ノート · updated 2026-10-11
ネットワーク科学とデザイン学はどう関わってきたか(学術研究から)
ネットワーク科学とデザイン学の関係を、デザイン研究がネットワークの方法をどう使ってきたか、ネットワーク科学の側が「デザイン」という語をどう使ってきたか、両者の接点と限界、の三つから文献で整理した。二つの流れは、1960 年代の同じ問い(複雑な全体をどう部分に分けるか)から出ている。
目次(7)
この wiki の引用ネットワークは、公開 note が引いた文献を点にし、同じ note に並んだ組を線にして描いている。 描き方の文献は ネットワークをデータアートとして描く方法:配置、束ね、時間、流れの文献 に、数え方は この wiki の引用ネットワーク:note をハイパーエッジとみなした分析と作品 にまとめた。 そこで扱わなかった問いがある。 描く道具を作った側の学問(ネットワーク科学)と、この wiki が主に扱う学問(デザイン学)は、互いをどう使ってきたのか。 デザイン研究はネットワークの方法で何を測り、ネットワーク科学は「デザイン」という語で何を指し、二つはどこで出会い、どこで限界にぶつかったのか。 要旨だけで確かめた文献は、引用の括弧に「要旨」と添えた。 どこまで読んで確かめたかは、文献ごとにコーパスの検証証跡に残した。
同じ問いから出た二つの流れ
二つの流れは、1960 年代の同じ問いから出ている。 複雑な全体を、どう部分に分けて扱うかという問いである。 Simon は 1962 年に、階層をなす系はほぼ分解可能(nearly decomposable)な性質を持つと論じた(Simon 1962)。 ほぼ分解可能な系では、各部分の短い時間のふるまいは他の部分からほぼ独立で、長い時間で見ても、ある部分は他の部分のふるまいの総和を通じてしか影響を受けない。 Simon はこれを部屋ごとに仕切られた建物の温度で説明し、部分の間の結びつきを並べた行列が、対角線に沿った正方形の塊の外では 0 か小さい値になる形として示した。 部分の内側の結びつきは部分の間より強いので、階層として表してもほとんど情報が失われない、というのが Simon の議論である。
Alexander は 1964 年の『形の合成に関するノート』で、設計の要求をグラフに表し、そのグラフを関わりの少ない部分に分けて解く方法を示した(Gabriel 2023)。 Gabriel は、Alexander がこの方法のために書いた分割のプログラム(HIDECS)の報告を読み直し、要求を「頂点」、要求どうしの関わりを「リンク」と呼び、境界をまたぐリンクの少ない二つの集合へ分けることを繰り返して二分木を作る方法だったことを確かめた(Gabriel 2023)。
ところが Alexander は、翌年の「都市はツリーではない」で、この方向から離れた。 Alexander は、長い時間をかけておのずとできた都市(シエナ、リヴァプール、京都、マンハッタン)と、設計者と計画者が意図して作った都市を分けた(Alexander 1965)。 そして、多くの設計者は都市をツリー(どの二つの集合も、一方が他方に含まれるか、まったく重ならない構造)として考えてきたが、自然な都市の構造はどの場合もセミラティス(重なり合う二つの集合の重なりも、また一つのまとまりになる構造)だと論じた。 Alexander の数え方では、20 の要素から作るツリーが含みうる部分集合は 19 までだが、セミラティスは 100 万を超える。 友人や知人の関係もツリーではなくセミラティスをなす、と Alexander は書いている。 Gabriel は、Alexander がこの論考で、複雑な設計の問題を重ならない木の構造にきっぱり分けること自体を否定し、1971 年のペーパーバック版の序文でもその否定を繰り返したと整理した(Gabriel 2023)。
Alexander の論を、グラフ理論の側から点検したのが Harary と Rockey である。 二人は、都市をグラフの理論で分析した Alexander の試みの価値を認めつつ、その論証と結論の一部を退け、都市はツリーでもセミラティスでもないと結論した(Harary and Rockey 1976、要旨)。 都市の複雑さは、当面は特定の性質を持つグラフでは捉えきれず、何でないかという否定の記述で理解するほうが早いかもしれない、とも述べている。
