Shuichiro Ogawa
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ノート · updated 2026-09-22

SF プロトタイピングと design fiction は何をもたらすのか

SF プロトタイピング(Johnson 2011)と design fiction(Bleecker 2009)の「効果」を扱う学術文献81件を、映画の中の技術が現実を動かす経路、組織の未来洞察、HCI の研究道具、教育の四つの場面に分けて読んだ。確かめられているのは主に、参加者から議論や価値観を引き出せるという点である。

目次(7)
  1. 二つの呼び名と、その源流
  2. 組織の未来洞察で報告されていること
  3. HCI の研究道具として確かめられていること
  4. 教育で測られていること
  5. 効果の主張に向けられた批判
  6. まだ測られていないこと
  7. Footnotes

企業の研修や大学の授業で、SF 短編を書いて未来の製品や社会を考えるワークショップが開かれている。 参加者は楽しそうで、ふだん出ない発想が出た手ごたえもある。 効果はあったに違いない。

ところが、その効果を何で測ったのかと問われると答えに詰まる。 想像力なのか、未来への関心なのか、倫理的な感受性なのか。 そもそも何を効果と呼ぶのかが決まっていない。

このノートは、SF プロトタイピングと design fiction の効果を扱う学術文献を集め、何が主張され、何が確かめられ、何がまだ測られていないのかを整理する。 収集は OpenAlex、Crossref、Semantic Scholar、J-STAGE などを横断して行い、選別後の81件を台帳に載せた。

二つの呼び名と、その源流

SF プロトタイピング(science fiction prototyping)は、Johnson が2011年の著書で名前を与えた手法である。 SF を書くことで、技術を単体ではなく社会の文脈の中で考えさせる手法として、セキュリティ教育(Kohno と Johnson)や組織の未来洞察で使われてきた1

design fiction は、Bleecker が2009年のエッセイで広めた語である。 Bleecker は冒頭で「Design Fiction is making things that tell stories」と書き、物語を語るモノを作ることで、ある関心事に焦点を当てる実践として位置づけた。

二つの源流には、映画研究の Kirby が示した diegetic prototype(物語世界の中で実際に機能しているように描かれる試作品)がある。 Kirby は、映画の中の技術描写が観客に技術の必要性、実現可能性、無害さを示し、現実の研究資金の獲得につながりうると論じた。 思弁的デザイン(speculative design)という語を広めた書籍としては、Dunne と Raby の Speculative Everything(2013)がある。

Kirby の議論は、ワークショップ参加者への効果ではなく、フィクションが社会の中で技術開発を後押しする経路についての議論である。 以下で扱う文献の多くは、この二つを区別せずに「効果」と呼んでいる。

組織の未来洞察で報告されていること

企業や政策の未来洞察では、SF プロトタイピングはシナリオを作る道具として使われてきた。

Merrie らは SF プロトタイピングで4つの急進的な海洋の未来シナリオを作り、既存のシナリオ手法を補い、専門家でない人にも届くと主張した。 Stahl らは介護ロボットを題材にした SF プロトタイプを、倫理的な論点を先回りして洗い出す責任ある研究とイノベーション(RRI)の実践例として示した。 Bennett と Vijaygopal は、専門家のワークショップから作った移動技術のプロトタイプを歩行障害のある人たちに提示し、どの特徴を重視するかをコンジョイント分析で測って3つのグループに分けた。

日本の企業の実践では、物井らが SF を土台にしたライブアクションロールプレイ(LARP、参加者が役を演じる体験型の手法)を自動車メーカーの未来洞察に取り入れた。 物井らは、参加者が複雑な関係を探り、将来シナリオを包括的に理解できたと報告し、事後のインタビューから効果が続いていることが示唆されたと述べている。

2026年には Schimpf らが、約6万件の文献から SF に関連する手法17種を特定し、6段階のイノベーション過程のどこで使えるかを対応づけた。 手法の見取り図はできつつある。

ただし、ここに挙げた研究はどれも、手法を使った事例の記述か、手法の位置づけの整理である。 SF プロトタイピングを使った組織と使わなかった組織を比べて、意思決定や成果が変わったかを確かめた研究は、本コーパスには見つからなかった。 表題に「empirical exploration」を掲げる Wu(2013)の「Imagination Workshops」は、要旨を取得できず、何を測ったのかを確認できなかった。

