Shuichiro Ogawa
English

Notes ・ updated 2026-07-19

光が粒なら、物質は波であるはずだ

証拠が出そろう前に、正しい問いの形だけが決まっていることがある。

1924年、ド・ブロイの博士論文は、まだ誰も測っていない現象の存在をこう予言した。 光は波だと長く信じられてきたが、それが粒子(光量子)としても振る舞うことを、当時の物理はすでに認めていた。 片側だけが認められている。 であれば、と彼は書く。 粒子だと信じられてきた物質もまた、波として振る舞うはずだ1。 運動量 p をもつ粒子には波長 λ が伴う、という一本の式で対称性を閉じた。 実験の裏づけは、まだ一つもなかった。

三年後、その予言は狙われないまま確証された。 Davisson と Germer は、ニッケル結晶に電子を当てる別の実験の途中で、電子がX線と同じ回折像を描くのを見た2。 電子は波として干渉していた。 片側の非対称を反転して閉じた対称性が、後から測定によって埋められたのである。 これは孤立した逸話ではない。 物理学は、対称性とその破れを手がかりに理論を組み立てる作法を、発見法として持っている3

この手つきを、科学が自らを測る仕方にそのまま持ち込むとどうなるか。 姉妹ノート ai-capability-relational-ontology は、この同じ発見法を評価の存在論に当て、測定が能力を立ち上げるという反転を導いた。 方法の隣接として、ai-research-gaps-abduction は前提の反転で分野のスキマを探す型を示している。 本ノートは、同じ発見法を、科学とそのメタ科学が知識をどう数えるかに当てる。 方法はこうなる。 科学の自己計測が片側だけ認めている非対称を一つ取り出し、それを反転して対称性を閉じる。 盲点は、閉じられていない反対側にある。

科学が片側だけ認めている非対称

まず、認められている片側を正確に書き出す。

科学とそのメタ科学、すなわち科学を数量的に研究する scientometrics は、知識の生産を測る。 論文が何本出たか、それが何回引用されたか、研究者の h指数はいくつか、特許は何件か。 Garfield が1955年に引用索引を提唱し4、Hirsch が2005年に h指数を導入したとき5、どちらも数えていたのは産出のほうだった。 h指数は、被引用が h 以上の論文を h 本もつことを意味する、累積産出の指標である。 分野の進歩は、こうした生産の量として地図化される。

これに対して、知識の喪失は、過程としては数えられていない。 既知だったのに忘れられた事実、撤回されてもなお引用され続ける知見、確立していたのに使われなくなった手法、パラダイムの転換とともに解けなくなった問題。 これらは、生産のような固有の機構をもつ過程としてではなく、事故や誤りや雑音として扱われる。 進歩の物語には、喪失を数える桁がない。

この非対称は、古典物理が粒子について置いた前提と同型である。 古典物理は、粒子が位置と運動量をあらかじめ確定した値としてもち、測定はその値を読み取るだけだと考えた。 scientometrics は、知識が生産されて蓄積するものであり、進歩はその積み上がりだと考える。 どちらも、対称なもう一方の側を措定しない。 粒子に波が伴うように、生産には喪失が伴う。 その伴走者を、進歩を測る装置は数えていない。

ここに、まだ反転されていない片側がある。

意図的に作られた無知という光量子

片側だけがすでに示されている、という状況が、ド・ブロイの構図の入口だった。 本ノートにも、それに当たる先例がある。

Proctor と Schiebinger が2008年に編んだ Agnotology は、無知を主題化した6。 彼らが示したのは、無知が知識の単なる欠如や空白ではなく、能動的に生産されるものだ、という一点である。 Proctor は序章でこう書く。 無知は単なる脱落や空隙とみるべきでなく、能動的な生産とみるべきであり、意図的な計画の一部として工学的に作られうる。 たばこ産業が喫煙と疾病の因果について疑いを製造した歴史が、その原型だった。 無知には作り方があり、Proctor はそれを固有状態としての無知、選択的な無関心としての無知、戦略的に工作された無知の三類型に整理した。

