Shuichiro Ogawa
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ノート · updated 2026-09-22

創造的な仕事を人と協作すると、どんな社会的調整コストがかかるのか

人を足しても仕事は人数分には進まず、差分は調整の損失と動機づけの損失(Steiner 1972)、そして助けを得にくいと感じる関係の損失(Mueller 2012)に消える。調整コストは一種類ではなく、段取りと情報の同期、手抜き、評価される気まずさ、対立、解釈の違いのすり合わせ、名前と取り分の交渉という、起きる理由の違う六つに分けて見る必要がある。

目次(6)
  1. 人数分の力が出ないのはなぜか
  2. 調整コストの六つの出どころ
  3. 創造的な仕事で、調整はどこに食い込むのか
  4. 調整を安くする仕組みと、その代わりに失うもの
  5. 相手が AI なら、調整コストは消えるのか
  6. まだ分かっていないこと

二人で一本の文章を書くことになったとする。 手が二倍あるのだから、半分の時間で書き上がるに違いない。

ところが書き始めると、一つの段落の言い回しで意見が分かれ、どちらの案を採るかで手が止まる。 Farkas は、全文を複数人で共同起草する形について、「二人(以上)が一人分の仕事をし、実際には一人より少ない量しか書けないことも多い」と書いた。 語の選択や文の組み方をめぐる不和と苛立ちも、頻繁に生まれるという。

着想を出し合う場面でも似たことが起きる。 人を集めて対面でブレインストーミングをさせると、同じ人数がばらばらに考えた案を合算したときより、案の量も質も低い。

人を足した分の力は、どこへ消えるのか。 そして、つくるものが文章やアイデアのような創造的な成果物であるとき、その消え方に固有の形はあるのか。

人数分の力が出ないのはなぜか

Steiner は、集団の実際の生産性を「潜在的生産性から、欠陥のある過程による損失を引いたもの」と定式化した。 この損失はプロセスロス(process loss)と呼ばれる。 Steiner は損失を、力の組み合わせ方がうまくいかない調整の損失と、一人ひとりが力を出し切らない動機づけの損失に分けた。

二つの損失は、実験で切り離せる。 Ingham らは、実際には一人で力を出しているのに、集団で一緒にやっていると信じさせる疑似集団の条件を作った。 隣に誰もいないので、息が合わないという失敗は起こりようがない。 それでも力は落ちた。 調整の失敗だけでは、集団の損失は説明しきれない。

Latané らは拍手と歓声を使った実験で、集団だと信じている人数が増えるほど、一人当たりの音量が下がることを示した。 この現象は社会的手抜き(social loafing)と呼ばれる。

調整のほうにも定義がある。 Malone と Crowston は、調整を「活動間の依存関係の管理」と定義した。 誰かの作業が終わらないと自分が始められない、同じ資源を二人が使う、といった依存があるところに調整の仕事が生まれる。 経済学では、市場で取引する費用と組織の中で調整する費用を比べて、仕事をどこでまとめるかが決まると Coase が論じ、Williamson がこれを取引費用の経済学として体系化した。 調整に費用がかかること自体は、古くから理論の前提になっている。

その費用は人数とともに増える。 Brooks は、n 人が互いに連絡を取り合うと、連絡の経路は n(n-1)/2 本になると指摘した。 3人なら3本、6人なら15本、10人なら45本である。 Brooks は同じ本で、遅れたソフトウェア開発に人を足すとさらに遅れるとも書いた。

Steiner の二分では収まりきらない損失もある。 Mueller は26チーム212名を調べ、チームが大きいほど「助けを得にくい」と感じる relational loss が、チームの規模と個人の成績の負の関係を媒介していることを示した。 段取りの失敗でも、やる気の低下でもなく、人間関係の知覚から生じる損失である。 本ノートではこれを三つめの損失として扱う。

調整コストの六つの出どころ

「調整コスト」と一語でくくると、起きる理由の違うものが混ざる。 連絡の手間と、人前で発言する気まずさと、クレジットの配分をめぐる交渉は、どれも協作の費用ではあるが、生じる仕組みも効く条件も違う。

段取りと情報をそろえる手間

一つめは、誰が何をどこまでやったかをそろえる手間である。

Kraut と Streeter は65件のソフトウェア開発を調査し、規模、相互依存、不確実性が大きいほど、公式の手続きだけでは足りず、非公式のコミュニケーションが調整に必要になると報告した。 手順書のような公式の仕組みだけでは、段取りはそろわない。