デザイン学の側では、この時期の形式的な方法そのものへの反発が起こった。 Cross の整理では、1960 年代の設計方法の運動は Simon の「設計の科学」の呼びかけで一つの頂点を迎えたが、1970 年代には運動の先駆者の一部が離れていった(Cross 2001)。 Cross は、Alexander が「設計方法」と呼ばれるものには建物の設計に役立つことがほとんどないと述べ、「忘れてしまえ、全部忘れてしまえ」と語った言葉を引いている。 同じ時期に Rittel と Webber は、計画の問題は確定した定式化を持たず、解けたと言える止める規則もない厄介な問題(wicked problems)だと論じた(Rittel and Webber 1973)。 Cross はこれを、科学と工学の方法が扱う「おとなしい」問題と設計と計画の問題を分ける議論と位置づけ、そのあとに Schön が「設計の科学」の運動の実証主義に異を唱えたことを挙げて、設計の省察的な実践に基づく分野としてのデザインを論じた(Cross 2001)。
デザイン研究はネットワークで何を測ってきたか
デザイン研究がネットワークを使ってきた場は、主に四つある。 製品と組織の構造、設計の過程、都市の街路、チームと分野そのものである。 Chen らは、工学設計のネットワークの研究を、製品とシステムのアーキテクチャ、設計の意思決定と設計者のつながり、製品と設計の過程が置かれる市場や制度という三つの領域に分けた(Chen et al. 2018)。 同じ論考は、ネットワーク科学の応用はこれまで複雑な系の仕組みを理解することに偏り、その理解を工学の道具として使うことは少なかったと書いている。
製品と組織の構造
設計の依存関係を行列で表す方法は、Simon の行列と同じ形をしている。 Steward は 1981 年に、互いに決め合う設計の変数には循環があり、従来の工程計画の方法ではこれを扱えないとして、依存関係を行列で整理し、どこで見積もりを使い、どこで繰り返すかを決める方法を示した(Steward 1981、要旨)。 Browning はこの設計構造行列(design structure matrix、DSM)の使われ方を、部品のアーキテクチャ、チームの組織、作業の日程、設計のパラメータの四つに分けて整理した(Browning 2001、要旨)。
この流れは、やがてグラフ理論と社会ネットワーク分析の指標を取り込んだ。 Sosa、Eppinger、Rowles は、製品を部品のネットワークと見て、中心性の考えから部品ごとのモジュール性を測る三つの指標を定義し、商用の航空機エンジンに当てた(Sosa et al. 2007、要旨)。 部品のモジュール性と再設計の関係は、部品をつなぐインターフェースの種類によって変わったという(Sosa et al. 2007、要旨)。 同じ著者らは同じエンジンの開発で、製品の設計上のインターフェースが開発チームの間のやり取りにどう対応しているかを調べた(Sosa et al. 2004、要旨)。 組織と系の境界は、インターフェースの強さと間接のやり取りが対応に与える影響を変え、その働きは系のモジュール性によって異なったという(Sosa et al. 2004、要旨)。 製品の構造と組織の構造が鏡のように対応するという考えは、ミラーリング仮説として検証されてきた。 Colfer と Baldwin は 142 件の実証研究をレビューし、産業と企業の研究では鏡像は多く見られるが普遍的ではなく、主にソフトウェアのオープンな協働プロジェクトの研究は仮説を支持しなかったと報告した(Colfer and Baldwin 2016、要旨)。
ネットワーク科学の統計の道具を、そのまま製品開発に当てた研究もある。 Braha と Bar-Yam は、分散して問題を解く人のネットワークが、疎で、スモールワールドで、スケーリングの領域を持つ点で、情報、生物、技術のネットワークに似ていると報告した(Braha and Bar-Yam 2004、要旨)。 入ってくるリンクの分布は出ていくリンクより低いところで鋭く切れ、二人はこの非対称を、各人が他人の情報を処理する容量と情報を送る容量の違いに関係づけた。 二人は製品開発の組織の情報の流れのネットワークも分析し、その構造がほかの社会、生物、技術のネットワークと似た性質を持つと述べた(Braha and Bar-Yam 2007、要旨)。
設計の過程