これが「光量子」に当たる。 無知が能動的に作られる、という命題は、知識の消失が過程であることを片側で示している。 だが、agnotology は対称性を閉じていない。 その主題は主に、意図をもって作られる無知であり、政治と権力の産物としての無知だった。 喪失を発見と対称な一般過程として、しかも測定可能な速度をもつものとして定式化する一歩は、そこにない7。 無知研究の後続、Gross と McGoey が編んだ Routledge International Handbook of Ignorance Studies も、無知の社会的で戦略的な生産を横断的に地図化するが、生産と喪失を一つの収支で結ぶ保存則的な枠組みは提示しない8

片側は示された。 反転すれば、対称性が閉じる。

反転すると、喪失が発見の双対になる

反転してみる。

生産だけを過程として特権化し、喪失を事故や雑音とみなす原理的な理由は、どこにあるか。 生産と喪失は、どちらも分野の知識ストックを変化させる流れである。 発見が既知でなかった事実を能動的使用の圏内へ入れるのと同じ資格で、喪失は既知だった事実を能動的使用の圏外へ落とす。 であれば、発見だけを過程として扱い、喪失を「発見の失敗」や「雑音」とみなす根拠はない。 喪失は、発見と同じ資格で分野の知識を条件づける。

この一歩から、素朴な進歩観を降りる帰結が出る。 分野の知識は、生産の積み上げではない。 それは生産と喪失の収支である。 ここで否定しているのは「知識が蓄積するという語が無意味だ」という命題ではない。 否定しているのは、「分野の知識ストックは、生産の総量だけで近似できる」という命題である。 知識のストックは、質量のように保存されるのでなく、収入と支出の差引で決まる量になる。 私たちは、その片側だけを測っている。 [証拠水準:著者の推定]

そして、喪失が発見の双対なら、発見に率があるように、喪失にも率がある。 発見率が、既知でなかった知識が能動的使用に入る速度なら、その双対はアンディスカバリー率、すなわち確立した知識が能動的使用から落ちる速度である。 これはド・ブロイの一歩と同じ形をしている。 科学の自己計測が片側で認めている「生産だけが進歩を作る」を反転し、対称性を閉じた。 閉じた先に現れるのは、生産と喪失を一つの収支として扱う描像であり、その収支の支出側に据えられた喪失率という測定量である。

なぜこの盲点は構造的に見えないのか

反転が正しいとして、なぜ主流はそれを見落とすのか。 理由は「研究者の注意が足りないから」ではない。 進歩を測る装置そのものが、この反転を構造的に不可視にするからだ。

scientometrics の指標は、すべて生産の側を数える。 論文数、被引用、h指数、特許数は、いずれも産出の蓄積を集計する。 これらの装置は、何かが能動的使用から落ちても、それを記録する桁を持たない。 引用が減ることは測れても、引用が減ることを「喪失という過程の進行」として読む枠組みが、装置の設計仕様の外にある。 生産しか数えない道具の内側から、喪失の構造は原理的に見えにくい。

Kuhn が示したように、通常科学の期間、研究者はパラダイムを正しいと仮定して細部を精緻化し、枠組み自体は問わない9。 進歩の指標は、測る前から「知識は蓄積する」という存在論を身にまとっている。 その存在論を疑う問いは、装置の設計仕様の外にある。 この構造こそが、盲点を盲点たらしめている。 [証拠水準:著者の推定]

散らばった現象が、一つの収支で束なる

反転が生産的かどうかは、それが何を束ねるかで決まる。 喪失を発見の双対とみる描像は、これまで別々に扱われてきた散在現象を、一つの収支のもとにまとめる。

第一に、事実の半減期である。 Poynard らが2002年に Annals of Internal Medicine で報告したのは、肝疾患の臨床的結論が真であり続ける期間の中央値、いわゆる真理の半減期が約45年だという測定だった10。 2000年の時点で、1945年以降の結論の60%がなお真、19%が陳腐化、21%が誤りと判定された。 Arbesman は2012年の The Half-Life of Facts で、この種の減衰が分野を越えて予測可能な速度で起きると論じた11。 主流はこれを、より新しい事実に置き換わる自然な更新とみる。 反転すれば、確立した事実が能動的使用から落ちていくこの速度は、まさにアンディスカバリー率の一断面になる。

