Shuichiro Ogawa
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ノート · updated 2026-10-07

データを図で示すことの価値はどこにあるのか:価値の種類と、なぜ効くのか(産業界の資料から)

データ分析やデータサイエンス全般ではなく、データを図や視覚的な表示で示すこと自体の価値を、産業界の資料(米国 FDA の栄養表示の実験、米国 FTC の省エネラベルの調査、英国のスマートメーターの宅内表示の評価、米国ハリケーンセンターの予報円の検証、気象庁のキキクル、英国の統計規制機関の指摘、Datawrapper と Spotify と Apple の公表値、気候のストライプや Flatten …

目次(11)
  1. 図だから生まれる価値を、分析の価値から切り分ける
  2. すぐ分かる:理解と速さ
  3. 多くの人に届く:伝達と関与
  4. 行動が変わる:選ぶ、使う量を減らす
  5. 異常に気づく:安全と運用
  6. 続けて使われる:製品の体験
  7. 信頼を保つ、または損なう
  8. 図が価値を生まない、または逆に働くとき
  9. なぜ図は効くのか
  10. この整理が当てはまらないところ
  11. Footnotes

図だから生まれる価値を、分析の価値から切り分ける

このノートは産業界の話で、学術研究は理由を説明するのに要る範囲でだけ使った1。 前回の データビジュアライゼーションは産業でどんな価値を持つのか:市場の値付け、価値が生まれる場所、生成 AI 以後(産業界の資料から) は、BI とダッシュボードの市場を中心に扱い、分析の道具としての価値と、図で示すことの価値が混ざっていた。 今回は、同じデータを数字の表や文章で示すのではなく、図や色や形で示したときに何が変わるのかに絞る。

その問いに答えるには、図とそれ以外の表示を比べた資料が要る。 産業界の公開資料を探すと、閲覧数や共有数のような規模の数字は多いが、図でない表示と比べた数字はほとんどなかった。 比べた資料が見つかったのは、政府や規制当局が表示の設計を決めるために行った実験と調査、そして学術研究である。 以下では、価値の種類ごとに、比べた資料があればそれを先に置き、規模の数字と作り手の説明を重ねる。

すぐ分かる:理解と速さ

米国 FDA は 2024 年、包装の前面に置く栄養表示の案を 9,200 人のオンライン実験で比べた(U.S. Food and Drug Administration 2024)。 飽和脂肪、ナトリウム、添加糖のそれぞれに「低」「中」「高」の評価の言葉を添えた表示が、健康的な食品を見分けさせる点で全体として最もよく、数値と 1 日の目安量に対する割合だけを示す表示は、栄養素の水準を正しく言い当てにくかった。 FDA は、評価を添える表示が栄養の中身の理解に最もよく効くことは先行研究でも明らかだと書いている。 ただしこの実験は表示どうしを比べたもので、表示のない条件とは比べていない。

米国 FTC は 2006 年、家電の省エネラベル(EnergyGuide)の案を約 4,000 人の調査で比べた(Federal Trade Commission 2007)。 星の数のような段階で効率を示すラベルを見た人の 82% が冷蔵庫を効率の順に正しく並べ、現行のラベルでは 72%、運転費を示すラベルでは 71% だった。 1 台ごとの運転費や消費電力を問う質問では、どのラベルでも 80% 以上が正しく答えた。 段階の表示は「どれが良いか」を比べる問いに強く、数値の表示は「いくらか」を問う質問に強いと読める。 この調査には、ラベルを使わず表と文章だけで情報を示す対照の条件もあったが、その条件との差は今回読んだ範囲では確かめられなかった。

日本の気象庁は 2022 年 6 月、大雨の危険度を地図に色で示すキキクルの色を改め、警戒レベル 4 相当の二つの紫を一つの紫にまとめ、レベル 5 相当に黒を新しく設けた(気象庁 2022)。 キキクルの色を避難の警戒レベルの色と一致させ、紫が出たら速やかに避難する判断を求めている。 気象庁と国土交通省は 2024 年のとりまとめで、5 段階の警戒レベルは、災害の危険度と取るべき行動を住民が直感的に理解できるよう導入したと書いた(気象庁と国土交通省 2024)。 色を変えたことで避難がどれだけ変わったかを測った数字は、今回の資料にはなかった。

