける alien hypotheses を生成した。 人間が行きたがる方向を予測して外す、という戦略である。 機械の役割が「人間の代わりに考える」ではなく「人間の偏りの補集合を指す」ことになる。

代償も計測されている。 Doshi と Hauser は 293名の書き手と 600名の評価者による無作為化実験で、生成 AI が個人の創造性を上げる一方、集団としての内容の多様性を下げることを示した。 Anderson らは LLM 支援下のアイデアが互いに似通う均質化を実験で確認している。 個人の戦略として合理的な選択が、集団の探索を狭める。 Rzhetsky らが計算モデルで示した外部性と同じ構造が、道具の側からも生じている。

効果が実証されている戦略はどれか

戦略の一覧を作ると、名前の付いた戦略の数と、効果が計量的に検証された戦略の数が大きく食い違う。

戦略出典(代表)型の数効果の実証
前提の問題化Alvesson & Sandberg 20115階層なし(規範論)
空白の指摘Sandberg & Alvesson 20113下位型支配的であることは実証済み。効果は未検証
興味深さの反転Davis 197112類型なし(事後の内容分析)
再帰的な区分Abbott 2004中核1操作なし
無知の指定Merton 19871なし
素材の戦略的選定Merton 19871なし
分解と局在化Bechtel & Richardson 19932科学史からの帰納
機構発見の手続きDarden 20063戦略 × 3段階科学史からの帰納
abduction の型分けSchurz 200811パターンなし(形式論理)
非典型な組合せUzzi ら 20131指標あり(1,790万件、高被引用と関連)
内容と文脈の驚きShi & Evans 20231指標あり(部外者から生じやすい)
破壊性の指標Funk & Owen-Smith 20171指標あり(CD index、6,500万件で検証)
道具から理論へGigerenzer 19911科学史からの帰納
構造写像Gentner 19831あり(ただし遠隔は約2%しか使われない)
遠隔アナロジーの連鎖変換Chan & Schunn 20151あり(逐次分析)
境界越えLarivière & Gingras 20101あり(逆U字。遠すぎると評価されない)
境界条件の拡張Busse ら 20173手順メタ回帰による検証法あり
追試による貢献Tsang & Kwan 19996型再現率 36%(OSC 2015)
複数作業仮説と決定実験Platt 19643段階なし(規範論)
敵対的協働Mellers ら 20011実践例あり。効果の集計はなし
CARS Move 2Swales 19904手コーパスで頻度は実証。効果は未検証
hedging と boostingHyland 19982極分野差は実証済み
誇張語Hyland & Jiang 2021約400語増加は実証済み。採択への効果は未検証
中間レベル知識Höök & Löwgren 20125要件なし(規範論)
RtD の評価基準Zimmerman ら 20074基準なし(規範論)
貢献類型Wobbrock & Kientz 20167類型なし(規範論)
LLM によるアイデア生成Si ら 20241あり(新規性は上、実行可能性は下、実装後に逆転)

効果が検証されている行は、ほぼ全て科学計量学の指標か心理実験である。 そして検証済みの結果は、戦略を推奨する方向にきれいには揃わない。 Boudreau らは 2,130の評価者と提案のペアで、評価者との知的距離が大きいほど、また提案の新規性が高いほど評価が下がることを示した。 Criscuolo らは選考パネルが中程度の新規性を最も好むこと(極端な新規性は合議の過程で削られること)を示した。 Wang、Veugelers、Stephan は、新規性の高い論文が長期的には高被引用になるが、短期では評価されず掲載誌のインパクトファクターも低いことを実証している。

つまり、生成の戦略を強く効かせるほど、名乗りの段階での通過率は下がる。 Azoulay らの二つの準実験は、この対立が制度で緩和できることを示唆する。 長期で失敗に寛容な資金は短期評価型の資金より新規性の高い成果を生み、スター科学者の急死後にはその分野への部外者の新規参入が増える。 新規性を上げる戦略の一部は、個人の技法ではなく資金と権威の構造の側にある。

四座説との接続

姉妹ノートの novel-research-questions-literature は、新規性が宿る「座」を Problem Definition、Materials、Methods、Results の4つに分ける実務仮説を検討した。 あれがどこに新規性を置くかの分類であるのに対し、本ノートはどうやって新規性を作るかの分類である。 二つは直交する。