第二に、文献の陳腐化である。 Burton と Kebler は1960年に、科学技術文献の使用が放射性崩壊の半減期に似た速度で古びることを論じた12。 文献の陳腐化率、Journal Citation Reports の cited half-life は、この発想を制度化した指標である。 これも喪失の速度の一断面だが、主流はこれを蔵書計画のための道具として扱い、進歩の収支の支出側として読まない。

第三に、撤回された知見の残存である。 撤回は、誤りと判定された知識を能動的使用から除く操作である。 だが、その除去は完了しない。 Bar-Ilan と Halevi が2017年に調べた238件の被引用文脈のうち、83%が撤回論文を肯定的に引用していた13。 Hsiao と Schneider が2022年に生物医学で調べた13,252件の撤回後引用文脈のうち、撤回を認識していたのはわずか5.4%だった14。 主流はこれを、引用の衛生の問題、正すべき手続き上の失敗とみる。 反転すれば、これは測定可能なアンディスカバリーの失敗になる。 喪失させるべき知見が能動的使用から落ちきらずに残存する速度は、喪失率の裏面として検定できる量である。 [証拠水準:状況証拠]

第四に、パラダイム転換に伴う喪失である。 Kuhn は、パラダイムの転換が旧パラダイムの解けていた問題を解けなくする喪失を伴うと論じた(前掲9)。 Post は1971年に、この現象を Kuhn-loss と呼んだ15。 主流の進歩観は、転換を前進として物語り、その裏で失われる説明力を数えない。 反転すれば、Kuhn-loss は喪失という過程の、機構を異にする一断面として、事実の半減期や撤回残存と同じ収支のもとに並ぶ。

第五に、独立な再発見である。 Merton は1961年に、科学的発見が原理的に多重的でありうると論じ16、Ogburn と Thomas は1922年に、独立に複数の主体が同じ発明に至った約148の事例を数えた17。 同じ知識に独立して二度到達するということは、一度目の知識が二度目の主体にとって使用可能な圏内になかった、すなわち失われていたことを含意しうる。 主流はこれを発見の社会学、先取権の問題として扱う。 反転すれば、再発見の頻度は、喪失が起きた痕跡として、喪失率を間接に測る手がかりになる。 [証拠水準:著者の推定]

これら五つを、主流は別々の問題として個別に処理してきた。 事実の更新、蔵書の陳腐化、引用の衛生、パラダイムの前進、先取権の争い。 反転すれば、これらは一つの過程の、機構を異にする断面になる。 そして、五つを束ねる論理は一つに尽きる。 分野の知識が生産と喪失の収支なら、これらはすべて支出側の記帳である。 [証拠水準:状況証拠]

反証できる予測を立てる

ここまでは描像の話であり、そのままでは反証できない。 ド・ブロイの一歩が科学たりえたのは、電子回折という反証可能な予測を伴ったからだ。 生産と喪失の収支という描像も、同じ資格を得るには、生産だけを測る進歩観では原理的に説明できない何かを予測しなければならない。

その予測は、二つの測定量として書ける。

第一に、測定可能なアンディスカバリー率である。 確立した知識が能動的使用から落ちる速度を、生産率と同じ footing で測る。 事実の半減期、文献の陳腐化率、撤回残存率、Kuhn-loss、再発見頻度を、ばらばらの現象としてでなく、一つの喪失フローの推定量として合流させる。 生産だけを測る進歩観が正しければ、これらは互いに無関係な雑音であり、一つのフローに束ねても収束する信号は現れないはずだ。 束ねたときに、生産率と対をなす安定した喪失率が推定できるなら、収支の描像が支持される。

第二に、喪失調整済み進歩指標である。 分野の正味の進歩を、生産から喪失を差し引いた収支として定式化する。 論文数や被引用の増加は、生産側の記帳にすぎない。 同じ期間に失われた確立知を差し引いた正味が、実際の前進である。 生産だけを測る進歩観が正しければ、喪失を差し引いても分野の順位や進歩の物語は変わらないはずだ。 差し引いたときに、生産指標では前進していた分野が正味では停滞している、といった系統的な差が現れるなら、収支の描像が支持される。 [証拠水準:著者の推定]

そして、撤回知見の残存は、この収支のなかで最も直接に検定できる断面である。 撤回は、喪失させるという操作の実行である。 その操作が完了しないこと、撤回後も肯定的引用が続くことは、能動的使用から知見を落とす喪失フローの、測定可能な失敗として観測できる。 残存率が高いほど、その分野の喪失機構は効いていない。 これが、電子回折に相当する検定の、最も接地の効く入口である。