距離や組織の境界をまたぐと、この手間は増える。 Olson と Olson は遠隔協働の成否を分けるものとして、共有された前提(common ground)、作業どうしの結びつきの強さ(coupling of work)、協働への準備(collaboration readiness)、協働の技術への準備(collaboration technology readiness)の四つを挙げた。 Cummings と Kiesler は62件の学際共同研究を調べ、参加大学の多いプロジェクトほど調整が有意に不十分で、成果も少なかったと報告した。

この手間を数えた研究もある。 Kittur らは Wikipedia の対立と調整の費用を「新しい記事内容に直結しない余分な作業」と定義し、Wikipedia が成長するにつれて記事そのものの編集の割合が下がり、議論、方針、手続きといった間接作業の割合が増えたことを示した。 百科事典を書く共同体が、書くこと以外の作業の割合を増やしていったわけである。

調整を支えるものとして研究されてきたのが、相手の作業が自然に見える状態である。 Dourish と Bellotti は、共有された作業空間から受動的に得られる awareness(他者が何をしているかの把握)が調整を支えることを示した。 Gutwin と Greenberg は、これを同期型のグループウェアの workspace awareness の枠組みとして整理している。

手を抜く

二つめは動機づけの損失である。 Karau と Williams は78研究をメタ分析し、社会的手抜きは頑健に生じ、個人の貢献が識別できないとき、課題の意味が低いときに大きくなると報告した。

共作の成果物では、誰のどの判断が効いたのかが外から見えにくいことが多い。 一つめの条件(貢献が識別できない)に当てはまりやすい構造である。

評価される気まずさ

三つめは、他人の目がもたらす損失である。 Edmondson は 心理的安全性を「対人リスクを取っても安全だというチームの共有信念」と定義し、製造業の51チームで、それが学習行動を介して業績に結びつくことを示した。

ブレインストーミングの研究では、この気まずさは評価懸念と呼ばれる。 Geerts らは、社会的不安から生じる評価懸念がブレインストーミングの生産性を下げることを確認した。 ただし Diehl と Stroebe の4実験では、ブレインストーミング集団の損失の主な説明は評価懸念ではなく、発言の順番待ちだった。 気まずさは損失の一部を説明するが、主因だとは限らない。

対立

四つめは対立である。 Jehn は105集団を調べ、課題の中身をめぐる課題対立と、人間関係そのものをめぐる関係対立を分けた。 関係対立は満足や信頼を損なう。 課題対立は、非定型の課題では有益になりうるが、定型の課題ではそうならない。

この区別は、その後のメタ分析と食い違う。 De Dreu と Weingart は、課題対立も関係対立も業績と満足度に強い負の相関を持ち、複雑な課題ほど負の関連が強いと報告した。 創造的な課題は、非定型であり、たいてい複雑でもある。 Jehn の知見に従えば課題対立は役に立ちうるはずで、メタ分析に従えばかえって害が大きいはずになる。 二つのどちらが創造的な協作に当てはまるのかは、今回集めた文献の範囲では決着していない。

解釈の違いをすり合わせる手間

五つめは、同じものを別々に見ている人たちが、見方をすり合わせる手間である。 Bucciarelli はエンジニアの設計現場を民族誌として記述し、object worlds(参加者が設計の特定部分に取り組むときに身を置く、思考と人工物の領域)を概念化した。 構造の担当者と電気の担当者は同じ製品を見ているが、別々の object world に住んでいる。 その違いが、設計を参加者間の交渉にする。

デザインチームの研究も、この交渉を記述してきた。 Valkenburg と Dorst は Schön の省察的実践の枠組み(naming, framing, moving, reflecting)でデザインチームを分析し、チームが共有のフレーム(問題の捉え方)を形成していく過程を扱った。 Cross と Cross は3名のデザインチームをプロトコル分析し、役割、情報共有、問題の理解、コンセプトの形成とあわせて、対立を解決する場面と回避する場面を観察している。

文章の協作では、この交渉が語の単位で起きる。 冒頭の Farkas が言う不和と苛立ちは、どの語を選び、文をどう組むかをめぐるものだった。 Posner と Baecker は共同執筆を、役割、活動、文書管理、執筆戦略の四つの面で分類している。

名前と取り分の交渉

六つめは、成果が出たあとの交渉である。 Lissoni らは、科学チームでは著者名や発明者名の配分が上位者の裁量に寄り、実際には貢献していない人を著者に加えるギフト著者のような問題が生じることを論じた。 誰の名前を出すかは、調整の対象そのものになる。