作り手も、速く分かることを図の価値に挙げている。 気候のストライプを作った Ed Hawkins は、1 本の縞を 1 年の気温とし、ほかの余計な情報をすべて取り除いたので、気温の変化が単純に、否定できない形で見えると書いた(Hawkins 2018)。 視覚の働きが、考えなくても縞を読み取ると語っている(NCAS 2018)。

多くの人に届く:伝達と関与

図は、文章だけでは届かない規模で読まれた。 図の作成ツール Datawrapper によると、ドイツのニュース局 ntv の埋め込みの図の閲覧は、COVID-19 の前には月 5,000 万回ほどが最高だったが、2020 年の 3 月と 4 月には 17 億回に達した(Datawrapper 2020)。 Financial Times の John Burn-Murdoch は、感染の推移の図を集めたページが、同紙の史上最も閲覧されたページになったと語った。

図は、作り手の手を離れて広がった。 ニュージーランドの微生物学者 Siouxsie Wiles と漫画家 Toby Morris が 2020 年 3 月に公開した「Flatten the Curve」の動く図は、3 日で 1,000 万回を超えて表示され、首相が 3 月 14 日の記者会見で使った(Wiles et al. 2023)。 二人は改変と翻訳を許す条件で 70 本を超える図を公開し、ボランティアが各国の言葉に訳した。 Morris は、何かをしている人を見せるほうが、そのことを言葉で伝えるより効果的になりうると語っている。

データの物語を図で伝える The Pudding の Matt Daniels は、データと図を持ち込むことで、文章だけの記事より大きな話ができると語った(Bertini and Stefaner n.d.)。 Gapminder 財団は、統計を動くバブルチャートで見せるソフト Trendalyzer を作り、2007 年に Google に買われた(Gapminder n.d.)。

行動が変わる:選ぶ、使う量を減らす

図は、選ぶものを変えた。 色分けと警告の栄養表示を扱った 156 件の研究のネットワークメタ分析では、信号の色で示す表示によって、より健康的な商品を選ぶ確率がオッズ比で 1.5 倍になった(Song et al. 2021)。 英国のスマートメーターの初期の導入では、宅内表示(In-Home Display)を備えたスマートメーターの家庭が、従来のメーターの家庭より電力を 2.3%、ガスを 1.5% 少なく使った(Department of Energy and Climate Change 2015)。 報告は、よく設計された宅内表示がエネルギーへの意識と理解を高め、消費の削減を促すことと、信号の色でその場の使用量を示す表示を家庭ごとの使用量の幅に合わせることの価値を挙げた。 英国政府は 2026 年の協議文書で、スマートメーターと宅内表示による持続的な削減を電力 3%、ガス 2.2% としている(Department for Energy Security and Net Zero 2026)。 二つの数字は対象と定義が違い、つなげて読むことはできない。 またどちらも、表示の図そのものの効果ではなく、メーターと表示と説明をまとめた効果である。

効果は小さく、条件に左右される。 エネルギーの使用量のフィードバックを扱った 42 件のメタ分析では、効果は全体として相関 0.071 と小さく、研究によって -0.080 から 0.480 まで散らばり、頻度、媒体、比較の示し方、期間などで変わった(Karlin et al. 2015)。 このメタ分析のフィードバックには図でない形式も含まれていて、図だけの効果は切り出せない。

異常に気づく:安全と運用

トヨタ生産方式のアンドンは、設備が止まると表示板が点灯して異常を知らせ、人は異常のときだけ対応すればよく、設備を見張る必要がなくなるとトヨタは説明している(Toyota Motor Corporation n.d.)。 ここでの価値は、正常なときには何も見なくてよいことにある。

続けて使われる:製品の体験

個人のデータを図にした体験は、製品の利用を広げた。 Spotify が 1 年の聴取を図と短い物語で見せる Wrapped は、2015 年の前身では 500 万人が使い、2023 年には 2 億 2,700 万人の月間利用者が関わった(Spotify 2024)。 2025 年の Wrapped は、キャンペーンの終わりまでに 3 億人を超える利用者が関わり、56 の言語で 6 億 3,000 万回を超えて SNS で共有された(Spotify 2026)。 Apple Watch のアクティビティリングを設計した Jay Blahnik は、最終のリングを、単純で、見やすく、目で見て動機づけられ、楽しいものと説明した(Engadget 2015)。 Apple は、1 月の最初の 2 週間に利用者の 60% 超が運動の時間を 12 月の平均より 10% 超増やし、その約 8 割が 1 月後半まで続けたと公表している(Apple 2026)。 これは観察の数字で、リングという図がなかった場合との比較ではない。