新規性はどこにあり、どこにないのか

反転が魅力的に見えるときほど、既出との境界を厳密に引かねばならない。 本ノートの主張の多くは、すでに部分的に存在する。

喪失を能動的な生産として捉える視座は、既にある。 agnotology が無知を能動的な産物として示したこと(前掲6)が、その中核である。 だがそれは、意図的に作られる無知を主に論じ、喪失を速度をもつ一般過程へは拡張しない。

知識の減衰を速度として測る仕事も、既にある。 Candia らが2019年に Nature Human Behaviour で示したのは、論文や特許や文化的産物への集合的注意が、二重指数(コミュニケーション的記憶と文化的記憶の二相)で減衰するという普遍則だった18。 これは、知識が能動的使用から落ちる速度を測る、現存する最も強い定式化である。 だから「喪失は一度も測られていない」と書けば、この研究で即座に反証される。 ただし Candia らの対象は注意と記憶の減衰であり、それを生産の収支に結びつけてはいない。

知識の価値が時間とともに変わる動態を形式化した仕事も、既にある。 van Raan が2004年に定式化した Sleeping Beauties、すなわち長く無引用のまま眠り後に覚醒する論文19、Ke らが2015年に PNAS で導入した美人係数20は、知識価値の時間動態を係数として扱う。 ただしこれらは覚醒という一方向の遅延を測るのであって、喪失と生産の収支ではない。

大きな分野が硬直し新規参入が阻まれる停滞も、既にある。 Chu と Evans が2021年に PNAS で示したのは、大きな分野ほど正典が結晶化し、新しい着想が分野規模の注意を得にくくなる現象だった21。 これは喪失の一味を帯びるが、既存知が能動的使用から出ていく話ではなく、新規知が入りにくくなる参入側の停滞である。

知識ストックを生産マイナス喪失として扱う収支の発想も、実は完全な空白ではない。 Dolgonosov が2020年に提示した文明の知識モデルは、能動的な知識を生産率マイナス喪失率の均衡として微分方程式で書き、知識生産のエネルギー散逸と直接的な知識喪失を明示的に組み込んでいる22。 だからここで「生産と喪失の収支は誰も考えたことがない」と書けば、この研究で反証される。 ただしこれは文明と気候変動のマクロモデルであって、科学的知識の進歩を測る scientometrics の指標としての定式化ではない。

以上を踏まえて、本ノートの新規性は、次の三点に厳密に限定される。

第一に、対称化である。 喪失を能動的過程とみる agnotology、減衰を速度として測る Candia ら、収支をモデル化する Dolgonosov は、それぞれ片側や隣接を示したが、喪失を発見の構造的な双対として、しかも scientometrics の生産指標と同じ footing に置いて対称化した定式化は、確認できた範囲にない。 第二に、指標の定式化である。 散在する喪失現象を一つのアンディスカバリー率へ合流させ、生産から喪失を差し引く喪失調整済み進歩指標を、メタ科学の測定量として立てる。 「アンディスカバリー率」という語は、検索した範囲で既存の術語として見当たらなかった23。 第三に、束ねである。 事実の半減期、文献の陳腐化、撤回残存、Kuhn-loss、独立再発見という散在現象を、生産と喪失の収支という一つの描像のもとに束ねる。

そして、この三点は確証された事実ではない。 アンディスカバリー率が一つのフローとして収束するか、喪失調整済み指標が生産指標と系統的にずれるかという確証実験を待つ、反証可能な仮説である。 [証拠水準:著者の推定]

閉じずに残す一つの問い

ド・ブロイの対称性は、電子回折で閉じた。 本ノートの対称性は、まだ閉じていない。

喪失の断面は、事実の半減期でも撤回残存でも、すでに個別に測られている。 生産と対をなす一つの喪失率として合流するはずだ、と対称性は告げる。 だが、告げることと、示すことは違う。 どの現象を同じフローの断面として合算してよいのか、能動的使用から落ちたという判定を何をもって下すのか、Kuhn-loss のように機構の異なる喪失を単一の率へ束ねることが正当かは、本ノートの手の届く範囲を超える。