対応を取ると、収集した戦略の偏りが見える。

  • Problem Definition の座に対応する戦略が最も豊富である。problematization の5階層、gap-spotting の3下位型、Davis の12類型、Abbott の再帰的区分、Merton の specified ignorance がすべてここに落ちる。
  • Materials の座に対応する戦略は少ない。Merton の strategic research materials、Rheinberger の epistemic things、Hacking の介入論がほぼすべてである。素材の選定を戦略として明示した文献が薄い。
  • Methods の座には、Gigerenzer の tools-to-theories と Darden の機構発見手続きが対応する。ただし前者は方法を理論へ転用する経路であり、方法そのものの新規性とは向きが違う。
  • Results の座に対応する専用の戦略は、収集の範囲内で見つからなかった。規模で押す設計は Simonton の equal-odds rule(産出量が成果を決める)に接続するが、これは戦略というより確率の記述である。

この偏りは、四座説が実務知として立てた「Results で勝負するのは費用が莫大だから避けたい」という判断と整合する。 Results の座に戦略が乏しいのは、そこに戦略が要らないからではなく、そこでの新規性が技法ではなく資源で決まるからだと読める。

収集の空白

  • 非英語圏の議論:日本語、中国語、ドイツ語圏の科学方法論と、非英語圏のデザイン研究における貢献類型。Lillis と Curry が英語中心主義の不均等を扱うのみで、当事者側の一次文献を収めていない。
  • 人文学と芸術研究の新規性:解釈の新しさをどう主張するかの規範。美術史と文学研究の貢献論は本コーパスに入っていない。
  • 数学と理論計算機科学:証明の新規性(新しい証明技法、既知定理の別証明、一般化)の類型論。本コーパスは経験科学と設計科学に偏る。
  • 査読者側の実証:新規性の名乗りが査読でどう読まれるかを、査読報告書そのもののコーパスで分析した研究。名乗りの研究は投稿側の修辞に偏っている。
  • 特許審査の非自明性:産業側の非自明性(non-obviousness)判定と、学術の新規性概念の異同。
  • 戦略の効果の直接比較:ある戦略を採った研究群と採らなかった研究群を突き合わせた設計。表の「効果の実証」列が空欄ばかりなのは、この設計がほとんど存在しないためである。

関連ノート

未検証事項

本文で根拠に使った主張のうち、書誌または数値の条件を一次で確認できていないものを挙げる。

  • Dunbar 1995 の「約 98% が近接アナロジー」は、収録書(The Nature of Insight, MIT Press)の頁を確認できていない。
  • Sourati と Evans 2023 の発見効率の向上幅は、適用条件によって値が変わるため本文では倍率を書いていない。
  • Krenn ら 2023(Nature Machine Intelligence)の DOI を確認できていない。
  • Si らの実行後逆転を報告した続報(The Ideation-Execution Gap)の arXiv 番号を確認できていない。
  • Si ら 2024 の ICLR 2025 採択、および Zhou ら 2024 の効果量(合成データ +31.7%、実データ +3.3% から +24.9%)の適用条件を確認できていない。
  • Busse ら 2017、Gonzalez-Mulé と Aguinis 2018、Tsang と Kwan 1999、Bettis ら 2016、Edwards と Berry 2010、Gray と Cooper 2010、Meehl 1990、Chambers 2013 の DOI は書誌から推定したもので、一次で照合できていない。
  • Frayling 1993 は RCA Research Papers 1(1) の一次 URL を確認できていない。
  • Medawar 1963 は The Listener 掲載のエッセイで、DOI が存在しない。
  • 書籍(Bechtel & Richardson、Boden、Holyoak & Thagard、Hesse、Galison、Koestler、Simonton、Klein、Hofstadter & Sander ほか)の ISBN は一部が未確認である。詳細はコーパスの ## 未検証事項 に一覧がある。
  • コーパスに記録したが書誌を特定できず、本文の根拠に使っていないもの:Nova、IdeaBench、NovBench、LLMs Hallucinate Alike、On the Limits of LLM-as-Judge、Bailer-Jones / Knuuttila のモデル論。

参照文献

問題化と貢献構築(経営学、組織論)

発見のヒューリスティクスと科学哲学

  • Bechtel, W., & Richardson, R. C. (1993). Discovering Complexity. MIT Press. ISBN 978-0-262-52528-8
  • Campbell, D. T. (1960). Blind variation and selective retention in creative thought. Psychological Review, 67(6). https://doi.org/10.1037/h0040373
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戦略の効果の計量(科学計量学、科学社会学)

名乗りのレトリックとジャンル

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理論の拡張、追試、反証

転移、アナロジー、境界越え

デザイン研究と HCI の貢献類型

LLM とアルゴリズム的発見


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