Pentagram のパートナー Giorgia Lupi は、インフォグラフィックはすでに頂点に達し、次の可視化は個人に寄り添うものになると書いた(Lupi n.d.)。 Wrapped やリングは、データを本人の生活の図として返すことで、共有と継続を生んでいる。

信頼を保つ、または損なう

図は、信頼を保つ道具にもなる。 英国の統計規制機関は、ケンブリッジ大学 Winton Centre の研究を引き、時系列の数字に誤差棒や扇形の幅で不確実性を図示しても、数字と作り手への信頼は保たれたと書いた(Office for Statistics Regulation 2022)。

同じ機関は、誤解を招く図を名指しで正してきた。 英国の財務省が 2023 年に投稿したインフレ率の棒グラフは縦軸が 8% から始まり、減速の大きさについて誤った印象を与えると指摘し、棒グラフの縦軸は 0 から始めるべきだとする政府の分析職の指針を示した(Office for Statistics Regulation 2023)。 英国統計局の議長は同じ年、ある政党が成長率の予測を示した図について、硬貨の山も国旗も予測を縮尺どおりに示していないので誤解を招くと書いた(UK Statistics Authority 2023)。 書簡は、データの視覚化の大事な役割はデータの理解を助けることだとしている。

図が価値を生まない、または逆に働くとき

図は誰にでも読めるわけではない。 Pew Research Center の 2015 年の調査では、砂糖と虫歯の関係を示す散布図を正しく読めた米国の成人は 63% だった(Pew Research Center 2015)。 2013 年の調査で、2008 年以降の株価の推移を四つの図から選ぶ問いに正しく答えたのは 21% で、その回の問いで最も難しかった(Pew Research Center 2013)。

図は、読まれ方を誤ることもある。 米国ハリケーンセンターの予報円は、熱帯低気圧の中心が進みそうな経路を示し、過去 5 年の予報の誤差の 3 分の 2 が円に入るように大きさを決めている(National Hurricane Center n.d.)。 しかし NOAA の委託による文献レビューは、予報円を、熱帯低気圧の情報の中で最も見られ、最も誤解される図かもしれないとした(Eastern Research Group 2019)。 2004 年のハリケーン Charley では、聞き取りに答えた約 100 人の 90% 超が、ハリケーンはタンパに来ると聞いていて、自分たちも被害を受けうると気づいたときには備えが間に合わなかった。 同じレビューは、中心線を含む図を見た人のほうが、円だけを見た人より備えの水準が高かったという実験も紹介している。 ハリケーンセンターの責任者は、円には中心がどこへ動きそうかという大まかな情報を伝える価値が残るとしつつ、急いで直さず証拠を待つと述べた(WLRN 2022)。

図が説得力を高めるという話も、確かではない。 内容の乏しいグラフを添えるだけで薬の効果を信じる人が増えたという研究があったが(Tal and Wansink 2016 の要旨)、Dragicevic と Jansen が二つのクラウドソーシングで行った追試では再現せず、図を添えた文章は文章だけより説得的ではなく、ときに説得力が下がった(Dragicevic and Jansen 2018)。 追試は、図が理解を助けた可能性はあるが、効果はおそらくとても小さいとしている。

生成 AI が作る図は、まだ正確さが足りない。 GPT-3.5 Turbo と Llama 3.1 70B に図を作らせた 2024 年の研究では、言語モデルが作った図は、元の図ほど正確に質問に答えられる図にならなかった(Ford et al. 2024)。 2026 年の研究は、画像と言語を扱うモデルが、縦軸の切り詰めなどで歪めた図に今も引きずられやすいとしている(Mahbub et al. 2026)。