一つだけ、問いを残す。 仮に喪失率が測れて、分野の正味の進歩が生産マイナス喪失として書けたとして、その収支を測る装置もまた、生産の側でできている。 喪失を数える道具が、自らの数え落としをどう数えるのか。 撤回が完了しないように、喪失の測定もまた完了しないのかもしれない。 その残余がどこで止まるのか、あるいは止まらないのかは、まだ測られていない。

関連ノート

  • subtractive-creativity-design — 生産の反対側(引くこと、消すこと、失うこと)を創造の一級の操作として扱う姉妹の論考。本ノートが知識の消失を発見の双対に据えるのと同じ手つきを、創造の側で試みる

参照文献

方法の出典、および各主張の証拠として実在を確認した文献を DOI/URL つきで示す。 書誌の一部が未確定または本文到達が未達のものには [要一次検証] を付す。

方法(対称性完成という発見法)

  • de Broglie, L. (1924). Recherches sur la théorie des quanta. 博士論文、パリ大学理学部。(原論文PDFへの直接到達は [要一次検証]、構図と提出日は複数二次源で確認)
  • Davisson, C. & Germer, L. H. (1927). Diffraction of Electrons by a Crystal of Nickel. Physical Review 30(6), 705–740. https://doi.org/10.1103/PhysRev.30.705
  • Stanford Encyclopedia of Philosophy. Symmetry and Symmetry Breaking. https://plato.stanford.edu/entries/symmetry-breaking/
  • Kuhn, T. S. (1962). The Structure of Scientific Revolutions. University of Chicago Press.

片側で示された喪失(agnotology)と生産指標

  • Proctor, R. N. & Schiebinger, L. (eds.) (2008). Agnotology: The Making and Unmaking of Ignorance. Stanford University Press. ISBN 978-0-8047-5901-4.
  • Gross, M. & McGoey, L. (eds.) (2015). Routledge International Handbook of Ignorance Studies. Routledge. ISBN 9780415718967.
  • Garfield, E. (1955). Citation Indexes for Science. Science 122(3159), 108–111. https://doi.org/10.1126/science.122.3159.108
  • Hirsch, J. E. (2005). An index to quantify an individual’s scientific research output. PNAS 102(46), 16569–16572. https://doi.org/10.1073/pnas.0507655102

収支が束ねる散在現象(喪失の諸断面)

  • Poynard, T. et al. (2002). Truth survival in clinical research: an evidence-based requiem? Annals of Internal Medicine 136(12), 888–895. https://doi.org/10.7326/0003-4819-136-12-200206180-00010
  • Arbesman, S. (2012). The Half-Life of Facts. Current (Penguin). ISBN 9781591844723.
  • Burton, R. E. & Kebler, R. W. (1960). The “half-life” of some scientific and technical literatures. American Documentation 11(1), 18–22. https://doi.org/10.1002/asi.5090110105
  • Bar-Ilan, J. & Halevi, G. (2017). Post retraction citations in context: a case study. Scientometrics 113(1), 547–565. https://doi.org/10.1007/s11192-017-2242-0
  • Hsiao, T.-K. & Schneider, J. (2022). Continued use of retracted papers. Quantitative Science Studies 2(4), 1144–1169. https://doi.org/10.1162/qss_a_00155
  • Post, H. R. (1971). Correspondence, Invariance and Heuristics. Studies in History and Philosophy of Science Part A 2(3), 213–255. https://doi.org/10.1016/0039-3681(71)90042-2
  • Merton, R. K. (1961). Singletons and Multiples in Scientific Discovery. Proceedings of the American Philosophical Society 105(5), 470–486.
  • Ogburn, W. F. & Thomas, D. (1922). Are Inventions Inevitable? Political Science Quarterly 37(1), 83–98. https://doi.org/10.2307/2142320

新規性の限定(既出との境界)

未検証事項([要一次検証]