創造産業では、交渉は契約の形をとる。 Caves は、多様な技能を一つのプロジェクトに集めなければならないという性質を motley crew と呼び、制作の時間を調整する文脈で、土壇場で交渉力を濫用する hold-up の問題を論じた。 ただし、芸術やデザインの共作でクレジットや取り分がどう交渉されるかを扱った査読研究は、今回の収集では見つからなかった。 Lissoni らの対象は科学であり、Caves の著作は契約理論の書籍である。

創造的な仕事で、調整はどこに食い込むのか

六つの出どころは、どれも創造的でない仕事にもある。 では、創造的な仕事で何が違うのか。

一つは、着想を出す場面そのものに調整の損失が組み込まれていることである。 Diehl と Stroebe は4つの実験で、ブレインストーミング集団の損失が主に production blocking(他人が話し終わるのを待つあいだに、着想を忘れたり、口にするのを控えたりすること)で説明されることを示した。 Mullen らのメタ分析では、対面のブレインストーミングは名目集団(個人の案の合算)より量も質も低く、集団が大きいほど、実験者が同席するほど、口頭で出すほど損失が大きかった。 一度に一人しか話せないという発話の仕組みが、人数分の着想を詰まらせる。

もう一つは、調整の対象が段取りではなく、成果物の中身になることである。 定型の仕事では、何をつくるかは先に決まっていて、協作者がそろえるのは誰がいつ何をやるかである。 創造的な仕事では、何をつくるかが、つくりながら決まる。 Farkas の語の選択、Valkenburg と Dorst の共有フレーム、Bucciarelli の object worlds は、いずれも成果物の中身をめぐる交渉だった。 語や問題の捉え方をめぐるすり合わせは、仕事の外側にある手間ではなく、仕事そのものの一部として起きていると読める。

Caves が motley crew と並べて挙げた創造産業の性質、nobody knows(何が当たるか、需要が事前に読めない)も、この交渉を重くする方向に働くと考えられる。 どちらの案が売れるかを事前に確かめられなければ、案をめぐる食い違いを外部の基準で決着させる手段が乏しくなるからである。 motley crew の性質が加わると、一つのプロジェクトに別々の object world を持つ人たちが集まる。

一方で、協作は損失だけを生むわけではない。 Sawyer は、即興的な相互作用から着想が生まれる collaborative emergence を論じている(一般向けの書籍である)。 集団創造性の実証研究は Paulus と Nijstad の編著が統合している。 損失の研究は、協作に得がないことを示したのではなく、得を出すために支払う費用がどこで生じるかを示している。

調整を安くする仕組みと、その代わりに失うもの

協作を続ける人たちは、調整を安くする仕組みを育ててきた。

芸術の側では、Becker が Art Worlds の慣習(conventions)を扱う章で、慣習が多数の参加者の協働を調整すると論じた。 楽譜の書き方や舞台の段取りが共有されていれば、毎回ゼロから合わせる必要はない。

集団の記憶の側では、Wegner が transactive memory(誰が何を知っているかを共有し、知識を集団で符号化し、保存し、検索する仕組み)を提唱した。 全員が全部を知る必要はなく、誰に聞けばよいかを知っていれば足りる。

共同編集の側では、Kittur と Kraut が、編集者を増やすと Wikipedia の記事の品質が上がるのは、明示的な計画か、少数の編集者への作業の集中という適切な調整を伴うときだけで、伴わなければ品質を損なうことを示した。 人数が多いほど効いたのは、明示的な調整ではなく、暗黙の調整のほうだった。

では、調整は安ければ安いほどよいのか。 Uzzi と Spiro は1945年から1989年のブロードウェイのミュージカルの制作者ネットワークを分析し、スモールワールド性(密なまとまりと、まとまり間の短い経路をあわせ持つ性質)と興行や評価の成功の関係が逆U字になることを示した。 同じ顔ぶれで固まるほど前提の共有は進み、すり合わせの手間は減ると予想できる。 それでも成功は、ある点を越えると下がる。 調整の安さと成果は、途中から同じ方向に動かなくなる。

相手が AI なら、調整コストは消えるのか

協作の相手を人間から AI に替えれば、社会的な調整コストはなくなると考えたくなる。 AI は気まずさを感じさせず、手を抜かず、クレジットも求めないように見えるからである。 今回集めた研究は、この見込みを三つの点で崩す。