設計の過程そのものも、ネットワークとして記録されてきた。 Goldschmidt のリンコグラフィ(linkography)は、設計者の考えを小さな「設計の手」に分け、手と手のつながりをリンクとして書き出す記法で、リンクの集まる「決定的な手」に注目する(Goldschmidt 2014、出版社の紹介文)。 Smith らによれば、従来のリンコグラフィは人が手とそのつながりを一つずつ符号化するので時間がかかり、大きな規模ではあまり使われてこなかった。 Smith らは、意味の近さを計算するモデルで記録からリンコグラフを自動で作る方法を示し、画像生成のプロンプトの履歴などに当てた(Smith et al. 2025)。
Kelly と Gero は、設計者 17 人が二つの課題に取り組んだ発話の記録から、LLM で概念を取り出し、語のベクトルで概念をまとめ、グラフを作ってネットワークの指標を求める方法を示した(Kelly and Gero 2025)。 二人はこの指標を、設計者が問題をどう捉えるか(デザインのフレーミング)の研究と、質的な分析の補助に使えるとしている。 工学設計の研究全体では、Han らのサーベイによれば、WordNet や ConceptNet のような工学以外のデータから作られた意味ネットワークが主に使われてきて、特許や技術文献から工学向けのものを作る試みが出てきた段階である(Han et al. 2021)。
都市の街路
建築と都市のデザインでは、Hillier らの space syntax が、街路網の配置をグラフとして測ってきた。 Hillier らは、歩行者と車の流れを生む主な要因は、土地利用の引きつけよりも街路網の配置そのものだという証拠を示し、配置の指標の中では「統合度」(integration)が一貫して最も重要だったと報告した(Hillier et al. 1993、要旨)。 要旨は、よく使われる都市の空間を設計したいなら、ある空間の局所の性質よりも、より大きな都市の系との配置の関係が主に重要だという含意を述べる。
ネットワーク科学の側からも、同じ街路網が分析された。 Porta、Crucitti、Latora は、ある場所がほかより中心的だという考えは、都市研究で使われる前に構造の社会学で生まれたと指摘し、街路網の中心性を、位相ではなく距離の枠組みで、複数の指標を併せて測る方法を提案した(Porta et al. 2006)。 Crucitti らは、交差点を点、街路を線とするグラフで世界の都市の街路網を四つの中心性で分析し、計画された都市と自己組織化した都市は二つの異なる普遍クラスに分かれ、自己組織化した都市は空間を持たないネットワークの次数分布に似たスケールフリーの性質を示したと報告した(Crucitti et al. 2006)。 Alexander が 1965 年に分けた「おのずとできた都市」と「意図して作った都市」が、ここでは中心性の分布の違いとして測られている。
チームと分野
設計するチームの関係も、社会ネットワークとして調べられてきた。 Sosa はソフトウェア企業の開発部門のソシオメトリック調査から、幅の広い知識の領域を運ぶ二者の結びつきは、やり取りが十分に頻繁なとき創造的なアイデアにつながり、二者と共通の知り合いの結びつき(まとまり)は平均を超えると逆効果になると報告した(Sosa 2011、要旨)。 Ball と Lewis は、個人の能力と、中心性や密度のようなチームのネットワークの構造から、大規模な協働設計の潜在力を評価するシミュレーションの枠組みを示した(Ball and Lewis 2018)。
デザイン研究という分野そのものも、ネットワークで描かれた。 Chai と Xiao は、Design Studies に 1996〜2010 年に載った 459 本の論文の 12,107 件の引用を、論文単位の共引用のネットワークで分析し、中心の主題が設計の過程と設計の認知にあり、近年は発話のプロトコル分析が広がっていることを示した(Chai and Xiao 2012、要旨)。
ネットワーク科学は「デザイン」をどう使ってきたか
ネットワーク科学は、2018 年の Chen らが「この 20 年」で現れた学際分野と書くように、1990 年代の終わりから広がった研究の流れである(Chen et al. 2018)。 Newman は 2003 年の総説で、Watts と Strogatz の 1998 年の論文に触発された、異なる分野のネットワークを比べて共通の性質を探す研究を、この流れの主な柱の一つに挙げた(Newman 2003)。 同じ総説は、グラフ理論は Euler 以来の長い歴史を持ち、社会学では質問紙から人の関係を再構成してきたが、近年は関心が一つの小さなグラフと個々の点の性質から、大きなグラフの統計的な性質へ移ったと整理している。 その原動力は、何百万、何十億の点を持つネットワークのデータを集めて分析できるようになったことだった。