本文および参照文献で書誌が未確定、または本文への到達が未達のものを集約する。

  • de Broglie (1924) 原論文PDF(PSL Bibnum ファクシミリ)への直接到達(構図と提出日は複数二次源で一貫確認)。
  • Agnotology 序章以外の書物全体における rate / symmetry / conservation の網羅的検索(序章 PDF では技術的用法なしを確認)。
  • Gross & McGoey (2015) の内部における喪失率や対称性の扱い(scope に基づく判断、全文検索は未達)。
  • Burton & Kebler (1960) に由来するとされる cited half-life 指標の一次定義(帰属には Száva-Kováts 2002 の異論あり)。
  • Hsiao & Schneider のオンライン初出年(2021 と 2022 の表記が併存、号の確定は2022)。
  • Post (1971) が “Kuhn-loss” の語を自ら導入する一次箇所(帰属は二次的に広く流布)。
  • Dolgonosov (2020) の本文詳細(abstract 中心の到達)。
  • “undiscovery” / “undiscovery rate” を定義された術語として用いる先行例の不在(検索に基づく不在であり、非存在の証明ではない)。

Footnotes

  1. de Broglie, L. (1924). Recherches sur la théorie des quanta. 博士論文、パリ大学理学部、1924年11月25日提出(審査主査 J. Perrin)。光の波動性と粒子性の双対を物質へ拡張し、運動量と波長を結ぶ関係を提示した。原論文の PSL Bibnum ファクシミリへの直接到達は [要一次検証](構図と提出日は複数二次源で一貫確認)。

  2. Davisson, C. & Germer, L. H. (1927). Diffraction of Electrons by a Crystal of Nickel. Physical Review 30(6), 705–740. https://doi.org/10.1103/PhysRev.30.705 電子回折を実証し、ド・ブロイの物質波仮説を(当初は狙わず)確証した。

  3. Stanford Encyclopedia of Philosophy, “Symmetry and Symmetry Breaking”. https://plato.stanford.edu/entries/symmetry-breaking/ 対称性が理論構成の発見法(heuristic)として働くことの概説。

  4. Garfield, E. (1955). Citation Indexes for Science. Science 122(3159), 108–111. https://doi.org/10.1126/science.122.3159.108 引用索引を提唱し、文献間の連関の蓄積を可視化した。

  5. Hirsch, J. E. (2005). An index to quantify an individual’s scientific research output. PNAS 102(46), 16569–16572. https://doi.org/10.1073/pnas.0507655102 被引用 h 以上の論文を h 本もつことで研究産出を一つの数に集約する指標。

  6. Proctor, R. N. & Schiebinger, L. (eds.) (2008). Agnotology: The Making and Unmaking of Ignorance. Stanford University Press. ISBN 978-0-8047-5901-4. 序章 “Agnotology: A Missing Term to Describe the Cultural Production of Ignorance (and Its Study)“。無知を能動的生産として捉え、三類型に整理した。 2

  7. 序章本文を検索したところ、rate / symmetry / conservation / measurable に当たる技術的用法は認められない。無知は「能動的に作られる」ものとして質的に論じられ、速度の形式化や保存則的な対称化はなされていない(本文への到達は序章 PDF による。書物全体の網羅的検索は [要一次検証])。

  8. Gross, M. & McGoey, L. (eds.) (2015). Routledge International Handbook of Ignorance Studies. Routledge. ISBN 9780415718967(第2版 2022, ISBN 9780367608149)。無知の政治的で社会的な用法を横断的に扱う。測定可能な喪失率や保存則的対称の枠組みは示されない(scope に基づく判断、[要一次検証])。

  9. Kuhn, T. S. (1962). The Structure of Scientific Revolutions. University of Chicago Press. 通常科学がパラダイムを所与として細部を精緻化し、枠組み自体を問わないこと。革命が「構成的であると同時に破壊的」であることも論じ、パラダイム転換に伴う説明力の喪失(後に Kuhn-loss と呼ばれる現象)を指摘した。 2

  10. Poynard, T. et al. (2002). Truth survival in clinical research: an evidence-based requiem? Annals of Internal Medicine 136(12), 888–895. https://doi.org/10.7326/0003-4819-136-12-200206180-00010 肝疾患の臨床的結論の「真理の半減期」を約45年と測定。方法論的に頑健な結論に明確な生存優位は認められなかった。

  11. Arbesman, S. (2012). The Half-Life of Facts: Why Everything We Know Has an Expiration Date. Current (Penguin). ISBN 9781591844723. 事実の減衰が分野を越えて予測可能な速度で起きることを、scientometrics の知見を通俗化して論じた。