一つめに、気まずさは消えなかった。 Geerts らは、ロボットがブレインストーミングの司会をしても、評価懸念が生産性を下げる影響は緩和されなかったと報告した。 ただし、この研究のロボットは司会役であり、共作者ではない。

二つめに、手抜きは消えなかった。 Elshan らは、人間-AI チームでも社会的手抜きが起き、その起き方は一様でなく、AI の存在をどう知覚するか、本人が自分の知識にどれだけ自己効力感を持つかで変わると報告した。 Siemon らは、AI チームメイトの社会的存在感が、AI に依存しようとする意欲とチームへのコミットメントを介して、AI と創造的に協働しようとする意図に間接的に効くと報告している。 AI が相手でも、人は相手をどう感じるかで振る舞いを変える。

三つめに、個人の得の裏で、作品の集まりの側に費用が生じた。 Doshi と Hauser は293名の書き手による実験で、AI から着想を得た短編は新規性と有用性を高く評価される一方、作品同士が似ることを示した。 類似度の上昇は、人間だけの条件での類似度の幅に対する割合で、AI の着想を1件得た条件で10.7%、5件得た条件で8.9%だった。 一人ひとりにとっては得でも、作品の集まりとしては多様性が減る。

Singh らは芸術系の人間-AI 共創システム62件をレビューし、ユーザーの統制度が高いほど満足、信頼、所有感が高いと報告した(arXiv 版の報告)。 AI を相手にしても、誰が決めるのかという問いは残り、その答え方が作り手の満足と所有感を左右する。

以上から、「AI が相手なら社会的な調整コストはゼロになる」とは読めない。 連絡の経路の数のように、相手が人間でなくなることで減りうる費用もあるだろう。 しかし、今回の研究はその減り方を測っておらず、測ったものについては、気まずさと手抜きが残り、多様性の減少という別の費用が加わっていた。

まだ分かっていないこと

  • 芸術やデザインの共作で、クレジットや取り分がどう交渉されるかを扱った査読研究は見つからなかった。クレジット配分の研究(Lissoni ら)は科学チームを対象とし、創造産業の契約の議論(Caves)は査読を経ない書籍である。
  • 調整の費用を作業量として数えた研究(Kittur らの間接作業の割合)は百科事典の共同編集が対象で、芸術やデザインの制作現場で同じ数え方をした研究は、今回の39件に含まれていない。調整の費用と作品の質を分けて測った研究も、今回の範囲では確認できなかった。
  • 課題対立が創造的な協作で有益か有害かは、Jehn の研究と、De Dreu と Weingart のメタ分析のあいだで食い違ったままである。創造的な課題に限った検証は今回の範囲にない。
  • オンラインの共同アニメーション制作でのリーダーシップを扱った Luther と Bruckman の研究は書誌を確認したが、本文に到達できず、本ノートでは内容を扱っていない。
  • 人間-AI の研究は、AI を司会、着想の提供元、チームメイトとして置いたものである。制作チームに AI が長期にわたって加わったときの調整を追った研究は、今回の収集に含まれていない。
  • 今回の39件に、日本語圏の研究は含まれていない。

参照文献

関連ノート

  • AIスロップ:質の低さではなく、検証の外部化として読む:Doshi と Hauser の類似度の上昇を、検証の負担が下流へ渡る現象として読む。本ノートが作品の集まりの側に生じた費用として書いた箇所を、別の角度から扱っている。
  • 初学者グループワークと共有AIエージェント:グループに共有 AI を入れると学生同士の相互作用が AI に吸収されうるという実証を扱う。AI が協作の連絡の経路そのものを組み替える例である。
  • 制作者から編集者へ:AI の出力を監視し精査する「AI 管理労働」を新しい負荷として扱う。AI を相手にしても調整の費用が消えないという本ノートの結論と対応する。
  • デザインと専門職:異なる社会的世界の人々をつなぐ境界対象(Star & Griesemer)を扱う。Bucciarelli の object worlds のあいだを、スケッチや図面がどう橋渡しするかの手がかりになる。
  • 創造性と状況的認知をめぐる文献地図:認知を人と道具の系に分散したものとして見る Hutchins の分散認知を扱う。Wegner の transactive memory は、その系の中で誰が何を知っているかを管理する仕組みにあたる。

書いた人:小川 修一郎(Design Researcher / Consultant) 経歴を見る →