この分野で「デザイン」は、まず設計者のいない系の性質を指す語として使われた。 Milo らは、ランダムにつなぎ替えたネットワークより有意に多く現れる結線の型をネットワークモチーフと呼び、複雑なネットワークの構造上の設計原理を明らかにするために、生化学、神経、生態、工学のネットワークでこれを探した(Milo et al. 2002、要旨)。 Kashtan と Alon は、生物のネットワークがほぼ独立に働く単位に分けられる作りになっているのはなぜかを問い、いくつかの部分目標を組み合わせた目標を切り替えながら進化させると、モジュール性とモチーフが自然に生じることをシミュレーションで示した(Kashtan and Alon 2005、要旨)。 要旨は、この結果が工学の系を進化的に設計する方法の改善にもつながりうると述べる。 Csete と Doyle は、先端の技術と生物は物理的な作りが大きく違うのに系の水準の組織ではよく似ており、どちらも不確かな環境に対する頑健さの要請から、階層をなすモジュールとフィードバックの構造に収束していると論じた(Csete and Doyle 2002、要旨)。
「デザイン」は、設計された系と自己組織化した系を区別する語としても使われた。 Carlson と Doyle は、自然選択か工学の設計によって最適化された系では、収穫、資源の費用、危険への耐性のトレードオフが、まれな大事故を許す設計を生み、それがべき乗則の分布になるという機構を HOT(highly optimized tolerance)と名づけた(Carlson and Doyle 1999)。 二人はこれを、べき乗則の起源として広く唱えられていた自己組織化臨界と対比している。 Solé らは逆の方向から、生物のネットワークは寄せ集めの改変(tinkering)でできたはずなのに、通信を最適化したような限られた形に落ち着いていること、技術のグラフは設計されたものなのに、内部の制約と寄せ集めの改変が大きく効いていることを指摘した(Solé et al. 2002、要旨)。
制約の下で費用と性能を釣り合わせることとしての「デザイン」は、空間に置かれたネットワークで測られた。 Gastner と Newman は、ガスのパイプラインや下水道のような実際の分配ネットワークが、総延長(費用)と経路のまっすぐさ(効率)の両方で最適に近いことを示した(Gastner and Newman 2006)。 二人は、これらのネットワークは最初から全体の最適を目指して設計されたのではなく、根から外へ育つ過程でできたとして、その成長のモデルを二つ提案している。 Tero らは、粘菌(Physarum polycephalum)を東京の位置に置き、関東の主な都市の位置に餌を置いて育て、粘菌が作るネットワークの効率、障害への強さ、費用が実際の鉄道網に匹敵することを示し、この適応的な形成の仕組みを数理モデルにした(Tero et al. 2010)。 論文の題は「生物に倣った適応的なネットワークの設計の規則」である。
インターネットの研究では、設計の制約を無視したモデルが批判された。 Li らは、ルータの接続の構造を、経済と技術の制約にいくらかの偶然が加わった工学の系としてではなく、ランダムなネットワークの一つとして扱う見方を批判した(Li et al. 2005)。 二人は、同じ次数の並びを持つグラフの中で、技術の制約、通信の需要、回線の費用を明示的に組み込んだ注意深い設計の過程だけが高い性能のネットワークを生むことを示した。
今回集めたネットワーク科学の文献では、「デザイン」は制約の下で費用、効率、頑健さを釣り合わせる最適化を指している。 その最適化をしたのが自然選択か、設計者か、成長の過程かは、研究によって異なる。 これは Simon が呼びかけた「設計の科学」の考え方に近く、Rittel と Webber が論じた、問題の定式化そのものが定まらない設計の問題とは別のものを扱っている。
ネットワークを描くことは誰の判断か
二つの分野がもっとも近づくのは、ネットワークを描くときである。 Newman は、数十、数百の点のネットワークなら点と線の絵を描いて構造を読むことがネットワーク分析の主な方法の一つだったが、百万の点のネットワークではこの方法は使えず、統計の方法が要るようになったと書いている(Newman 2003)。 ネットワーク科学が統計へ進んだあとも絵を描いて読む実践は残り、その絵の作り方は、人が読むための設計の問題として研究されてきた。