HCI の研究道具として確かめられていること

HCI とデザイン研究では、design fiction は「まだ存在しない技術について人に話してもらう」ための道具として使われている。 効果の報告が比較的具体的なのは、この領域である。

Noortman らは、認知症ケアの将来技術を扱う design fiction の試作品を、8名の参加者の自宅に3週間置いた。 さらに HCI の専門家6名とのセッションも行い、この手法が将来の技術の帰結について共感的で豊かな議論を引き出したと報告した。 Elsden らは、参加者を思弁的でありながら実際に帰結を伴う状況に巻き込む speculative enactment を、3つの事例で示した。 Dillahunt らは、デトロイトの黒人とラテン系の労働者階級の住民と5週間のワークショップを行い、Afrofuturism(アフリカ系ディアスポラの視点から未来を描く文化運動)を中心に据えることで、コミュニティ資本主義や保育の協同組合といった代替的な経済像を引き出した。

これらの研究で効果と呼ばれているのは、参加者の変化ではなく、研究者が得られる語りや価値観の質である。 design fiction は、まだない技術への懸念や願いを参加者に語ってもらうための道具として使われている。

その評価の仕方が定まっていないことも、同じ領域の研究者が指摘している。 Baumer、Blythe、Tanenbaum は、design fiction の評価基準に混乱があるとし、HCI の中に批評的デザイン、物語論や文学理論、スタジオでの講評、ユーザー研究、シナリオとペルソナ、思考実験という複数の評価の伝統が並んでいることを示した。 どの伝統を採るかで、何をもって良い作品とみなすかの基準も変わりうる。 Kozubaev らは、design futuring の研究者が省みるべき点を、形の与え方、時間の扱い、研究者の立ち位置、現実世界への関与、知識の生み方の5つに整理した。 Barendregt と Vaage は、思弁的デザインを思考実験として理解すると、公共的な議論を起こすという目的を果たしやすくなると論じた。

教育で測られていること

教育の文献は数が多く、本コーパスでは教育文脈の研究が20件を超える。 しかし、その大半は授業設計の報告か、質的な事例研究である。

学習の変化を数値で示していたのは、Nicholes(2020)だけだった。 Nicholes は大学生83名(英語専攻35名、STEM 専攻48名)に短い SF プロトタイプを書かせ、書く営みへの認識を前後で比べた。 介入前には専攻による評価の差があった(たとえば英語専攻は創作の文章を将来のキャリアにより関係すると評価していた。p = .04, r = .23)が、介入後にはその差が消えた。 STEM 専攻では、創作の文章を自分の専攻と将来に関係すると見る評価が介入後に上がった(p = .015, r = .35)。 英語専攻の評価は変わらなかった。 統制群はなく、測ったのは書くことへの認識であって、未来を考える力や倫理的な判断ではない。

質的な研究は、効果の中身を別の角度から照らしている。 Andersson と Brodin は、フィクションを使った工学倫理の選択科目で、学生が個人の判断の倫理と社会制度の倫理の視点を組み合わせて使えた一方、その省察が自分の将来の職業上の役割に結びつくことは稀だったと報告した。 Bendor と Lupetti は、大学院での思弁的デザインの授業が、社会と技術のジレンマに目を向けさせ、イノベーションの道徳的、政治的な含意を議論させると述べつつ、デザインと工学の課程に特有の導入の障壁を論じた。 Petersen と Gundersen は、フィクションを使った高等教育の実践から、教育の慣習への挑戦、変容の兆しを伴う学生の困惑、教室の外に広がる学びという3つのテーマを取り出した。

Rahm の報告は、効果の向きそのものを問い直す。 Rahm は教員養成課程の学生36名と3回の design fiction ワークショップを行い、批判的な未来を考えさせるはずの場で、学生が既存の支配的な技術観をなぞる「皮肉な模倣」が起きたことを分析した。 Rahm はこの失敗を無駄とは見ず、想像がどこで制約されているかを可視化する機会として扱っている。 Andersson と Brodin の結果と並べると、フィクションを使えば批判的な視点が自動的に育つとは言えないことがわかる。