なぜ図は効くのか

ここまでの資料から、二つの仮説を立てられる。 どちらも直接に測った資料はなく、複数の資料が同じ向きを指している段階である。

一つめに、図の価値は絵であることより、比べる基準と評価を視覚の符号に載せ、見る人の計算を肩代わりするところから生まれる。 FDA の実験で効いたのは、数値に「低」「中」「高」の評価を添えた表示で(U.S. Food and Drug Administration 2024)、FTC の調査で順位づけに強かったのは、効率を段階で示したラベルだった(Federal Trade Commission 2007)。 キキクルは、色を避難の警戒レベルという行動の基準にそろえた(気象庁 2022)。 宅内表示の信号の色も、家庭ごとの使用量の幅という基準に合わせることが求められた(Department of Energy and Climate Change 2015)。

学術の側では、Larkin と Simon の要旨が、図は情報を位置で整理し、必要な推論を一か所にまとめることが多いので、文章と情報が同じでも計算の効率が違うと述べている(Larkin and Simon 1987)。 Franconeri らの総説の要旨は、図から全体の統計を取り出すのは速いが、値の部分どうしを比べるのは遅く、効く図は作業記憶に負担をかけないと述べる(Franconeri et al. 2021)。 健康のリスクの伝達では、Garcia-Retamero と Cokely の系統的レビューの要旨が、よく設計された視覚の補助は多様な人の判断を助けると述べている(Garcia-Retamero and Cokely 2017)。

この見方に立つと、比べる基準のない図や、基準が誤っている図(縦軸が 8% から始まる棒グラフ)が価値を失い、逆に害を生むことも説明できる。 この仮説が誤りなのは、同じ評価の基準を文字や数字だけで示しても、図と同じだけ判断が速く正確になる場合である。

二つめに、図の価値は、作り手の編集と読み手の読む力の両方に依存する。 Hawkins は余計な情報をすべて削ったことを価値の源に挙げ(Hawkins 2018)、Morris と Wiles も要点を明確にしない要素は削るよう勧めている(Wiles et al. 2023)。 一方で、散布図を読めるのは 63% で(Pew Research Center 2015)、予報円は作り手の意図(中心の経路の不確かさ)と違う意味(影響の範囲)で読まれた(Eastern Research Group 2019)。 Spiegelhalter らは、図の効果が受け手の数を扱う力に依存することは明らかだが、種類の違う図がどう処理されるかについての実験の証拠は限られていると書いている(Spiegelhalter et al. 2011)。 Kong らの研究の要旨は、図と矛盾するタイトルを付けても多くの人が図を公平なものと受け取り、図の要点の記憶はタイトルに沿いやすいと述べる(Kong et al. 2019)。 図は、読み手に解釈を任せるほど、作り手の意図から離れて読まれる。 価値を確かなものにするのは、評価の言葉や基準線のように、読み方を図の中に書き込む作り手の編集である。

この整理が当てはまらないところ

図とそれ以外の表示を比べた資料は、栄養表示(FDA)と省エネラベル(FTC)の実験と調査、学術研究に限られた。 FDA の実験は表示どうしの比較で、表示のない条件や表と文章だけの条件との差は示していない。 閲覧数、共有数、利用者数は、図の価値の規模を示すが、図でなければその数にならなかったことは示さない。 宅内表示、Apple のリング、エネルギーのフィードバックの数字は、図だけの効果を切り出していない。 記憶に残ることの価値(Borkin ほか 2013 の要旨は、色や人が見分けられる物体が記憶を高めるとする)は、産業界の資料では見つからなかった。 日本の資料は、気象庁の色の設計と目的の記録だけで、効果を測った数字は取れなかった。

関連ノート

未検証事項

主要主張に未検証の記述は残していない。 到達できなかった資料(英国 Food Standards Agency の信号色の栄養表示の評価、EU のエネルギーラベルの再尺度化の評価、資源エネルギー庁の統一省エネラベルの調査、FDA の『Communicating Risks and Benefits』、NICE の意思決定支援の指針、消費者庁の栄養成分表示の調査、気象庁の色の変更の効果の測定値)は、台帳に試行した経路とともに記録した。

参照文献

Footnotes

  1. 出典の層は、公的機関と規制当局(T1)、企業と調査機関の公表値(T2)、図の作り手の発言(T3、developer-voice)に分け、学術は理由の補助として別に扱った。企業の公表値は自社の発表で、定義や分母が開示されていないものがある。学術文献のうち本文を取得できなかったものは、要旨の範囲で帰属をつけて使った。台帳は source/review/dataviz-value-types/industry.md にある。 ↩


書いた人:小川 修一郎(Design Researcher / Consultant) 経歴を見る →