  12. Burton, R. E. & Kebler, R. W. (1960). The “half-life” of some scientific and technical literatures. American Documentation 11(1), 18–22. https://doi.org/10.1002/asi.5090110105 文献使用の陳腐化を放射性半減期になぞらえた(ただし著者らはこの概念に限定的な妥当性しか認めていない)。cited half-life 指標の定義は [要一次検証]

  13. Bar-Ilan, J. & Halevi, G. (2017). Post retraction citations in context: a case study. Scientometrics 113(1), 547–565. https://doi.org/10.1007/s11192-017-2242-0 撤回論文への被引用238件のうち83%が肯定的引用、12%が中立、5%が否定的。

  14. Hsiao, T.-K. & Schneider, J. (2022). Continued use of retracted papers: Temporal trends in citations and (lack of) awareness of retractions shown in citation contexts in biomedicine. Quantitative Science Studies 2(4), 1144–1169. https://doi.org/10.1162/qss_a_00155 撤回後引用文脈13,252件のうち撤回を認識していたのは5.4%。オンライン初出年は2021の表記もあり [要確認]

  15. Post, H. R. (1971). Correspondence, Invariance and Heuristics: In Praise of Conservative Induction. Studies in History and Philosophy of Science Part A 2(3), 213–255. https://doi.org/10.1016/0039-3681(71)90042-2 パラダイム転換に伴う説明力の喪失を “Kuhn-loss” と呼んだとされる(Post 自身が同語を導入する一次箇所は [要一次検証])。

  16. Merton, R. K. (1961). Singletons and Multiples in Scientific Discovery: A Chapter in the Sociology of Science. Proceedings of the American Philosophical Society 105(5), 470–486. すべての科学的発見が原理的に多重的でありうると論じた。

  17. Ogburn, W. F. & Thomas, D. (1922). Are Inventions Inevitable? A Note on Social Evolution. Political Science Quarterly 37(1), 83–98. https://doi.org/10.2307/2142320 独立に複数の主体が同じ発明に至った約148事例を列挙。

  18. Candia, C., Jara-Figueroa, C., Rodriguez-Sickert, C., Barabási, A.-L., Hidalgo, C. A. (2019). The universal decay of collective memory and attention. Nature Human Behaviour 3(1), 82–91. https://doi.org/10.1038/s41562-018-0474-5 論文や特許や楽曲や映画への集合的注意が二重指数(コミュニケーション的記憶と文化的記憶の二相)で減衰する普遍則を実証。

  19. van Raan, A. F. J. (2004). Sleeping Beauties in science. Scientometrics 59(3), 467–472. https://doi.org/10.1023/B:SCIE.0000018543.82441.f1 長く無引用のまま眠り後に急に引用される論文の現象を定式化。

  20. Ke, Q., Ferrara, E., Radicchi, F., Flammini, A. (2015). Defining and identifying Sleeping Beauties in science. PNAS 112(24), 7426–7431. https://doi.org/10.1073/pnas.1424329112 「美人係数」を導入し、Sleeping Beauty 現象が連続的で例外でないことを2200万論文で示した。

  21. Chu, J. S. G. & Evans, J. A. (2021). Slowed canonical progress in large fields of science. PNAS 118(41), e2021636118. https://doi.org/10.1073/pnas.2021636118 大きな分野ほど正典が結晶化し新規着想が分野規模の注意を得にくくなることを、18億件の引用で示した。

  22. Dolgonosov, B. M. (2020). A knowledge-based model of civilization under climate change. arXiv:2002.10196. https://doi.org/10.48550/arXiv.2002.10196 能動的知識を「生産率マイナス喪失率」の均衡として微分方程式でモデル化。ただし文明と気候変動のマクロモデルであり、科学進歩の指標ではない。本文詳細への到達は abstract 中心のため [要一次検証]

  23. scientometrics / メタ科学において “undiscovery” および “undiscovery rate” を定義された術語として用いる先行例は、検索した範囲で見当たらなかった。ただしこれは検索に基づく不在であって、非存在の証明ではない([要一次検証])。Swanson の “undiscovered public knowledge”(1986)は、断片化して結合されないまま埋もれた公共知識を指し、既知が使用圏から落ちる「喪失」とは概念が異なる。


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