日本語の研究では、三谷らが創作の専門性がなくても実施できる「ひらかれた SF プロトタイピング」の手法を提案し、峯岸と大澤は SF プロトタイピングの発想を支援するエージェントを作って人間の進行役と比べた。 峯岸と大澤は、エージェントによって参加者ごとのアイデア数のばらつきが均され、登場人物を作る数が増える可能性を示したと述べている。 どちらも要旨には参加人数や検定の記述がなく、効果の大きさは確認できなかった。

効果の主張に向けられた批判

効果を語る前提そのものへの批判もある。

Coulton、Lindley、Akmal は、design fiction の作品を、明白にフィクションとわかるもの、デザインとして識別できるもの、状態があいまいなものの3つに分けて検討した。 見る人が既存の形式に慣れているほど作品を本物と取り違えやすく、もっともらしさを追求すると、作り手が意図的に欺く戦略に傾きうると論じた。 議論を引き出す力と、見る人を誤認させる危うさは、同じ「もっともらしさ」から生まれている。

Szollosy は、Johnson の SF プロトタイピングの枠組みを「断固として、そして時代遅れに人間主義的(humanist)」と評し、文化的な想像を自己反省的に捉えるポストヒューマニズムの方法として組み直すことを提案した。 想像を技術開発の道具として使うこと自体が、どんな未来を想像できるかを狭めているという批判である。

まだ測られていないこと

ここまでの文献を並べると、「効果」という語が少なくとも4つの別のものを指していることがわかる。 フィクションが社会の中で技術開発を後押しすること(Kirby)、組織がシナリオを作り論点を洗い出すこと(Merrie、Stahl、物井)、研究者が参加者から語りや価値観を引き出すこと(Noortman、Dillahunt)、学習者の認識や省察が変わること(Nicholes、Andersson と Brodin)である。 それぞれ、確かめるための方法も、満たすべき証拠も違う。

このうち根拠が比較的そろっているのは、議論や価値観を引き出すという3つめの効果である。 ただしそれも、手法を使わなかった条件と比べた結果ではなく、得られた語りの質を研究者が記述したものである。

空白は次の4つにまとめられる。

  • 比較の不在:SF プロトタイピングや design fiction を使った群と、使わない群や別のシナリオ手法を使った群を比べた研究が、本コーパスには見つからなかった。系統 C の探索と検証工程で事前事後比較や統制群を探したが、定量の報告は Nicholes の1件だった。
  • 効果の定義の不一致:評価の伝統が複数並び(Baumer ら)、どの伝統で測るかが研究ごとに違う。
  • 持続の検証:物井らはインタビューから持続的効果を示唆し、Wuyts と Vandamme は長期的な影響の評価を今後の課題として挙げている。追跡調査は見当たらなかった。
  • 生成 AI との組み合わせ:生成 AI で design fiction を共作する研究が2025年から2026年に出はじめている。 Sipos(2025)は都市デザイナーのワークショップで、生成 AI と参加型のシナリオ構築を組み合わせた。 Lehnert ら(2026)は GPT-4 と教育の design fiction 18本を6種のプロンプトの与え方で共作し、物語の質はモデル単独ではなく、人間の枠づけ、プロンプトの与え方、モデルの振る舞いの相互作用から生じると報告した。 どちらも作られた物語や手法を分析した研究であり、参加者への効果は測っていない(要旨の範囲)。 なお Mishra ら(2026)は生成 AI との共作ではなく、AI 倫理を扱うスペキュレイティブフィクションのワークショップを、書き手自身の協働オートエスノグラフィーで省察した研究である。

冒頭のワークショップに戻ると、参加者が楽しそうだったことや、ふだん出ない発想が出たことは、研究者が報告してきた「議論を引き出す」効果と重なる。 その手ごたえが、参加者の考え方の変化や組織の判断の変化まで届いたかどうかは、この文献群からはまだ言えない。 ワークショップを使わなかった場合と比べて何が違ったのかを、誰がどの尺度で測るのかは、開いたままである。

参照文献

アクセス日はすべて 2026-09-22。

関連ノート

Footnotes

  1. Johnson の著書そのものの定義の文言は、出版社の紹介文や要旨から確認できなかった。ここでの説明は、SFP を扱う他の文献(Kohno と Johnson 2011、Szollosy 2024)の要旨に基づく。


書いた人:小川 修一郎(Design Researcher / Consultant) 経歴を見る →