グラフ描画の分野では、配置の美的基準(辺の交差を減らす、折れ曲がりを減らす、対称にする)を満たせば理解しやすくなると、アルゴリズムの設計者は考えてきた。 Purchase はこの前提を人の読み取りの実験で確かめ、五つの基準の中では辺の交差を減らすことが群を抜いて重要で、折れ曲がりと対称性の効果は小さく、辺の間の角度と格子への配置の効果は統計的に有意でなかったと報告した(Purchase 1997、要旨)。 Ware らは、これらの基準がほとんど検証されないまま公理として扱われてきたと指摘し、ばねモデルで配置したグラフの最短経路を探す課題で、経路の長さの次に、経路をできるだけまっすぐ保つ連続性と辺の交差が効くことを示した(Ware et al. 2002、要旨)。
力学配置の道具を作った側も、配置を設計の選択として説明している。 Jacomy らは、Gephi の既定の配置アルゴリズムである ForceAtlas2 について、理論上の進歩ではなく既存の技法を組み合わせたものだと断ったうえで、利用者の体験に合わせて連続的に動くように設計したことと、どの制約からどの選択をしたかを説明した(Jacomy et al. 2014)。 Venturini、Jacomy、Jensen は、力学配置の絵の見た目の性質を位相の性質の代わりに読む実践は直観に頼ったままだとして、読み方の指針を示した(Venturini et al. 2021、要旨)。 三人は、絵に残る曖昧さが、適切に解釈すれば探索の分析の資源になりうると論じる一方で、表されている現象に由来する曖昧さを、多次元の対象を二次元に押し込むことによる歪みから切り分ける試みは、部分的にしか成功しなかったと述べる(Venturini et al. 2021、要旨)。
借りた道具の限界
デザイン研究が借りた知見のうち、スケールフリーの普遍性は大きく揺らいでいる。 Broido と Clauset は、社会、生物、技術、交通、情報の約 1000 のネットワークに厳しい統計の検定をかけ、強い意味でスケールフリーなネットワークはまれで、多くのネットワークでは対数正規分布がべき乗則と同じかそれ以上によく当てはまることを示した(Broido and Clauset 2019)。 Keller は、べき乗則の分布は多くの機構で簡単に生まれるので、それが系の詳細によらない普遍的な構造を示すとは言えず、構造はその系の実際の制約で決まると論じた(Keller 2005、要旨)。 Li らも、スケールフリーのグラフには一貫した定義がなく、インターネットと生物についての有名な主張のいくつかは誤りだと論じた(Li et al. 2005)。 Braha と Bar-Yam が製品開発のネットワークに見たスケーリングの領域や、Crucitti らが自己組織化した都市に見たスケールフリーの性質は、こうした厳しい検定が出る前の報告である。
ネットワークの指標は、何を点と線にするかという表現の選択に左右される。 Ratti は、space syntax を格子状の街に当てると歩行者の経路選択を表すという主張が受け入れにくくなること、二つの理想の街区を歪めると位相の不連続が生じて、一つの配置から矛盾する二つの結果が出ることを示した(Ratti 2004、要旨)。 要旨は、space syntax が拠る位相の表現は計量の情報を捨て、建物の高さや土地利用を扱いにくいと結論する。 Porta らが距離の枠組みで中心性を測る方法を提案したのも、表現の選択についての応答と読める(Porta et al. 2006)。 製品と組織の対応も、ミラーリング仮説のレビューが示したように、多く見られるが普遍的ではない(Colfer and Baldwin 2016、要旨)。
「ネットワーク」という語そのものも、分野によって指すものが違う。 Latour は、アクターネットワーク理論の「ネットワーク」は技術者の意味での技術のネットワーク(下水道、鉄道、電話網)とは別のもので、技術のネットワークはアクターネットワークがとりうる最終的で安定した状態の一つにすぎないと書いた(Latour 1996)。 同じ論考で Latour は、この理論は社会ネットワークの研究ともほとんど関係がないと述べている。 デザイン研究がアクターネットワーク理論を参照するときの「ネットワーク」は、この note で見てきたグラフの点と線とは別の概念として扱う必要がある。
二つの分野の関係
ここまでの文献から、二つの分野の関係は対称ではないと読める。 デザイン研究がネットワーク科学から借りたのは、主に構造を表して測る道具だった。 製品と組織の依存関係、設計の手のつながり、街路網の配置、チームの結びつき、分野の共引用は、どれも人が作ったものか設計の過程の記録を、点と線に写して測っている。 ネットワーク科学の側では、今回集めた文献の範囲で、「デザイン」は制約の下の最適化を指し、その担い手は自然選択か成長の過程であることが多く、設計者が問題をどう定めるかは扱いの外にある。
二つの分野は、1960 年代に同じ問いから出たあと、別の方向に進んだ。 部分の内側を強く、部分の間を弱く結ぶという Simon の分解の考えは、DSM とモジュール性の研究で工学設計の中に形を変えて続き、ネットワーク科学のモジュール性と頑健さの研究とも通じている。 Alexander は分解の方法を自分で否定し、Cross の整理では、デザイン学は Rittel と Webber の厄介な問題と Schön の省察的な実践を経て、設計者に固有の知り方を研究する方向へ進んだ。 デザイン学のこの側の問い(問題をどう定め、いつ止めるか)は、今回集めた文献の範囲では、ネットワークの方法で扱われ始めたばかりに見える。 Kelly と Gero が設計の発話の意味ネットワークでフレーミングを測ろうとしているのは、この隙間に入ろうとする試みと位置づけられる(Kelly and Gero 2025)。
接点としてもっとも具体的なのは、ネットワークを描くことである。 配置の基準は人の読み取りで確かめられ、配置のアルゴリズムは利用者の体験に合わせて設計され、絵の曖昧さは読み手の解釈に委ねられている。 ネットワーク科学の道具の中に、設計者と読み手の判断が戻ってくるのはここである。 この wiki の /network が、同じ共引用の関係から並べ方だけを替えて何通りもの絵を作るのも、この判断を作品の側で見せる使い方にあたる。
研究がまだ答えていないこと
ネットワークの指標(DSM の構造、リンコグラフの形、意味ネットワークの指標)が、設計者の判断の質や設計の結果の良し悪しとどう関わるかを同じ課題で確かめた研究は、今回の収集では Kelly と Gero の方法の提示にとどまった。 デザイン研究が報告したスケールフリーの性質(製品開発のネットワーク、自己組織化した都市)を、Broido と Clauset の検定でやり直した研究は見つからなかった。 デザイン研究の分野全体の共引用の分析は、Design Studies の 1996〜2010 年を対象にした Chai と Xiao のほかに、今回の収集では確かな候補が見つからなかった。
関連ノート
- ネットワークをデータアートとして描く方法:配置、束ね、時間、流れの文献:ネットワークをデータアートとして描く方法の文献
- この wiki の引用ネットワーク:note をハイパーエッジとみなした分析と作品:この wiki の共引用ネットワークの数え方と作品
- デザインの認識論的前提と方法論的基盤:ウィキッド問題・アブダクション・集合ベース探索の文献地図:デザインの認識論と方法論の基礎
- 探索としてのデザインと評価の社会学:機会の開閉をめぐる文献地図非公開:デザインの探索と評価の系譜
未検証事項
主要主張に未検証の記述は残していない。 Simon 1962 は本文の写し(スキャンの文字起こし)で、Alexander 1965 は Thackara 編 1988 年の再録版の第 1 部で、Latour 1996 は著者の英語原稿で確かめた。 要旨だけで確かめた文献は、引用の括弧に「要旨」と添え、要旨に書かれた範囲だけを述べた。
参照文献
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- Braha, Dan, and Yaneer Bar-Yam. 2004. “Topology of Large-Scale Engineering Problem-Solving Networks.” Physical Review E 69 (1): 016113. https://doi.org/10.1103/PhysRevE.69.016113
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書いた人:小川 修一郎(Design Researcher / Consultant) 経歴を見る →